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第百二十話 修司の実家と昼食

 道場を出て少しバスに揺られた後、住宅街を少し歩けば俺の実家に着いた。

 時間は丁度昼ぐらいだから、恐らく母さんが何か作り終えて俺達のことを待っている頃だろう。

 そんなことを考えながら家に玄関の前に行こうとすると、和奏が何故か呆然と家の外観を眺めて立ち止まっていた。


「そんなじっと見てどうしたんだ? 他の家と比べて特に変わったところなんかないと思うが……」


 住宅街に並んでいる他の家と比べて見ても、特別大きいというわけでも小さいわけでもなく、ごく一般的な一軒家に過ぎない。

 何をそんなにじっと見るところがあるのだろうかと、和奏と同じように外観を眺めるが特に気になるところは見つからない。

 すると、和奏は少し照れくさそうに笑った。


「えっと、自分の家以外の一軒家って入ったことなくて。だから修司の家が初めてで……ちょっと緊張してます」


「おっ、おう……そうか」


 和奏は緊張していると言ったわりに、どこか嬉しそうな表情で鼓動が跳ねる。

 実際、俺の両親が会いたいという理由があったから意識しないでいられたが、そんな顔をされると意識せざる負えなくなる。

 じっくりと家を眺めている和奏を横に、俺は嬉しさと照れくささが混ざったような感情が溢れてくるのをなんとか落ち着かせた。




 和奏の緊張と俺の鼓動が落ち着いたところで、俺は後ろに和奏を連れて家の玄関を開ける。

 すると、パタパタと足音が聞こえてきて、母さんが俺達を出迎えてくれた。


「ただいま、母さん」


「修司、おかえりなさい。和奏ちゃんは?」


 俺はそう言いながら、体を横に逸らして母さんから和奏が見えるようにする。


「おっ、お久しぶりです! この度はお招きいただきありがとうございます!」


 和奏は緊張しているせいか、いつもとは違ってどこか固い口調で母さんに挨拶をする。

 すると、母さんは微笑みながら和奏の挨拶に合わせてきた。


「いえいえ、こちらこそ遠いところからお越しいただきありがとうございます」


「えっ!? いえ、そんな!」


 戸惑う和奏を見ながら、母さんは変わらず微笑んでいる。

 俺はそんな母さんを注意するため、ため息をつきながら母さんを見た。


「母さん……緊張してるんだから、困らせないでやってほしい」


「えっ?」


「あはは~、ごめんなさいね。緊張してる和奏ちゃんが可愛くてついね?」


 どういうことか分かっていない和奏はキョトンとした顏になっていた。


「母さんにからかわれたんだよ。母さん的には緊張を解せたらって考えもあるだろうけど」


「そうそう。せっかく来てくれたのだから、もっと気楽にしてくれていいからね?」


「あ、ありがとうございます」


 母さんにからかわれて驚いたこともあったのか、そう言った和奏は肩に入っていた力が少し抜けていた。

 それから母さんは俺達二人を家に入れながら聞いてきた。


「日帰りだけど、夜ご飯は食べていくのよね?」


「そのつもりだよ。父さんも和奏に会いたいと思うし……まぁ沙希は嫌な顔すると思うけど」


「沙希ちゃんなら、今日は部活で遅くなるから先に食べてって言われてるわよ」


 沙希は部活か……。

 タイミングが合えば沙希に見舞いの件でお礼を言いたかった気持ちもあったが、正直また嫌がらたりする可能性があったから、内心は少しほっとしていた。


「それじゃあ、荷物はリビングの隅にでも置いてもらって、早速お昼にしましょうね」


「わっ、私手伝います!」


「ふふふ、ありがとう。でももうできちゃってるから、椅子に座ってゆっくりしててね」


 俺達は母さんに言われた通り、荷物をリビングの隅に置いてテーブルに着く。

 実家に着いた時間が丁度良かったのか、テーブルには出来立ての料理が並べられてあった。

 並べられていた料理は、デミグラスソースのオムライス、ミネストローネ、ナスとピーマンとレタスにミニトマトが添えられたサラダ。


「美味しそう~」


 和奏は自分の好きなものだったため、目を輝かせてオムライスを見ていた。


「和奏ちゃんのお口に合うといいんだけどね。さぁさぁ! 冷めないうちにどうぞ!」


 母さんは和奏の言葉に嬉しそうに笑いながらそう言った。

 俺達は手を合わせ、母さんが作った昼食を食べ始めた。


「~!!」


 和奏はオムライスを一口食べると、余りの美味しさに言葉にできない声が出る。

 母さんはまるで可愛いものを見るような目で、和奏を見て嬉しそうに微笑んでいた。


「お口にあったみたでよかったわ~」


 母さんは一口一口を美味しそうに食べる和奏を見ながらそう言うと、和奏が慌てて飲み込む。


「ご、ごめんなさい! 何も言わず夢中で食べていて」


「いいのいいの、その食べている姿で美味しいって伝わるから」


「は、恥ずかしいです……」


 恥ずかしさで食べる手が落ち着いた和奏は、ふと何かに気付いたように俺に聞いてくる。


「もしかして修司が前作ってくれたオムライスって、私がデミグラスがいいって言ってたらこれが出てきたの?」


「んー全く同じものを作れってなると怪しいけど、多分こんな感じのにしたと思うぞ?」


「そうなんだ……ん~」


 和奏は何か悩む様子で、またしっかり味わう様にオムライスを食べ始める。

 何となくその様子にピンと来た俺は和奏に聞く。


「もしかして、オムライスの好みが逆転しそうになってるのか?」


「えっ! なんでわかったの!?」


「何となくだ。どっちもそれぞれの美味しさがあるからなぁ」


 俺がそう言うと、和奏は同意するように頷いていた。

 それを見ていた母さんが少し焦ったように言う。


「もしかして、ケチャップで卵がしっかりしたやつの方がよかったかしら?」


「あっ、いえ! デミグラスの方はあまり食べ慣れていないってだけで、とても美味しいのです! 正直このオムライスを食べて好みが変わりそうになってるくらいです!」


「そう? せっかくなら和奏ちゃんの好みを聞いてから作ればよかったかしらね~」


「そんな! 気にしないで大丈夫です!」


 和奏はそう言いながら、失言をしてしまったと少し慌ててしまう。


「まぁ食べたくなったら俺に言えばどっちでも作るから、どっちが好きでもいいだろ」


 好きなものはあっても、何が食べたいとかはその時の気分で変わることは普通のことだと思う。

 特に気にすることもないだろうと、そう言った意味を含めて和奏をフォローした。


「えっ、いいの?」


「ああ、食べたくなったら言ってくれ」


「えへへ、やった」


 和奏は満面の笑みを浮かべながら、またオムライスを食べ始めた。


「あらあら、なんかもう夫婦みたいね?」


「んっ!」


「っ!?」


 俺達二人は食べている最中だったこともあり、母さんの変な発言に驚いて食べ物が喉に詰まる。


「あら、大変。はいお茶」


 俺と和奏はお茶をもらうと、すぐさま食べ物を流し込んで息を吸う。

 俺達のそんな様子を見ながら、母さんは不思議そう顔をしていた。


「どうしたの? 急に二人して喉に詰まらせて」


 そんな母さんの言葉に俺達は口を揃えて言う。


「沙奈さんのせいです!」


「母さんのせいだよ!」


 俺達にそう言われた母さんは楽しそうに微笑んでるだけだった。

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