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第百十一話 大胆な行動

 

「それじゃあ、夕ご飯は作り行くから。また後でね」


「ああ、また後で」


 家に着くと、和奏は当たり前のようにそう言って自分の家に入って行った。

 部屋に入りながら、この状況が慣れ始めている自分に笑えた。

 前までの俺だったら、嫌そうに文句の一つでも言いそうなのにな。

 そんなことを思いながら、家に入っていき荷物を片付け始める。

 すると、ポケットに入れていた携帯からRINEの通知音が鳴った。

 携帯を確認すると、海斗からメッセージと画像が送られてきていた。


『この前話したバンドグループだが、ついさっきライブ映像のブルーレイが届いた』


 さらにパッケージを映した画像が、二、三枚に分けられて送られてくる。


『おーパッケかっこいいな』


『話を聞いてた感じ興味ありそうだったから、一緒に見るかと思ってな』


 一ヵ月くらい前に最近聴いてる音楽の話題をした。

 おそらく、その時の俺の反応のことを言っているのだろう。

 元々そのバンドグループが気になっていたこともあるが、海斗と遊ぶということが久しぶりなので、俺はその誘いを受けることに決めた。


『それじゃ、せっかくだし一緒に見るわ』


『わかった。いつがいい?』


『あー来週以外なら大丈夫だと思うけど、出来れば割と近い日がいいな』


『丁度良い、俺のほうも早めが良かった。それなら急かもしれないが、明日でも大丈夫か?』


『了解』


『場所はどうする?』


『あーそれなら家来るか? まだ来たことなかったよな?』


『お前が良いなら』


『それじゃあ、待ち合わせは昼過ぎでいいよな? 丁度いい時間に桜花高校の最寄り駅に来てくれ』


『わかった。それじゃ明日』


『はいよ』


 俺はRINEのやり取りを終えると、片付けの続きを始めた。

 片づけを終えた後、部屋の掃除も済ませるとインターホンが鳴る。

 外を見ると夕方近くになっていたで、恐らく和奏だろうと思いながら家の扉を開けると、予想通り和奏が食材を持って立っていた。


「お夕飯作りに来たけど早かった?」


「今終わったところだから問題ない」


 和奏は俺が何かやっていたのかと疑問に思ったのか、部屋を覗き込むように見てくる。

 そこには先程まで使っていた掃除機を置いてあって、和奏の目が厳しいものに変わった。


「……一人で掃除してたの?」


「あ、ああ。そうだが……?」


 和奏は少し怒った様子になって、少し気圧されて言葉に詰まる。

 しかし、すぐに和奏が怒っている理由に気付いた。


「何かあった時でも連絡できるように携帯は持ってたし、墓掃除したときも何ともなかっただろ? そんなに心配しなくても大丈夫だから」


 俺はそう言って、安心させようと笑いながら和奏の頭を撫でる。

 撫でていると、すぐに自分の大胆な行動に気付くが時すでに遅し。


「っ~」


 和奏は言葉にならない声を出して、顔を真っ赤にしながら恥ずかしそうにしていた。


「わっ! 悪い!」


 俺はすぐさま頭から手を退けて謝るが、お互いに少し気まずい沈黙が流れる。

 その沈黙を破ったのは和奏だった。


「おっ! お夕飯の準備するね!」


「おっ、おう! 頼む!」


 和奏は食材を思ったまま、物凄い勢いで俺の家に上がり、キッチンの方に向かって行った。

 やっちまったなぁ~……。

 和奏に恥ずかしい思いをさせてしまったし、もしかしたら嫌だったかもしれないと思いながら、先程の行動を反省する。

 それと同時に怒り方がよく似た奴を思い出した。

 あー……昔の沙希と似たような怒りだったからか。

 自分が和奏の頭を撫でたの理由はわかったが、だからといってやっちまったという後悔は消えるわけでもなく、この後どうしたものかと考えながら掃除道具を片付けた。




 それから、俺はいつの間にか夕飯が並べられたテーブルに座っていた。

 あの後、すぐに急に頭を撫でたことを謝ろうかとリビングに向かった。

 しかし、和奏は声をかける隙もない素早い手際で夕飯を作っていて、話しかけづらい雰囲気をまとっていた。

 そのため、謝るどころか手伝おうとすら言えなかった。

 一応タイミングを見計らうために、テーブルに座って様子を(うかが)っていただが、結局全ての料理が並べられるまで声をかけられず今に至る。

 和奏もすでにテーブルに着いており、いただきます済ませて食べ始めていた。


「……食べないの?」


「あ、えっと……いただきます」


 ぼっーとしていた俺を見ずに和奏はそう言ったので、俺は慌てて食べ始めようとする。

 だが、気まずいままでは夕飯の味も楽しみづらいため、一度手に持った箸を置いて頭を下げる。


「さっきは急に頭なんか撫でたりしてすまん!」


 俺が頭を下げて謝るが、和奏は何も言わない。

 頭を下げているため、和奏がどんな表情をしているのかわからない。

 しばらく頭を下げたままでいると、和奏が声をかけてきた。


「い、いいから早く食べて」


「わ、わかった」


 謝るのは失敗だったかと俺は思いながら言われた通り、夕飯を食べ始める。

 夕飯のメニューは、きゅうりともやしとささ身の胡麻和え、トマトの冷やし煮びたし、ニラと玉子の醤油汁だった。

 胡麻和えは冷しゃぶに近いような味わいで、きゅうりの水分がささ身のパサパサ感を緩和して食べやすい感じになっていた。

 トマトの冷やし煮びたしは今の暑いこの時期にはぴったりで、レモン汁がかかっているのか、さっぱりとした味わい。

 おかずがあっさりした感じなので、ニラと玉子の醤油汁の濃さが丁度いいものになっていた。

 やっぱり、美味いな。

 俺は先程あった出来事を忘れたように、夕飯に夢中になっていた。

 食べ終えると、和奏が表情を変えずに俺の食べる様子を眺めていたようで、何故か無性に恥ずかしくなった。


「……なんだよ」


「美味しそうに食べるなぁって」


「……美味かったよ」


「うん、ならよかった」


 和奏はそう言った後、自分を落ち着かせるようにお茶を飲む。

 そんな和奏の雰囲気を察して、俺は何を言われてもいいように身構える。

 それから一呼吸入れて、和奏が話し始めた。


「あーえっと、その、さっきのことなんだけど、急にされて驚いただけって言うか……慣れてないからって言うか……その嫌だったとかそういうのはなくて」


「ああ」


「いや、それよりもその……あれなの? もしかして修司って……他の仲良い女の子とかにも頭を撫でたりとかするの?」」


「へっ?」


 和奏の言葉を聞いていたら、予想外の質問が飛んできて思わず気の抜けた反応をしてしまう。


「えっと……だから、なんか手馴れてる感じがしたから、他の仲良い女の子にも同じようなことしてるのかなって……」


「お前それ……俺の交友関係と昔のこと知ってて言ってるのか?」


「それはわかってるんだけど……なんか慣れてるなって」


 和奏が少し目線を下げて、どこか拗ねたように見えた。

 ちゃんと話しておいた方がいいな。

 そう思った俺は力を抜きながら説明する。


「慣れてるって感じたのは、俺が妹を良く撫でてたからだと思う」


「……妹さんを?」


 和奏は少し目を丸くして聞いてきた。


「ああ。仲が悪くなる前の話だが、あいつが怒ったときとかは、(なだ)めるように頭を撫でてたんだよ。だから慣れてるって感じたんじゃないか?」


「それじゃあ、その他でこういうことは?」


「一度もないな」


「へぇ~。ふ~ん、そうなんだ~」


 和奏は急にどこか嬉しそうな様子になって、食器を片付けていく。

 結局俺は和奏に許されたのかよくわからないまま、和奏の機嫌が良くなったのでほっとした。

 本当に表情が豊かと言うか、知り合う前は全然こんなこと思わなかったんだけどなぁ。

 俺はそんなことを思いながら、和奏の嬉しそうな表情を微笑ましく見ていた。

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