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第百二十一話 アルバムと妹について

 昼食を食べた後は、片付けまで母さんにさせるのは申し訳なかったので俺が洗い物をする。

 その時、和奏が自分もやると申し出てくれたが、母さんの話し相手になってくれと頼んだ。

 和奏は俺の頼みを快く引き受け、二人はリビングで楽しそうに話していた。


「そうそう! 今ではあんな感じだけど、小さい頃の修司は可愛くてねぇ。お母さんお母さんって、私にべったりだったのよ~」


「えっ、本当ですか!?」


 楽しそうにしてるのはいいんだが、何となく嫌な予感がする。

 こういう時の予感は大抵当たってしまうもので、母さんが何かをテーブルに置いた。


「ほんとほんと。ほら、これが小さい頃の時の写真なんだけどね」


「わぁ~。沙奈さんの後ろに隠れてる修司可愛い~!」


「ちょっ、母さん! なんでアルバム出してきてるんだよ!」


 天ヶ瀬家のキッチンはオープンキッチンなので、シンクからリビングが見えるようになっている。

 そのため俺は取り乱しながら頭を上げて、母さんのほうを見てそう言った。

 子供の頃の写真なんて恥ずかしい物ばっかりだ……勘弁してくれ。


「和奏ちゃんに昔の修司を見せたくってね~。あっ、ほら! これなんかも可愛いでしょ~」


「すごく可愛いです!」


「でしょ~? これ母の日で、お母さんへのプレゼントって、折り紙の花束くれた時のなの~。子供の頃が懐かしいわ~」


「はぁ~ん♪」


 和奏は目を輝かせながら写真を見た後、俺のほうを向いて少し残念そうな顔をした。


「もう面影もない……」


「ふふふ、ね~?」


「あるわけないだろ、あったら困る」


 そんな会話をしながら二人がアルバムを見ていると、ふと和奏が何かに気付いた。


「あれ? この辺から沙奈さんと映ってる写真が少なくなってるような」


「この時は、沙希ちゃんが生まれた頃ね」


 母さんは懐かしそうにアルバムを見ていた。


「修司が甘えん坊を卒業したのは、この辺りだったかしらね」


「そうだったんですね」


 和奏がそのままアルバムを捲っていく。

 すると、徐々に写真は俺と沙希が一緒に遊んでいるものが増えていく。


「修司と妹さん、とても仲が良さそうですね」


「子供の頃はね~。何処へ行くにしても、沙希ちゃんが修司の後ろに着いて行ってたのよ。ね?」


「……そんな昔のこと覚えてないよ」


 俺が素っ気なく答えると、母さんは少し寂しそうな顔をしていた。

 リビングの空気が少し重くなったのを感じ取った和奏が、突然立ち上がって提案した。


「しゅっ、修司! せっかく遠くまできたから、ここら辺を案内してよ!」


「急だな……そのつもりだったからいいんだけど」


 俺は驚きながら、連れて行くところを考えていると、母さんが聞いてきた。


「何処に行くのか決まってるの? 決まってないなら、そんなに大きくないけどショッピングモールがあるから、そこまで行って来たらいいんじゃないかしら。修司の怪我とかもあって、最近二人でデートなんか満足にできていないでしょうし」


「母さん!」


「沙奈さん!」


「ふふっ、鍵はここに置いておいておくわねぇ~。それじゃ、お母さんはこれ以上邪魔しないように、夕飯のお買い物に出かけてくるから~」


 そう言いながら、母さんは満足気にリビングを出て行った。

 母さんめ……余計な一言だけ残して去っていきやがった。


「皿も洗い終わったし、まぁ俺達も出掛けるか」


「う、うん」


 二人きりになったリビングに気恥ずかしい空気が流れるが、母さんが出掛けた後、俺達もすぐに家を出た。




 家を出て少し歩くと、和奏が気になっていたことを聞いてきた。


「話したくなかったらいいんだけど……どうしてそんなに妹さんと仲が悪いの?」


「あーそういえば話してなかったな。正直なところ、明確な理由ってのが分からないんだよ」


「えっ、そうなの?」


「仲が悪くなってから、ほとんど会話してないからな。ただ沙希の態度が変わったのが、幼馴染と関係が悪くなった時期と同じくらいなんだよ。多分、俺の妹ってだけで何か言われることが多かったと思うから、そのせいじゃないかと思ってる」


 あまり思い詰めたように話しても暗くなるだけなので、俺はできるだけ普通のテンションで説明した。

 それを聞いた和奏は、どこか納得してなさそうに難しい顔をしていた。


「どうかしたか?」


「うーん。修司が卒業した後って、妹さんはそのまま中学校に通ってたの?」


「確かそうだったと思うぞ。母さんと学校の話をしているのを聞いたことがあるからな」


「それじゃあ、中学校での出来事が起きるまでの妹さんとの関係は?」


「特に仲が悪いとかはなかったな。登校時間が同じだったりしたら一緒に登校してたし、下校中に途中で合えば一緒に帰ってたな」


「それなら何か変じゃない? その事件があった時は、むしろ仲が良かったんだから、修司のことを悪く言われてたりしたなら、庇ったりして学校に行きづらくなりそうだけど……」


 和奏にそう言われ、確かに沙希の性格を考えると、言い返したりしそうだ。

 じゃあ、嫌われている原因は別にあるのかと、考えてみるものの思い当たる節がない。


「他の原因については分からないが、今の方が都合がいいからな」


「どうして?」


「もし仲が良かった時の沙希が今の俺を見たら、昔の俺の真似をし始めそうだからな。そのせいで、沙希が危険なことに巻き込まれたりするのは真っ平御免だ」


 あの時の沙希は、人助けに対して憧れみたいなものを持っているように感じていた。

 和奏は理由を聞いた後、また難しい顔をする。


「うーん、修司の言い分は分かったけど……」


「何か思うことがあるのか?」


「うん。もし妹さんが少しでも修司のことを好きな気持ちがあるんだったら、今の関係は相当辛いものだと思う」


「まさかな。かなり酷い扱いされてるから、そんなことはないだろ」


「それに沙奈さんや司さんは、兄妹仲良くしてほしいって思ってるだろし。私は兄妹で一度じっくり話してみたほうがいいと思うけど」


 和奏の言う通り、母さんや父さんが望んでる関係と俺の都合がいいと思ってる今の関係は反している。

 そのことに関しては、両親に付き合わせてしまって申し訳なく思っていた。


「……機会があればな。沙希が俺と会話することを、意地でも拒否するだろうから」


「そっか……」


 和奏は残念そうに呟いた。

 和奏は幼い頃に両親をなくしているので、家族関係が悪いのを何とか良好にできないか考えさせてしまった。

 気にさせてしまったことを申し訳なく思うのと同時に、俺の家族関係について考えてくれたことをありがたく思った。

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