第百三十六話 見送りと二人の会話
買い物を終えて戻ってくると、和奏が聞いてきた。
「何か買ってきたの?」
「ああ、ちょっとした小物だよ」
「ふーん」
和奏の反応は少しだけ不満そうに見えた。
もしかして一緒に見たかったのか……って思うのはさすがに自惚れか。
そう思いながら渡されたお金を返すために、母さんの下へ行く。
「母さん、これ」
「そのまま持ってていいわよ」
「えっ、かなり残ってるけど」
渡されたお金はほとんど残ってる状態で、このまま持っているのは気が引けた。
すると、母さんは小声で俺に言う。
「沙希ちゃんから聞いたわよ。夏祭りに二人で行くんでしょ? その時に使っていいから」
「……あいつ」
チラッと沙希のほうに視線を向けると、俺と母さんが話している内容に感づいたのか舌を出した。
あとで文句を言ってやると心に決めて、母さんとの会話に戻る。
「遊びに行くからって、流石にこんなには」
「それを渡す代わりに、夏祭りで和奏ちゃんをめいっぱい楽しませてあげなさい」
そう言った母さんは、何処か真剣な表情だった。
多分、和奏がいたから俺が立ち直った上に沙希との関係が元に戻ったことを、母さんなりに和奏へ感謝しているからだろう。
「わかった。母さん、ありがとう」
実際母さんがどう思っているのかわからないが、俺は母さんに感謝した。
すると、母さんはただ笑って頷いた。
あれから買い物を終えて昼食を食べたら、駅まで母さんが送ってくれた。
「それじゃあ、体に気を付けてね。特に怪我とか」
「うっ、はい」
母さんに心配する様子でそう言われ、俺は少し小さくなりながら返事をした。
俺のその様子を見て母さんはため息をついた後、和奏のほうに視線を移した。
「和奏ちゃんも来てくれてありがとね」
「いえ! あの服とかご飯とか色々ありがとうございます! とても楽しかったです!」
「そう言ってくれて嬉しいわ~。またいつでも来てちょうだい」
「はい!」
そう言って、母さんと和奏は笑い合っていた。
その二人の様子を眺めていると、何とも言い難い表情の沙希が俺に声をかけて来た。
「兄貴。たぶん今回は私のせいで日帰りにしたんだと思うんだけどさ……次来るときはもう少しゆっくりしていきなよ」
「おう、あとな沙希?」
「……何?」
俺は持っていた荷物を腕にかけて、沙希の頭をぐしゃぐしゃにする。
沙希は悲鳴を上げながら、俺に頭を揺らされる。
「うああああああ! なんで~!」
「うるせぇ! 回りくどいのはいいから本音を言え!」
「兄貴が帰って来るのはどうでもいいけどぉ! 和奏さんともっと話したいいいい!」
「そうだと思ったよ!」
俺はそう言って沙希の頭から手を放す。
「あぁもう~ぐしゃぐしゃじゃん!」
沙希はぼやきながら自分の髪を手で整えていた。
すると、和奏は嬉しそうに沙希に話しかける。
「沙希ちゃん。次来たら沙奈さんに教えてもらいながら、一緒にお菓子作ろうね?」
「あっ、はい!」
いつの間にかそんな約束をしていた二人は、今から楽しみな様子だった。
そのまま俺達は二人に見送られながら改札を通って行く。
駅のホームに着いて、和奏がニヤニヤしながら聞いてきた。
「沙希ちゃんがああ言ってくれて、嬉しかったくせに」
「うっせ。仲が悪くなってから憎まれ口叩かれ過ぎて、昔みたいな反応されると俺も反応に困るんだよ。実際、和奏に会いたいって本音もあったみたいだから、別にいいだろ」
「素直に喜べばいいと思うけど」
「いいんだよこれで。このくらいの距離間が俺は楽だ」
「ほんとに~?」
「本当だ。ほら、電車来たぞ」
和奏は少し疑って俺を見ながら、俺達は電車に乗った。
四人席に座って一息入れた後、和奏に聞く。
「気楽に楽しめたか?」
「うん!」
そう言った和奏の笑顔に俺は安心した。
それから適当に話をしながら、最寄り駅まで電車に揺られ続けた。
帰りの車の中で沙希が沙奈に謝った。
「あの、お母さん。今までごめんなさい」
「なに~どうしたの急に」
沙奈はルームミラーから後ろの沙希の様子を見ると、沙希は申し訳なさそうしていた。
「今まで私が兄貴に酷い態度を取る度に、裏で悲しそうな顔してたから」
沙奈は沙希に自分が隠していたことを知られていて驚いた。
「だから、ごめんなさい」
「別にいいのよ……それに沙希ちゃんが悩んでる時も修司が一人で抱えてしまっている時も力になれない不甲斐無い親だから……」
「そんなことないよ」
沙希は沙奈の言葉をすぐに否定して言葉を続ける。
「兄貴はどうかわからないけど……私はまだまだ子供だから、あーやって物理的に距離を離さないと、何時まで経っても冷静に考えられなかったと思う。今でも冷静に考えるタイプじゃないかもしれないけど……」
沙希は少し口を尖らせながら、少し申し訳なさそうに話す。
しかし、それはすぐに変わり真剣な様子で沙奈を見ながら言う。
「だから、色々我慢してたのにずっと見守ってくれててありがとう」
「っ……」
沙希の言葉に思うところがあった沙奈は少しだけ涙腺が緩む。
「あーもう運転中なのに~。沙希ちゃん、テッシュを一枚取ってちょうだい」
「あ、うん」
沙希は沙奈にテッシュを渡すと、沙奈は片手でテッシュを受け取って零れそうになった涙を拭いた。
「お母さん、もしかして泣いてる?」
「うるさい!」
それから沙奈の涙腺が落ち着けば、修司の話になっていた。
「結局、兄貴は和奏さんがいたから変わったんだよね」
「そうねぇ~。もしかしたら運命的な出会いだったのかもしれないわね」
沙希の言葉に沙奈は少し茶化すようにそんなことを言った。
そんな沙奈の言葉を聞いて、沙希は複雑な表情になった。
「お母さん、それは乙女脳すぎ」
「え~別にいいじゃない。だってロマンチックじゃない?」
「はいはい」
沙希は沙奈の話を聞いてるふりをして聞き流す。
そのまま沙希は頭の中で別なことを考えていた。
そういえば兄貴があんな風に異性を好きになるのって初めてだっけ。
今まで修司が助けた人など数多く、その際に恋愛感情を持つ人が現れてもおかしくなった。
しかし、そんな風になる人は一人も存在していなかった。
運命か……そんなまさかね。
沙希は一瞬そんな言葉が浮かんで、すぐに気のせいだと思う。
そして、ただ修司の恋が成就できますようにと考え直した。




