第百三十九話 夏祭り参
「……なんか気前のいいおっちゃんばっかりだったなぁ」
「あはは……確かにね」
あれから射的や金魚すくい等で遊んだ後、小腹が空いたので屋台で食べ物を買っていた。
祭りではお決まりと言ったような、お好み焼きかたこ焼きでも買いに行った時だった。
どうしてこうなったのかよくわからないが、行く先々で「アツアツな二人には熱々のサービスしちゃう」だったり、「そこの初々しいお二人さん! こっちにも寄ってくれや!」と声をかけられてしまって、結局両手で持たないといけないくらい食べ物を持っていた。
俺は摘まんで食べれるように右手にたこ焼き、左手に二つのお好み焼きと追加でもらったたこ焼きをビニール袋に入れて持っている。
和奏は右手に大き目の綿あめとチョコバナナ二本を指で挟んで持っていて、左手はシェアしているたこ焼きを食べる用に空けていた。
「少しは断ればよかったな」
「二人して祭りの雰囲気に飲まれちゃってたね、はむ。ほっ、ほふ、ほぃしい~」
とか言いつつも、たこ焼きを摘まみながら美味そうに食べる和奏は幸せそうだ。
少しかさ張ってるけど、この顏が見れるなら安いものか。
なんて思いながら、俺もたこ焼きを食べようとした時だった。
「きゃっ!」
「危ない!」
「っん」
小さな悲鳴がしたほうを見れば、近くにいた女の子が転びそうになったところ、一緒にいた男女の二人がその子を支えていた。
転びそうになった女の子は髪が肩にかからないくらいのセミロングで、浴衣という慣れない服を着ていたため転びそうになってしまったのだろう。
支えていた女の子は恐らく背中まで伸びている髪をサイドで一つにまとめていて、白シャツの上にデニムジャケットを羽織っており、下はタイトな黒スキニー。
男は半袖の白インナーの上に紺色の夏用半袖のニットを着ていて、下はジーパンだった。
支えていた女の子のほうが、転びそうになった子を心配して声をかける。
「大丈夫?」
「あ、ありがとう。でも……」
転びそうになった子の視線のほうを見れば、地面に落ちてバラバラに転がったたこ焼きがあった。
「……お好み焼きもだな」
その子が落としたものはたこ焼きだけではなかったらしく、男のほうが落ちたビニール袋の中を確認すれば、中身が酷いことになっていたようだった。
「わ、私っ」
「あちゃー……まぁしょうがない! 落ちたやつを片付けたら買い直しに行こう!」
「そうだな」
二人は転びそうになった子に気にするなと励ましながら、三人は落としたたこ焼きを片付けていた。
その三人を眺めていれば、いつの間にか和奏が俺の持っているビニール袋と三人組を交互に見てることに気付いた。
「ねぇ修司」
「あーなるほど」
そのまま俺は三人の側に行こうとした時、突然服を引っ張られた引き止められた。
「どうした?」
「ごめん。会話の中で私の名前は出さないようにして」
少なくとも三人の内の一人は、和奏のことを知ってる人物ということに気付いたのだろう。
「わかった」
それから和奏は少しだけ俺の背中を壁にするような形にして、三人に声をかけた。
「あの、すみません」
丁度落としたものを拾い終えたところで俺が声をかけると、三人とも俺のほうを見た。
女の子二人は不思議そうにしていて、男は全く表情が変わらずどう思っているのかわからなかった。
「え、あっ! じゃっ、邪魔ですよね! すっ、すみましぇん!」
転びそうになった女の子があたふたして噛みながら謝ってきた。
と同時に、その子の顔と戸惑っている感じに見覚えがあった。
この子、図書委員の子か。
自分を知っている可能性のある人物だと気付いたが、特に天ヶ瀬修司と知られたところで問題ないと思い気にしないことにした。
「すみません。この子人見知りで、それで何か?」
図書委員の子が慌てている中、一緒にいた女の子のほうが聞いてきた。
少し申し訳ないと思うが、図書委員の子と比べると、堂々としておりハキハキした声は聞き取りやすかった。
「あ、落としたものがお好み焼きとたこ焼きだったようなので、よかったらこれを」
俺はビニール袋からたこ焼きとお好み焼きのパックを一つずつ取り出して、ハキハキした女の子に渡した。
「えっ、もらっていいんですか?」
「なんかサービスしてもらったものなんで、お金とかも気にせずもらってください。連れもこんなに食べれないと言っているので」
そう言って軽く和奏を見れば、頷いて同意してくれた。
「……あれ?」
女の子がそう言ったと同時に、和奏はすぐさま俺の背中に隠れた。
「連れが何か?」
「あっ、いえ! なんでもないです! それじゃあ、ありがたく頂きます!」
「あっ、ああありがとうございましゅ!」
「……ありがとうございます」
女の子がお礼を言うと、男と図書委員の子もお礼を言ってくれた。
「気にしないでください。それじゃ」
そう言って、俺達は三人の横を通り過ぎて歩いて行く。
「えっ……これ、うそ。あっ、あの!」
女の子は何か呟いた後、振り返って少し歩き進んでいた俺達を引き止めた。
俺達も振り返ると、女の子は何故か焦ったような表情をしていた。
「あの、えっと……いえ、本当にありがとうございます!」
何かを言い淀んだ後、何もなかったように今一度お礼を言ってくれる。
それに俺達は頭を下げるだけで、それ以上何も言わずその場を離れた。




