第百五十二話 心配する友人と委員長
地震の被害状況は一部の建付けが悪かったものを覗けば、ほとんど倒れたり壊れたりしたものはなく、怪我人も無し。
かなり大きめの地震だと思っていたが、体育倉庫内の棚等が大きく揺れたのは、元々古くなっていた上に建付け悪かったためだった。
偶然が重なった不幸なだけで、地震は大したものではなかった。
しばらくグラウンドに待機した後、安全を確保できたようで、教師達の指示に従って校舎内に戻った。
俺と和奏は一度更衣室で着替えてから教室に戻ると、クラスの大半が心配そうに和奏の周りに集まってきた。
「神代さん、閉じ込められたんだった? 怖くなかった?」
「大丈夫だった? 何処か怪我とかしてない?」
「だ、大丈夫ですから」
和奏は困った様子で集まってきたクラスメイトに心配ないことを伝えている。
俺は集まってくるクラスメイトを避けて集団から抜け出すと、幸太の席が近くだった。
幸太が俺の様子を眺めた後、安心したように笑う。
「戻ってきたときにも見てたけど、怪我とかなさそうでよかったわ」
「心配かけて悪いな」
「あの怪我も影響なさそうか?」
「そっちも特に変なところはないな」
「そっか、まぁ何かあれば言ってくれ」
「ああ、そうする」
幸太と軽く話した後、そのまま自分の席に戻る。
「災難だったねぇ」
「前から思ってたけど、本当に天ヶ瀬は付いてないな」
「うっせ」
席に着くと、戸崎と片桐が変わらない様子のまま声をかけて来た。
「それで、二人とも怪我とかは」
「何も」
「なら、よかった」
片桐の呟いた言葉は俺にとっては意外だった。
「意外だ。俺の心配もしてくれるんだな」
「……一応クラスメイトだからな」
片桐は目線を俺から逸らして、小さく答えた。
何やかんや言い合いをしたりもするが、片桐が良い奴というを再確認する。
「え、何? 急にデレたけど、もしかして二人ってそういう関係?」
戸崎はニヤニヤと笑いながら俺達を交互に見て、そんなことを言ってきた。
「全く違う」
「戸崎さん、冗談にしても笑えないかな」
「あはは、ごめんね~」
俺と片桐が即答で否定すると、戸崎が苦笑いをしながら謝った。
それから戸崎が教室の入り口の集団を見て、眉を寄せるながら呟く。
「あんななところで集まってたら邪魔だし、声も他のクラスに聞こえるだろうに……はぁ、ちょっと行ってくる」
戸崎は委員長としてなのか、席を立って注意しながら集団の方に向かって行った。
それから戸崎が何かして散らしていく集団を見ながら片桐に聞く。
「お前は神代のところに行かなかったんだな」
「心配はしてるから、一緒に居た天ヶ瀬に聞いたんだ。あそこに集まられたら神代さんも困るだろうし、一学期初日の件で未だに僕が神代さんと話すとクラスの空気が緊迫するからさ」
「へー色々気を遣ってるんだな」
「そんな関わる事もないから、そこまで気を遣ってるわけじゃないけど」
それだけ言うと戸崎が戻ってくるのを見て、前を向いて友達と話し始めた。
戸崎はため息をつきながら、自分の席に座る。
「ったく」
「お疲れ」
「ありがとう。まだ先生が来てないけど、授業中ってこと忘れてるってどうなの?」
「まぁそれだけ心配だったんだろうよ」
「うーん、気持ちはわかるけど」
納得のいかないような感じで、眉間に皺を寄せたまま戸崎が唸る。
それを横目に見ながら、俺は戸崎に話しかける。
「それにしても、よくあの集団を解散させられたな」
「ああ。それは皆が知りたいことを、あたしが神代さんに質問して全部答えてもらっただけ。それ以上話したければ、あとは授業後でってね」
「無事なことがわかったら、その場に居る理由なんかないもんな」
「そういうこと」
失礼な話だが、今日初めて戸崎が委員長なのを納得した。
二学期で隣の席になってから、緩い空気を持っている奴というイメージだった。
しかし、それとは別にしっかりとした部分も持ち合わせているようだ。
「なんか変な顔してるけど、もしかして意外だと思ってる?」
「いや、そんなことはないぞ?」
平静を装いながら、戸崎の質問に反応する。
本当は内心で意外だと思っていたことは、伏せたままにした。
「そう? あたし的にはそう思ってもらってもよかったけどね」
戸崎は少し残念そうにしながら呟いた。
「どういうことだ?」
「意外って思われれば、今の内に使い分けができてるってことでしょ?」
「使い分け?」
「そうそう。円滑にあたしの話を聞いてくれるように、誰とでも一定のところまでは仲良くするようにしてる。そう言う意味だと、例えば一之瀬さんとかもそうかな? まぁ理由が違うかもだけど」
そう言いながら、戸崎は普段の緩い雰囲気をまとった感じで笑う。
「何処に行っても人と関わらないなんてことはないから、出来るだけ上手く付き合えるようにしてるってこと」
「はー、凄いな」
驚きながら呟くと、戸崎が苦笑いをしながら首を振って否定した。
「いやいや、あたしは臆病なだけだよ。凄いってのは、天ヶ瀬のほう」
何故凄いと言われたのかわからず疑問になる。
戸崎のように先のことを考えたりしてないから、何も凄くはないと俺は思う。
「だって、ぶれないじゃん。こんな極端に人と関わろうとしないなんて、逆に凄いよ。嫌われたり邪険にされても、多分変わらないでしょ?」
「さぁ……わからんな。人と関わるのが面倒ってのは思ってるけど」
ただ自分の体質から逃げてるだけの弱い人間で、戸崎なんかよりもよっぽど臆病だ。
そんなことを思いながら曖昧に答える。
そんな俺を不思議そうに見ていた戸崎だったが、何か思い出したかのような様子になった。
「そうそう。これは定かじゃないけど、神代さんも同じような感じがするんだよね」
「……神代が?」
戸崎の言葉は、まるで目の前に爆弾が投下されたかのようなもので、変な冷や汗が噴き出る感じした。
何とか焦りを表に出さないようにして、ただ驚いたような表情をする。
「あ、そんなマジな感じにとらえないでね? 根拠も証拠もない、ただあたしの感だから」
「あ、ああ。そうか」
この話がすぐに終わったことを安堵して、ばれないように心臓を落ち着ける。
そんなことをしていると、ようやく先生が教室に入って来て、十五分ほどの遅れで授業が始まった。




