第百五十八話 後輩の気遣い
「昔、私が辛かった時にお姉ちゃんと優君が助けてくれて。他にも私とお姉ちゃんが喧嘩した時には、仲を取り持ってくれたり」
「幼馴染ならではの話っぽいですね!」
最初は信城の好きなところを話していた諏訪妹は、話の流れから信城の良い話を語っていた。
そうやって話していると、諏訪妹が連絡でもあったのか携帯を取り出した。
「あっ、お姉ちゃんから連絡が」
時計を見れば、それなりに時間が経っていた。
「それなら私達もお店を出ましょう」
「そうだな」
俺と和奏がそう言いながら席を立つと、速水が少し残念そうな声を出した。
「え~もうちょっと、お話ししてたかったです~」
「あはは、ごめんなさい。また次の機会に」
話をしていた慣れたのか、諏訪妹は先程までの緊張した様子はなくなっていた。
そして席を立った後、俺と和奏に頭を下げた。
「せっかくの休日だったのに、天ヶ瀬さんの時間を取らせてしまってすみません。神代さんも色々とご迷惑をおかけして」
「あー……誤解を解くことができたから、気にしないでくれ」
「私のことも気にしないでください。楽しいお話を聞かせていただきましたので」
「ありがとうございます」
それから俺達は店を出て、諏訪妹と別れた。
「私達も帰りましょうか」
「そうですねー」
諏訪妹を見送った後、和奏の言葉に速水が同意する。
そして、急に和奏の肩にかかっていたバッグを取って、俺に渡してきた。
「……おい」
「どうせそのつもりだったんですから、いいじゃないですか。優しい天ヶ瀬先輩なら、代わりに持ってくれますよね?」
確かに速水の言う通りで、このまま一緒に帰るなら荷物を代わりに持とうと思っていた。
しかし、考えがこうも見透かされてると、かなり恥ずかしくて、一瞬だけ荷物を受け取るのに躊躇した。
「あれ? どうかしたんですか? 天ヶ瀬先輩」
「いや、何でもない」
俺はそう言って、速水から荷物を受け取った。
「そんなに重い物でもないので、私が持っていても大丈夫ですよ?」
「これでいいんですよ。ほらいきましょ、神代先輩」
和奏は心配そうに俺のほうをチラチラ見ながら、速水と一緒に前を歩いて行く。
そんな和奏に平気だから気にしないでくれと目配せして、そのまま二人に付いて行った。
しばらく歩いたところで、話しながら歩く二人を見ながら、俺はあることに気付いた。
速水って、確か電車通学だったような。
今向かっている方向は少しずれていて、どう考えても駅から遠くなる道を歩いていた。
「なぁ速水、帰りは電車じゃないのか?」
「そうですよ?」
「そしたら遠回りになるんじゃ」
「ああ! それなら大丈夫ですよ!」
俺の言いたいことがわかった上で、速水は満面の笑みを浮かべた。
どういうことがわからず不思議に思うと、代わりに和奏が理由を説明してくれた。
「もうすぐ片桐君も部活を終えるらしく、そのまま一緒に帰えれるので、学校まで行くようです」
「ですです!」
「な、なるほどなぁ」
どうやら速水は一緒に帰るために、片桐を迎えに行くようだ。
ひょっとして速水は気を遣ってくれてるのではと思ったが、そんなことはなかったらしい。
速水の反応から、ただ予定を教えてもらっただけなのに、まるで胸焼けするような惚気話を聞かされてる気分になった。
それから他愛もない話をしながら歩いていれば、学校の近くまで来ていた。
すると、速水が周りを様子を見た後、足を止めた。
「このへんで大丈夫ですかね。天ヶ瀬先輩、そのバッグは私が受け取ります。あっ! 神代先輩、このバッグはこのまま借りて行きますね」
俺は言われた通り、速水にバッグを渡す。
和奏は不思議に思いながら速水に答える。
「いいですけど、何を」
「私は学校の前まで行くんで、私の机に置いとこうかなって。わざわざまた持ってくるのも荷物になると思ったんで」
速水の言葉に和奏の目が鋭くなった。
「私服で生徒が校内に入るのは校則違反ですよ?」
「あははーえっと、そう! 片桐先輩に頼むんですよ! そんな怖い顏しなくても、ちゃんとわかってますよ~」
速水は見るからに今思い出しましたと言った感じで、思いついた方法を述べた。
和奏はその速水の反応が気になっているようだったが、俺は速水に対して別のことを思った。
「ほ、ほら、そんな生徒会役員の私が校則を破るわけないじゃないですか~」
「本当ですか?」
「本当ですよ~あっ! 一馬先輩も部活を終えてる頃だと思うので、私はもう行きますね!」
まるで逃げるように、速水はこの場を離れようとする。
その前に俺は速水に伝える。
「悪い速水、助かる」
「っ、あはは、察しよすぎです。何かあったら、これも使って下さい」
少し驚いた速水だったが、肩にかけていたバッグを俺に見せた後、すぐにいつもの調子に戻る。
「お礼はそうですね~、今度家に招待してください! 二人がどんなところに住んでるのか気になってたんで、一馬先輩と一緒に遊びに行きます!」
「ちょっと!? 速水さん!」
去り際にそう言って、和奏の制止を聞かずに速水は学校の方へと向かって行った。
その背中を見送った後、俺は和奏に言う。
「あいつもかなり世話焼きだよな」
「うん、気配り上手で優しい子だから」
和奏も速水の意図は伝わっていたようで、少し申し訳なさそうにしながらも心の中で感謝しているようだった。
「俺達も帰るか」
「うん」
帰り道を歩き始めて、ふと最後に速水が言っていた言葉を思い出す。
「片桐と一緒に遊びに来るって言ってたけど、冗談だよな?」
「どうだろ? でも、あの言い方だと、全然ありえると思う」
「おいおい、遊べるものなんか家にないぞ」
「皆でご飯でも食べながら話すだけでも楽しいんじゃない?」
楽しみではあるのか、和奏の表情は少しワクワクしているように見えた。
「そうすると、皆で摘まめるほうがいいよなぁ」
「私が思いついたのは、手巻きずしとか楽しそうだなって」
「海鮮だけじゃなくて、変わり種とか用意したら楽しんでくれそうだな」
「でしょ?」
まだ決まっていない予定の献立に花を咲かせながら、俺達は帰宅してその日を終えた。




