第四十八話 天才(変態)の自己紹介
俺達は会長に連れられて生徒会室に来た。
生徒会室の中に入ると誰もおらず、生徒会室の机の配置が前に来た時と変わっていた。
前は長机が四角を作るように並んでいたが、今は二つの長机が向かい合わせになっていて、その奥に一人用の机が配置にされていた。
そのまま会長が奥にある机に定位置といった様子で座った。
「どこでも好きなところに座ってください」
「えっと……本当にここを使っていいんですか?」
一之瀬が少し不安になりながらもそう聞く。
「はい! ついでに私も一緒に勉強しますし、わかちゃんのお友達なので問題ありません!」
会長の言葉に、俺、幸太、一之瀬の三人が顔見合わせて悩んでいた。
ただ、神代だけは何かを諦めた様子で、俺達から見て右側の奥の席に座った。
おそらくいつも座っている席なのだろう。
一之瀬と幸太はどこに座るか迷っていたので、二人は会長から離れているところのほうがいいかと思って、俺は神代の向かいに座る。
その後、幸太が俺の隣に座って、一之瀬も神代の隣に座った。
「勉強をする前に自己紹介をした方がいいですよね!」
全員が座った後に、会長はそんなことを言ってきた。
ここにいる全員が会長のことを知っているのだから、必要ないような気がするが……。
「私は桜花高校生徒会会長の桐生院玲香です。名前だけでも覚えて行ってください」
いや……覚えるも何も有名人だろ。
「それではまず! ここにガラスのコップと十円玉があります」
唐突に何か始まったんだが……。
会長はコップと十円玉を神代によく見せる。
「今からこの十円玉を何も使わず、コップを貫通させますので見ていてください」
幸太と一之瀬は状況について行けずに、言われるがまま会長を見ている。
神代は……滅茶苦茶ワクワクしてるんですけど!?
神代は目をキラキラさせて、会長の手元にあるコップを眺めている。
「それでは行きます! ワン、ツー、スリー!」
会長は三回目の掛け声で、グラスの中に十円玉を入れる素振りを見せる。
しかし、金属がガラスとぶつかる音がしない。
一之瀬と幸太は不思議そうにしていて、神代は残念な表情をしている。
「あれ? おかしいです……十円玉はどこかに行ってしまいました」
会長が手をコップを机に置いて手を広げて見せるが、十円玉がどこにもない。
「こういうときはですね~」
会長はそう言って、指を鳴らした後に俺の方を見る。
「天ヶ瀬君。上着の右ポケットの中を確認してくれませんか?」
「え?」
俺は会長に言われた通り、上着の右ポケットに手を入れる。
おかしい……上着のポケットには何もいれていなかったはず……。
俺はポケットに入っていたものを机の上に出した。
「嘘だろ?」
「え? どういうことなんですか?」
俺が机の上に出したものは十円玉だった。
幸太と一之瀬は、あまりに突拍子もない出来事で驚いている。
「それじゃあ、わかちゃん。さっきの十円玉と同じか確認してもらってもいいでしょうか?」
「はい!」
めっちゃ楽しそうじゃんあいつ……。
神代はじっくりと十円玉を確認する。
確認が終わると、興奮しながら俺達の方を見る。
「製造年も汚れ方も最初に見たのと同じです!」
「ふふふ、ありがとうございました」
会長がそう言いながら丁寧なお辞儀する。
一之瀬と幸太は呆然としていて、神代は盛大に拍手をしている。
いやいや! そうじゃないだろ!
「会長……なんでいきなり手品なんだ……」
「え? お勉強会ってこういうのじゃないんですか? 皆で話したり、遊んだりするんですよね?」
会長は純粋な表情で、そんなことを聞いてきた。
「……違う……勉強会は本当に勉強をするんだ……」
「またまた~。そんな嘘に私は騙されたりしませんよ?」
この人……本当に勘違いしていやがる。
「は!? もしかして! 騙された私が辱められているところを見たいと! そういうことなんですか!?」
「おい!? 急に俺が変な企みをしているみたいに言うのやめてくれ!」
俺は助けを求めて神代を見る。
神代は俺と視線を合わせないように、全然何もないところを見ていた。
そうだよな! さっきの手品を一番楽しんでたのはお前だもんな!
「やっぱり天ヶ瀬君とは、この手の話を深くする必要がありそうですね!」
もうやだ……この人……。
俺は途方に暮れた視線を幸太と一之瀬に向けた。
しかし、二人は呆然と俺と会長のやり取りを見ているだけだった。
ああ……ここに救いはないようだ。
「つまり天ヶ瀬君は恥ずかしがっている様子に興奮を覚えると、そういうことなんですね!? なかなかにマニアックですね!」
「俺にそんな趣味はない! 全部あんたの妄想が先走っているだけだ!」
「はっ!? どうして私に妄想癖があることを……。もしかして少ない会話で相手の性癖がわかったりするんですか? するんですね! そうなのでしょう!?」
「あーうるせぇ! 俺にそんな特殊技能なんかない! というかこの話をもうやめないか!?」
「いいえ! 天ヶ瀬君の特殊な性癖を知るまではやめられないです!」
ああ……もう勘弁してくれ……。
その後、俺と会長の不毛なやり取りは数十分続いた。




