第百四十二話 風紀委員の変な特技について
午後の授業を終えて家に帰宅すれば、すぐに夕食の準備を始める。
鍋に水を入れて火をかけておいて、食材の準備をしていく。
冷蔵庫から玉ねぎとキャベツを取り出して、玉ねぎはみじん切りにし、キャベツは葉を大き目に剥して、それぞれボウルに入れておく。
鍋の水が沸騰したら、順番にキャベツを二分くらい茹でて、ざるに移していく。
全て移し終えたら、芯の部分を包丁の背で叩いて巻きやすくしておく。
次に玉ねぎの入ったボウルに、買ってきたひき肉、パン粉、牛乳、塩、黒胡椒を入れて混ぜ合わせていく。
粘り気が出てきたら、適量の肉ダネをキャベツで巻いて、煮崩れしないように爪楊枝で留めておく。
あとは水を入れた鍋に巻き終えたロールキャベツを並べて行き、コンソメキューブを入れて沸騰させる。
アクが出てくるので取ったら弱火にする。
このまま三十分ほど煮込めば完成なのでタイマーをセットして、その間に冷蔵庫に余っていたレタスとトマトと玉ねぎで適当なサラダを作った。
しばらくロールキャベツが完成するまで待っていると、玄関を開ける音が聞こえた。
「ただいまー」
「おかえり。あれ、ただいまでいいのか? 荷物を自分の家に置いてきた後っぽいけど」
「あっ、そっか。でも夏休み中ずっと言ってたから、今更戻すのも変な感じするし。これでいいでしょ」
和奏が俺の家に来て飯を食べるのは、夏休み明けも継続することになった。
もう怪我のことは気にしなくていいと伝えたが和奏は受け入れず、ついでに食費や光熱費を節約できるからということらしい。
ただ夏休み中と違って、朝食は和奏が担当し、夕食は俺が担当するという風にした。
最初は俺の家で食べるため、光熱費の問題で夕飯も和奏が作ると言って聞かなかった。
しかし、それは流石に申し訳ないのと、委員会等の関係で俺のほうが早く帰って来ることもあって、役割分担をすることになった。
「いい匂いしてるけど、何を作ったの?」
「ロールキャベツだ」
「ロールキャベツ!」
和奏が嬉しそうに叫んだ瞬間、タイマーのアラームが鳴った。
米は朝タイマーでセットしておいて炊けているため、料理を並べて食卓に着く。
手を合わせた後、食べ始めた。
「ん~!」
「口に合ってそうでよかったよ。少し多めに作ったから、おかわりもできるぞ」
「やった!」
作った側として、こうやって美味そうに食べてもらえるのは素直に嬉しい。
そんなこと考えながら和奏を見ていれば、ふと今日の昼に出会った風紀委員のことを思い出した。
「あの夏祭りで会った風紀委員って、男嫌いとかだったりするか?」
「んーそんなことないと思うけど、普通に男の子とかとも仲良くしてるみたいだし」
「そうかー」
特に何かした覚えはないが、知らぬまに俺が何かしてしまったか、ただ単に虫の居所が悪かったのか。
そこまで気にしているわけではなかったが、和奏の話を聞いて少し引っかかるものがあった。
「何かあったの?」
「そんな何かあったってわけじゃないんだが、今日学食でぶつかりそうになって。お互いに謝罪して、その場を離れる時に睨まれた気がした」
「何もないのに睨んだりするような子じゃないと思うけど、あっ」
和奏は何かに気付いたように、箸でロールキャベツを持ったまま固まった。
「どうした?」
「その時、睨んだって言うより疑ったような感じじゃなかった?」
「そんな感じもあった気がするな。それが何かあるのか?」
「あの子、少し変な特技があってね。声を一度聞いただけで、その声が誰か当てられるの」
「声?」
「そうそう。音じゃなくて声ね?」
音じゃないということは絶対音感のようなものではないらしい。
そういえばアニメや吹き替えの映画を見ていて、声だけで声優がわかるとかいう話を聞いたことがある。
確かダメ絶対音感とかいうものだった気がするけど、それと似たようなものなのか。
「多分だけど、夏祭りの時に会話した修司の声を覚えていたんじゃないかな?」
「他の人も会話したりしてる上に、あんなにうるさいところで聞いた声を覚えてるもんなのか?」
「どうなんだろう。聞いたことあるなー程度なのかもしれないけど」
騒がしい場所で特徴的でもない声を覚えているというのは、少し凄いなと思う。
だからって、俺の気のせいかもしれないが、あんな睨むように見てくるのだろうか。
少し腑に落ちない部分もありつつ、夏祭りの時のことを思い返して少し安心する。
あの時に和奏は何も言葉を発していないため、あの場に和奏がいたとバレる心配はなさそうだと安心した。
「もしあの時の奴が俺だとわかったところで問題ないか。何かあったとしても、俺だけだし」
風紀委員についてのことを気楽に考えながら口に出すと、和奏の手を止めたまま嫌そうな顔をしていた。
「……なんかその言い方はフラグっぽい」
「そんなこと……」
ないと言い切りたかったが、夏祭りの時といい今日のことといい、引っかかる部分は解消されていないため、少しだけ不安になった。




