第百四十九話 合同練習と片付け
体育の種目合同練習で、遠目に諏訪姉と信城が走っている姿を見ていると、幸太の言っていた通りだった。
信城と諏訪姉は運動は不慣れなのか、たどたどしい様子だった。
付け加えると、諏訪姉は更に他の奴よりも体力がないような感じだった。
意外と言えば意外だったが、それよりも意外なことがあった。
たまたま二人を見ていた中で、少し気になって諏訪妹のほうも見てみると、運動部と同じとまではいかないが、それでも少し後ろを走っていた。
走り終えた後も少し息を整えているだけで、肩で息をするような感じではなく余裕がある感じだった。
「結構意外だろ?」
「あ、ああ」
遠目で三人を見ていた俺に、幸太が声をかけてきた。
「信城も諏訪さんも運動神経が良さそうに見えるんだけどなぁ」
「見た目がそうだからって、得手不得手は人それぞれだから、こういうこともあるだろ。眼鏡かけてる奴を見ると、頭が良さそうみたいな」
「あーそれわかるわ。あ、次の種目も俺出るから行くわ」
「がんばれー」
幸太はそう言って集団に戻って行った。
俺は見学のため、ぼーっと練習風景を眺めているだけだった。
体育祭に出たいという思いは特にないが、こうも手持無沙汰だと流石に暇だ。
読書、最悪教科書でもいいから暇潰し道具があればなぁ。
時折諏訪姉の視線を受けながら、そんな不満を心の中で漏らしていると、大きなガシャンという音がした。
その音の方を見ると、片膝を付いて蹲っている諏訪妹がいた。
諏訪妹の後ろには倒れたハードルがあって、引っかかって何処か痛めたのだろうか。
すると、その諏訪妹の下に姉と信城が急いで駆け寄っていた。
教師と何か話をした後、諏訪妹に信城が肩を貸して二人で、校舎の中に戻って行く。
諏訪姉は二人を背中を少し見送った後、すぐに集団に戻って行った。
体育の授業で、たまに見かける事故の風景。
何でもない風景だったが、見送っていた時の諏訪姉の表情が良く分からないことが気になった。
心配しているようにも見えれば、悲しんでいるようにも見えるし、寂しそうや羨ましそうだと思う奴もいるような……いや、やめよう。
また余計なことを考えてると思い、変な思考は振り払った。
それから体育祭の練習は何事もなく終わった。
「修司―! って、お前日直だったっけ」
「ああ、だから先に行ってパンか何か買っといてくれ。金は後で返すから」
「おっけー」
日直は俺と戸崎の二人だが、戸崎が昼休みに部活の集まりがあるらしく、授業前の準備をする代わりに片付けをお願いされたので、一人で道具を片付けていく。
とりあえず、さっさと片付けて昼休みに入ろうと、道具を持って体育倉庫に向かう。
体育倉庫の中に入ると、空いてるスペースがあったので、そこにコーンを置く。
残りはカゴにまとめてあるバトンとかか。
残りの道具を持ってこようと振り返る。
「げっ」
振り返った先には諏訪姉が道具を持って、体育倉庫に入って来ていた。
合同で練習したクラスの日直は、諏訪妹と知らない男だった。
恐らく足を怪我した妹の代わりに、片付けているのだろう。
「何よ」
「いえ、なんでも」
諏訪姉は持ってきた道具を片付けようと、俺の横を通り過ぎる。
俺もさっさとこの場所を出て行こうとすると、この場に好ましくない人物が体育倉庫に顔を出した。
「あ、諏訪さん! バトンを落として」
「か、神代さん!?」
和奏がバトンを持って体育倉庫に入ってくると、何故か諏訪姉は激しく動揺し始めた。
まるで自分の推しが目の前に現れたような、そんな感じがした。
それじゃ邪魔者は退散しますよっと。
足を踏み出そうとした瞬間、微かな地面の揺れを感じると、急に強い揺れが起こった。
激しい揺れと共に、倉庫内のものが倒れたりする激しい音が響く。
それと同時に諏訪姉が悲鳴を上げた。
「きゃっ!!」
「地震です! 急いで机の下に!」
倉庫の中に一つだけ長机があり、その下に隠れるよう和奏が支持を出す。
俺も机の下に隠れようと思ったが、棚の上の物が和奏の頭上に落ちてきそうになっているのが目に入った。
まずい! 和奏が移動する前に落ちる!
俺は咄嗟に和奏を押し倒して、降ってくるものから庇う。
「しゅ、修司!?」
案の定、何かが降って来て背中と頭に痛みが走る。
ただ幸いなことに、何か金属のようなものが当たった感触はなかった。
それからすぐに揺れは収まり、各々が周りを見ながら揺れが起きてるか様子を見る。
「お、収まったの?」
「多分」
諏訪姉が恐る恐る聞いてきたことに答えながら、俺は和奏の上から退いた。
「大丈夫!?」
「ああ、大丈夫だ」
俺の言葉を聞いて、和奏は安心するように肩の力を抜いた。
頭を擦りながら周りの物を確認すると、落ちてきたものはメジャーやストップウォッチの類だった。
これだったら、少し腫れるくらいか。
何処も怪我はなさそうなので、ここから出ることを考える。
さっきまで開いていた体育倉庫の扉が閉まっていたので、少し嫌な予感がしながら開けようとした。
しかし、扉が変形して開かないのか、もしくは鍵が閉まってしまったのか。
「だめだ。開かなくなってる」
「と、閉じ込められたの!?」
不安からなのか怯えた様子で、諏訪姉が叫んだ。
こんな状況で不安になるなという方が無理な話だ。
俺も少しは不安はあるものの、幸太が先生に伝えてくれれば見つけてくれるだろうと割り切っていた。
恐らくそれは和奏も一緒で、じたばたしても仕方ないと思っているようだった。
「恐らく一旦グラウンドに避難した後、いない生徒の確認が行われれば探しに来てくれるかと思います。ですので、しばらく我慢でしょうか」
「携帯とかもないし、そうするしかないな」
とりあえず、俺達はもしもの揺れに備えて、長机付近に座って待機することになった。




