第五十八話 打ち上げと思わぬ再会
「よっしゃあ! 遊び倒すぞー!」
幸太が目を輝かせて、はしゃいでいた。
俺達が打ち上げとして遊びに来たところは、ボーリング、カラオケ、その他色々なスポーツなどが遊べる巨大なアミューズメントパークだった。
最近出来たらしいということでここに決まった。
俺達は先走って進んでいく幸太の背中を眺めていた。
「よほど楽しみだったんだな、あいつ」
「この時のためだけに勉強してたと言っても、過言ではないですからね」
幸太を見ながらそう呟くと、一之瀬が俺の言葉を拾った。
一之瀬は子供を見ているかのように幸太を眺めており、その様子は彼女というよりも保護者といった感じになっている。
「それじゃあ、私達も行きましょう」
「そうだな」
一之瀬と俺が幸太の後に着いて行こうと歩き始めるが、横にいた和奏がどこにもいなかった。
俺が辺りを見渡して探すと、和奏はキョロキョロしながら立ち止まっていた。
「どうした?」
「えっ、その……こういうところにあまり慣れていないので……」
確かに慣れていないと戸惑うのもわかる。
俺がゲームセンターとかに初めて入った時とか何のゲームで遊ぶか悩んで、ずっと中を見て回った経験があった。
初めてきたらどうすればいいのかわからないよな。
「一度二人で来たみたいだし、あいつらについて行けば間違いないだろ。ほら行くぞ」
「はっ、はい」
俺達は一之瀬と幸太に追いつくために、少し急ぎ足で歩き始めた。
幸太達と合流した後、幸太が先導して遊ぶものを決めていく。
最初は全員がルールを知っているもので、簡単にできる卓球やバドミントンをやっていく。
チームはもちろん幸太と一之瀬、俺と和奏になった。
「そりゃ!」
「よっと」
「はい!」
「えっ、えい!」
これは球技が得意な幸太と一之瀬が上手かった。
俺は人並みで和奏はラケットを振るけども、ものにかすりもしない。
どうやら和奏は運動神経は悪くないが、球技に関してはあまり得意ではないようだ。
それからビリヤードといった、あまり馴染みのないものやっていく。
ビリヤードのルールはナインボールだった。
簡単に説明すると、最後に九の数字が入ってるボール落とした人が勝つルールだ。
「九の数字があるボールを落とせば勝ちですか?」
「ああ、そうだ」
「では……」
ここでは逆に和奏以外がまともにできなかった。
ボールをはじくけども、狙ったところに行かないことや、落としてはいけないボールをポケットに落としたりだった。
しかし、和奏だけは狙った球をほぼ確実にポケットに入れていた。
ビリヤードは圧倒的に和奏の独壇場だった。
その後は面白そうなものを全員で適当に選んでいった。
「おーい修司!」
「ああ……幸君! 待ってください!」
ローラスケートに関しては、俺と和奏は初見だったので、流石に自信がないということもあり、二人を眺めていた。
幸太は楽しそう手を振って、俺達の近くまで来た。
追いかけていた一之瀬は、少しフラフラしながらもなんとか滑れていた。
「一之瀬が大変そうだから手助けしてやってくれ」
「え? やば!」
幸太はすぐさま一之瀬の下に行き、手を掴んで転ばないように支えてやっていた。
俺が安心すると、和奏が俺を見て少し笑っていた。
「ぷっ……お父さんみたい」
「あれが息子とか勘弁してくれ」
俺が嫌そうに言うと、和奏はまた笑っていた。
一通り遊びつくして疲れてきたので、最後に休憩がてらカラオケルームに入ることになった。
「盛り上がっていくぜ!」
幸太は終始元気満タンな様子で、カラオケに入っても激しい曲を歌い始めた。
和奏と一之瀬はデュエット曲を一緒に歌って、俺は無難に流行りの曲を歌っていく。
「天ヶ瀬君って、案外音楽とか聴いているんですね」
「俺だって音楽くらい聴く」
「修司は結構音楽とか聴いてるよな。俺が勧めたインディーズのバンドの曲とかも、すぐ聴いてくれたしな」
「……意外」
和奏と一之瀬は幸太の話を聞いて驚いていた。
むしろ聞ながら何かすることが多いから、好きなほうだと思うが……。
そんなことを思っていると、幸太が余計なことを言い始めた。
「修司はこれだけじゃないんだぜ。実はラップの曲とか、めっちゃうまいんだ」
「「え?」」
「おい」
「一回しか聞いたことないんだけど、あれはめちゃくちゃうまかった」
俺が幸太と初めてカラオケに行った時に、幸太が最近人気になったヒップホップを入れた。
それで選曲に合わせて俺もヒップホップを入れたのだ。
テンポがいいので割と好きなのだが、今は言わないでほしかった。
和奏と一之瀬のほうを見ると、二人は期待した目で俺を見ていた。
「絶対歌わん」
俺が飲み物を取りに席を立ちあがると、一之瀬と幸太からブーイングが飛んでくる。
しかし、そんな二人は気にせず部屋を出た。
部屋を出ると、どうにか歌わずに乗り切る方法を考えながら、ドリンクバーの場所に着いた。
そこには考え事も吹き飛ぶような人物が立っていた。
「しゅう……くん?」
「……朝倉」
それは、コップに飲み物を注いでていた幼馴染の朝倉だった。
俺と朝倉は思わぬ遭遇に驚いていて、顔を見合わせながら固まっていた。




