第四十五話 お隣さんの事前調査と昼食のお返し
「ごちそうさまでした」
「お粗末さまでした」
俺達は食べ終えて食器を片付けると、神代が皿を洗おうとし始めた。
「飯を作ってもらったんだから、皿洗いは俺がするぞ」
「いいの、私がやるから。それよりも着替えて勉強道具を持ってくること! わかった?」
「……お……おう」
神代に押し切られ、俺は勉強道具を取りに自室に戻った。
リビングに戻ると、キッチンで皿洗いをしている神代の後ろ姿に目が行った。
上が白のセーターに黒のボーダーが入っているもので、下がデニムのロングスカートというカジュアルな服装だ。
その様子を見ると今更緊張し始める。
それもそうだろう、学校の高嶺の花と言われている美少女が、俺の家のキッチンで料理や皿洗いなんかしているのだから。
実家にいた時にも朝倉が家にいることなどはあった。
だが小学生までのことで、それに妹もいたため何とも思わなかった。
俺はドッキリかと思って、周りにカメラがないか探してしまう。
「……何してるの?」
「え!? いや……なんでもない」
神代は皿洗いを終えたらしく、そう言って来た。
俺は誤魔化しながら神代のほうを見ると、見慣れない猫のエプロンをつけている。
「そんなエプロン、うちにあったか?」
「これ? いつも自分で使ってるやつを持ってきたの」
「……そうか」
もう半纏といいエプロンといい、最初のイメージとは掛け離れて行っている。
「何よ……」
「いや、可愛いと思ってな」
「ふふ~ん、でしょ? これお気に入りなの!」
俺の感想に神代はご満悦な様子で、得意げな顔をしている。
「さぁ! テスト勉強を始めましょ!」
神代はやる気満ち溢れて、そう言ってきた。
俺は渋々テーブルに座って勉強を始めた。
勉強を始めてから数時間が経った。
最初は現代文や古文、歴史科目系を中心に勉強していた。
それは比較的、そんなに教えてもらわずに取り組めていた。
ところが、英語と数学に手を付けるとわからないところだらけだ。
やべぇ……最近色々ありすぎて、全然勉強してなかったつけが回って来てる……。
俺が頭を抱えていると、神代が聞いてきた。
「天ヶ瀬君……大丈夫?」
「……いや……これは大丈夫じゃない」
完全に二年になって習ったところができていない。
基本問題ならギリギリ解けるが、応用になると途端にわからなくなってしまう。
「……これは本気でやらないと平均より下の点数を取りそうだ」
そう言ったが、実際は赤点ギリギリくらいになるかもしれない。
「う~ん。英語は暗記の部分が多いから小まめにやるとして……数学に関しては基礎はある程度できてるから、応用に慣れるようにすることかな」
「そうだよなぁ……」
まだ中間テストまで二週間とちょっとあるはずなのに、俺は焦り始めていた。
「今日から頑張っていこ? 休みの日は一緒に勉強できると思うから、ね?」
「ああ、そうだな。休みの日は一緒……に?」
「うん。一緒に」
ん? ちょっと理解できないんだが……。
「お礼は今日で終わりじゃないのか?」
「テスト期間はよろしくねって言ったじゃない。そもそも今日は、天ヶ瀬君がどのくらい理解してるのか見に来たの」
「つまり今日は前座ということか?」
「そういうことになるかな?」
いやいや、そこまでしてもらうほどではないんだが……。
「流石に世話になりすぎるから、そこまでしてもらわなくていいぞ」
俺がそう言うと、神代はジト目でこちらを見てくる。
「何? 不満?」
「……いや……そういうわけではないんだが」
「じゃあ、別にいいでしょ。よろしくね?」
神代は嬉しそうな笑顔でそう言ってきた。
「……はぁ……わかった」
そんな顔をされたら、俺は頷くしかなかった。
その後も俺達は勉強を続け、気づけば夕飯時になっていた。
「もうこんな時間か」
「え? ……ほんとだ」
神代はずっと集中していたため、大きく背伸びをした。
「何か食べたいものあるか?」
「え?」
俺がそんなことを聞くと、神代は驚いた。
「天ヶ瀬君が作ってくれるの?」
「ああ、昼の礼だ。なんでもいいぞ」
神代は少し考えて、俺の反応をうかがいながら答えた。
「……それじゃあ……オムライス」
「ソースは?」
「……ケチャップのやつが良いかな」
「それなら卵は半熟じゃないほうがいいか?」
「うん!」
神代の希望を聞くと、すぐさま料理の支度を始める。
冷蔵庫の中を確認すると鶏肉がない。
その代わりにソーセージがあったので、それで代用することにした。
「チキンライスなんだが、鶏肉の代わりにソーセージを使うが問題ないか?」
「ソーセージ? 大丈夫だけど」
「よし」
神代の了承を得ると米を研ぎ、炊飯器で炊き始める。
その間に冷蔵庫から玉ねぎ、ピーマン、ソーセージ、卵四個を取り出す。
玉ねぎ、ピーマン、ソーセージは出来るだけ小さく切って準備し、米が炊けたら適当な皿によそって置いておく。
フライパンに油を引いて熱し、ソーセージを弱火で炒める。
火が通ったら、玉ねぎ、ピーマンを入れて強火で炒め、油に絡まった後、ご飯と塩少々を入れて炒めていく。
良い感じに色が付き始めたら、今度は炒めていたものをフライパンの端に寄せる。
空いたスペースに、ケチャップを大さじ三、ウスターソースを大さじ一を入れて煮立たせる。
煮立ったら全体に炒め合わせていく。
全体にソースが馴染んで色が変わったら、チキンライスもどきの完成。
それを一旦皿に乗せて、フライパンを開けた。
次はボウルに卵を二個と塩少々入れる。
それを表面が細かい泡で覆われるくらいまでかき混ぜる。
先程使ったフライパンを軽く洗っておいて、それにまた油を引いて熱した後、かき混ぜた卵を入れて中火で少し焼いてから火を止める。
その真ん中にチキンライスもどきを入れ、卵の両端で包んでやってから皿に盛り付ける。
最後に空いたフライパンで、ケチャップとバターを混ぜてソースを作る。
その作ったソースをオムライスにかけてやれば完成だ。
「出来たぞ」
俺はオムライスを神代の前に出す。
「わぁ~!」
神代は子供みたいに目を光らせながら、まだかまだかとうずうずしている。
「先に食べていいぞ。自分の分もすぐにできるから」
「ほんと!? えっと、それじゃあいただきます!」
神代はすぐに一口食べた。
「ん~!」
とても幸せそうな顔をしてくれていた。
満足してもらえたことがわかると、俺は安心した。
家族以外に向けて作ったは初めてで、満足してもらえるか不安だった。
とりあえず喜んでもらえてよかった……。
神代の様子を少し眺めた後、俺は自分の分を作り始めた。




