表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

143/159

第百四十三話 持ち物検査

 次の日の朝。

 朝食に白米、玉ねぎと大根の味噌汁、だしを染み込ませた豚肉と大根、カブとキュウリの漬物だった。


「漬物は浅漬けだから、もしあれだったら少しだけ醤油をかけたほうがいいかも」


「そうなのか、試してみる」


 少しだけ醤油をかければ、ご飯のお供に丁度いいしょっぱさになった。

 今まで漬物を食べる時は、そのままでしか食べたことがなかったが、これはこれで美味い。


「そのままでも十分美味いけど、これはこれでいいな」


「それなら、よかった。でも、しっかり漬けてるものだと、しょっぱすぎちゃうから気を付けてね」


「わかった」


 和奏の忠告を聞きながら、だしを染み込ませた豚肉と大根に箸を伸ばす。

 これが見た目よりも優しい味で、素材の味がしっかり楽しめるものだった。


「これ好きだわ」


「ふふふ、ありがとう。修司って、本当に煮物とかみたいな料理が好きだよね」


「和食を好きになったきっかけが煮物だから、その影響からだと思う」


「だとすれば、鰤大根とか好きそう」


「鰤大根なー、美味そうだよなぁ」


「食べたことないの?」


「ああ、外食したとしてもあんまり見かけなくないか?」


「私はあんまり外食してこなかったから、聞かれてもわからないけど、そうなんだね」


 そんな雑談をしながら、和奏の朝食に舌鼓を打った。

 食べ終えた後、俺はまとめて皿洗いをする。

 基本的には作ってもらった側が皿を洗うことになっている。


「昨日のロールキャベツ余ってたから、私のお弁当のおかずにしちゃったけどよかった?」


「余らせたままのほうが良くないから、そうしてもらえると助かる」


「ありがとう。それじゃあ、私もう行くから」


「もう行くのか?」


「この時期は秋の挨拶期間だから」


「そんなのあったなぁ」


 九月頭から十一月の終わりまでの三ヵ月は、秋の挨拶習慣となっている。

 この時期になると何かと秋と付けて、それに因んだことをするみたいな風習があって、挨拶運動はその一つだ。

 実のところ挨拶習慣という名目で、服装検査や持ち物検査などの風紀調査が主だ。


「それじゃあ、行ってきます!」


「ああ、行ってらっしゃい」


 皿洗いをしながら、リビングを出て行く和奏の背を見送った。

 その後、一通りの準備を済ませてから、俺も家を出た。


 学校に着くと、校門前で挨拶している生徒会役員と風紀委員が数人立っていた。

 少し眠そうにしている速水のような奴もいれば、元気の良い挨拶をしている和奏のような奴もいる。

 挨拶をして校門を潜れば、長机の列がいくつかあり、風紀委員会が持ち物検査を実施していた。

 そこには昨日ぶつかりそうになった風紀委員もいた。

 ……あの列には並ばないほうがいいか。

 昨日のこともあって、少し反応を見たい気持ちがあったが、好奇心を抑えて別の列に並ぼうとした。


「あれ? 天ヶ瀬、こっちの方が空いてるけど並ばないの?」


「お、おはよう、戸崎さん」


 何処から現れたのか、いきなり戸崎に声をかけられて驚いた。

 戸崎は不思議そうに俺を見たまま挨拶を返してきた。


「おはよう。で、なんでそっちに?」


「いや、特に理由はないんだけど……気分的に?」


「あはは、天ヶ瀬はちょっと変わってるね。理由がないなら、空いてるところに並べばいい、ほら」


 戸崎はそう言って、俺を追い越して昨日の風紀委員の列に並んでいった。

 指摘された手前、このまま別の列に並びづらく、そのまま戸崎の後ろに並んだ。


「列に並んだら、すぐに確認できるように鞄の中を見えるようにしておいてください!」


 風紀委員の指示通り、鞄を空けて待っていれば、数分で自分の番が回ってきた。


「それじゃあ、机に鞄を置いて中を見せてください」


 長机に鞄を置くと、別の風紀委員が中を確認する。

 やましいものは特に入っていないので問題ないはずだが、何故か風紀委員は俺の顔をじっと見つめていた。

 ただ、その視線は昨日と違って、単に見ているだけといったものだった。


「あの、何か?」


「持ち物検査とは関係ないですが、夏祭りで困っている三人組の男女を助けた覚えはありますか?」


 唐突な質問に驚いたが、何とか表情は平静を保つ。

 そしてすぐに心の中で質問の回答を考えた結果、とぼけた方が良さそうだった。


「ないですけど」


 できるだけ声のトーンを不満そうにして風紀委員に悪い印象を与え、夏祭りの時の俺と結びつかないようにした。

 すると、ほんの少し間が空いた後、風紀委員は申し訳なさそうになった。


「すみません。私が探している人と声が似ていたので、もしかしたらと。雰囲気も態度も違っていたので、私の勘違いでした」


「……そっ、そうですか」


 違ってて悪かったな……残念だけど、同一人物だよ。

 風紀委員のもの言いに少しだけ腹が立ち、心の中で嫌味を吐いた。


「持ち物検査は問題なかったので、どうぞ」


 そのまま鞄を受け取って、その場を離れれば、こちらの様子を気にしていた戸崎が話しかけてくる。


「もしかして、何か没収された?」


「いや、なんか人を探してるみたいで、ちょっと良く分からない質問された」


「へぇーそんなことあるんだねぇ。もしかして、天ヶ瀬のことが気になってるからとか?」


「それは絶対ないな」


 戸崎はからかい甲斐なさそうにした後、それ以上何も聞いてこなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ