第百十三話 親友の話と修司の本音
次の日、待ち合わせの駅で携帯を弄りながら待つ。
しばらく待っていると、改札からトレードマークの黒縁眼鏡をかけたイケメンが俺に近づいてきた。
「もしかして待たせたか?」
「いや、俺も数分前に着いたしな」
「そうか」
海斗はそう言いながら、持っていた鞄を担ぎなおす。
その動作を見た俺は寄りかかっていた壁から離れた。
「んじゃ、行くか」
「ああ、道案内よろしく頼む」
海斗はそう答えると、俺の後をついてくるように歩き始めた。
「修司の家はここから近いのか?」
「あ? ん~まぁ多く見積もっても二十分くらいだな。学校からだともう少し近くて、十分くらいだけどな」
「その距離だと結構いいところに住んでそうだな」
「そうだな。結構いいところに住まわせてもらってる」
俺達はそのままどうでもいいような話をしながら家に着いた。
中に入ると、海斗は少し驚いた様子で部屋の中を見渡す。
「学生が住むところにしては広いな」
「だよなー。親の好意に甘えてるよ」
俺はブルーレイレコーダーを準備しながら答える。
普段あまり使っていないので動くことを確認すると、海斗にディスクを入れるように頼んで、その間に俺は飲み物やお菓子を用意した。
鑑賞の準備できて、ソファに座れば丁度一曲目が始まった。
「おお~この一曲目、ドラムの入りからかっこいいな」
「この曲はまだ聞いていなかったのか?」
「ああ。というか、お前がオススメした曲以外聞いていないから、ほとんど全部初見だと思う。それでも楽しみだから気にしないでくれ」
「そうか、お前が良いならいいんだが」
それからしばらく見続けていると、ボーカルのMCが始まる。
そこで海斗がゆっくりと話しかけてきた。
「……一か月前くらいに琴葉と話したんだってな」
「あー……やっぱ聞いてたか」
「まぁ……そのことを話してくれたのはつい最近だったがな」
俺は海斗の言葉を聞いて不思議に思う。
朝倉のあの様子なら、すぐにでも海斗に話してると思ったんだが……そうじゃなかったのか。
海斗は俺が不思議そうにしているの見て、少し悲しそうに笑いながら続ける。
「たまたま昔の話になって、琴葉の様子がいつもと少し違ったから、俺から話を聞きだした。その時の話を聞いて、なんですぐに俺に話さなかったのかわかった」
「なんでなんだ?」
「……お前に言われた通り、お前のことを気にしないようにしてるんだろうな。あの時の話をした琴葉は真剣な表情をしていたからな」
「そうか……」
海斗の話に、俺は短くそう答えてMCの方に目を向ける。
それから心の中で少し安心した。
朝倉は前に進み始めてくれたか。
そんな俺の心の中を見透かしたように海斗が聞いてくる。
「なぁ修司。お前は本当に中学の奴らと関わりたくないのか?」
「あの事があったから人が嫌になったのは変わらない。それ以外は何もねぇ」
俺はそっけなく言い返すが、海斗は真面目な声色で聞いてくる。
「確かにそれは嘘じゃないかもしれないが、一番の理由は違うだろ?」
「……なんでそんなこと聞いてくるんだよ」
俺の問いに対して、海斗はため息をつきながら答える。
「そうじゃなかったら、今の琴葉の話を聞いて少し安心した様子になったことに納得できない」
「っ……」
俺は海斗の言葉を聞いて、言葉に詰まってしまった。
前だったら平然と気にせいだ済ませられたはずなのに、今回は何故か上手く言い返すことができなかった。
――――どうしてそんなに自分を責めるの! 修司は何も悪くない!
言い返そうとした時、俺は和奏の言葉を思い出していた。
俺は俺のままでいいと自分の生き方を肯定された、あの時の会話が心に響く。
ここで今までと同じように言い返したら、和奏が肯定してくれた俺を否定するように思えた。
「……修司……お前の一番の理由は……」
俺は海斗が言い切る前に、手のひらを海斗の前に出して制止させる。
「ちゃんと俺から話す」
それから海斗に自分が関わる事で周りの奴らが傷つくことを恐れて、関わらないようにしていたことを話した。
もちろん過去にあったことで嫌気がしたのも事実で、そのため今も関わりたくないという気持ちも伝えた。
「それじゃあ、あれか。今の学校にしたのも、妹との関係を改善しようとしないのも……」
「ああ、お前達と同じ高校に通ってたら、結局あの噂は残ったままだからな。お前と朝倉に迷惑がかかるのが嫌だったのはあった。妹の件は、親にこの関係に何も言わないでくれと頭を下げて頼んだ。あいつは俺の悪い噂でロクな目にあってないだろうから、恨まれても仕方ない」
「じゃあ、琴葉のことはもう許してるのか?」
「……あれはショックだったってだけで、別に朝倉が悪いわけじゃない。ただ昔みたいに話せるかって言われたら無理だろうな。話してても、お互いにあの時のことで遠慮しちまうだろうから」
「そうか」
海斗はそう言いながら、ただ少し悲しそうな顔をしながら頷いた。
俺は長々話したのでジュースを飲んで喉を潤した後、海斗に忠告する。
「この話、今の朝倉には悪影響だから言うなよ?」
「ああ。というかこれは話さないほうが俺の為にもなるな」
「どういうことだよ?」
海斗は呆れた様子で俺を見ながら言う。
「はぁ……お前は自分の彼女が自分じゃない別の男のことで、ずっと悩んでたらどんな気分になるんだ?」
「それは……」
「別に女々しい奴と思ってもらって構わない。ただ嫉妬だけじゃない、自分にできることがあるかもしれないのに何も変えられない歯がゆさやもどかしさ」
「うっ……」
「なんとかしようと掛け合ってみるが、片方は勇気が出ず話しかけられず、片方は話す気すらない」
「はい……」
「結局蓋を開けてみれば、俺のいないところで話がまとまってる……修司、俺に何か言うことあるよな?」
海斗の眼鏡の奥から見える瞳は冷たく人を凍らせるような目をしていた。
そして久しぶりにそんな海斗を見て、俺は途端に申し訳ない気持ちが溢れた。
「色々と迷惑かけて、本当に悪かった」
俺はそう言いながら、深々と海斗に頭を下げた。
しばらく頭を下げているつもりだったが、海斗がくすっと笑ったような気がしたので顔を上げると、そこにはいつもと変わらない表情に戻っていた。
「とは言ったが、今のは冗談だ」
「わかりづれぇよ」
「……ただ本音を言えば。もう一度あの頃の……楽しかった関係に戻れないかとはずっと思うだろうな」
海斗はそれだけ言うと、レコーダーのリモコンを持ってライブ映像を巻き戻していく。
どうやら俺達の話はMCが終わってから、三曲くらい進んでしまっていた。
聞いていなかった最初の曲戻して、流し始めてから海斗が最後に一つだけと聞いてくる。
「……本当に戻れないのか?」
テレビの方を向いて、ライブの盛り上がりと曲のイントロを聞きながら俺は答える。
「たぶんな。さっきの話は俺の本心だし、そう簡単に変わることはないと思う。ただ海斗の話を聞いた感じ、ようやく朝倉が前を向いてそうだから、あの時に話をしてよかったとは思ってるよ」
「……そうか」
俺の返答を聞いて、海斗はそう言いながら一瞬悩んだような表情になったが、すぐにいつもの表情に戻った。
それから俺達はライブ映像の続きを楽しんだ。




