第百三十七話 夏祭り壱
あれから帰宅し、いつものように飯を和奏と一緒に食べて、食後に和奏を玄関まで見送る。
夏休み中にお互いの実家に行ったりと、しばらく二人で飯を食べることをしていなかったが、この習慣は変わることはなかった。
そして、そんな日々が過ぎていき、気づけば夏祭り当日になった。
「花火見るから夜だよね。何時くらいに行く?」
昼食を食べている時に、和奏が時間を聞いてきた。
「花火開始時間は十九時半だから、花火を見る前に屋台巡りをしようかと思ってた」
「屋台巡り!」
「ああ、屋台巡りだ」
俺が考えていた予定を伝えると、和奏は目を輝かせてワクワクする子供のような表情で軽く叫んだ。
和奏の声量に少し驚きつつも、楽しみな和奏の見て和む。
和奏の反応に和んでいると、ふと気になったことが頭に浮かんだ。
「もしかして、祭り初めてか?」
「ううん、そんなことないよ。あんまり記憶にないけど、小さい時に行ったことがあるってだけ。それ以降は、まぁ修司も知っての通りのことかな」
そう言った和奏は、少し寂しそうに笑う。
周りの目を恐れ、外に遊びに行きづらかったと表情から読み取れた。
「でも、これからはそんなに気にしなくてもいいんじゃないか?」
「え?」
「和奏の事情を知ってるやつは、もう俺だけじゃない。幸太に一之瀬、片桐に速水がいる。もう一人じゃない」
俺が昼食を食べながら答えると、和奏は少し驚いた後。
「うん、そうだね」
そう言って嬉しそうに笑った。
和奏の柔らくなった笑顔を見て、ほっと安心した。
「とりあえず、今日の祭りを目一杯楽しもうぜ」
そう言って、空いた皿を片付けて行く。
すると、和奏が少し照れつつも、悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「そうだね。エスコートよろしく」
和奏のその一言で、これはデートということを再認識する。
そのため、普段通りだったはずの俺は急に緊張してきた。
「……急にプレッシャーをかけないでくれ」
「あはは。なんか私ばっかり緊張してるのが悔しくて、今の冗談だから安心して」
和奏は俺が緊張したのを見て、申し訳なさそうに笑っている。
そんな意地悪な和奏に仕返しするような感じで、少しだけ拗ねたくなった。
「意地が悪い」
「ごめんって。でも、うん、楽しみ」
「……俺もだ」
俺が素直に答えると、和奏は驚いた後、すぐに嬉しそうにして自分の家に戻って行った。
それから少し夏祭りについて調べた後、予定の時間までに出掛ける準備をする。
沙希に言われたことを思い出しながら、身だしなみに気を付ける。
あらかじめ決めていた服装を等身大鏡で今一度確認し、洗面台の鏡を見ながら髪をセットする。
帽子を被るから、崩れない感じにしないとな。
一通り問題なさそうなことを確認した後、帽子と和奏と選んだ伊達眼鏡を付ける。
うん、まぁいつもよりはマシだろ。
ボーダーの白Tシャツの上に紺色のサマーカーディガンを羽織り、下は黒のスキニーで裾をまくって足首が見える感じにした。
鏡に見慣れない自分が写るが、特に変な感じと思わなかったことにほっとして、携帯で現在時刻を確認した。
十六時半か。予定時間より少し早いけど、玄関前で待ってれば出てくるだろ。
そう思って、俺は玄関の扉を開けて外に出ようすると、同じように隣の方から扉を開ける音が聞こえて来た。
「え、あれ?」
和奏が不思議そうに呟いたが、お互い一旦外に出て玄関の扉を閉めた。
「外に出るの少し早くないか?」
「それは修司だって同じでしょ」
俺達は少し目を合わせて、お互い同じようなことを考えていたことがわかって軽く笑い合う。
ふと、和奏の服装に目が行く。
頭の装飾は、前に二人で出掛けたウィッグにベレー帽、そして伊達眼鏡というのは変わらない。
違うとすれば、ウィッグをポニーテールにしているくらい。
着ている服は、上が半袖の白のサマーニット、下はギンガムチェックスカートだった。
そのサマーニットは、母さん達と買い物に行った時に俺が選んだものと似ていた。
「沙希ちゃんと選んだやつなんだけど、どう? 一応、修司が選んでくれたものに近しいものにしたんだけど」
「ああ、似合ってる」
俺が素直な感想を言うが、和奏は何故か不服そうだった。
「……なんか淡白じゃない?」
「いや、本当に似合ってるって。ただ」
「ただ?」
和奏は少し不安そうに俺の言葉を聞き返す。
俺は余計な一言を呟いたことに少し後悔するが、もうここまで来たら言うしかなった。
「えっと、あれだ! あくまでこれは俺の好みの話な!?」
「え? あ、うん」
「その……いつもの金髪のほうでも見てみたいと思った」
そう言った瞬間に思考が冷静になった。
これ考えてみれば、勝手に自分の好みを暴露してる恥ずかしい奴だ!
和奏は俺の言葉を聞いて、しばらく考えるように固まった。
その後、何か理解したのか、徐々に顔が赤くなる。
「あ、ありがとう」
「ど、どういたしまして?」
無性に恥ずかしくなり、お互い顔を赤くしながら黙ってしまう。
とりあえず、この空気を変えようと俺は和奏に聞く。
「す、少し早いけど、祭りに行くか」
「そ、そうだね」
それから俺達は夏祭り会場に行くために、歩き始めようとした。
「あ、ちょっ、ちょっと待って!」
すると、和奏が何か思い出したように俺の歩みを止めた。
「えっと、修司。いつもと違って……その、かっこいいよ」
「っ……あ、ありがとう」
「ど、どういたしまして?」
そのままお互い照れながら再度歩き始めたが、結局夏祭り会場に着くまでぎこちない会話しか出来なかった。




