第百九話 共同作業
奏子さんから話を聞いた限り、二人とも嫌いなものは特になく、共通して好きな食べ物が魚ということ。
条件があるとすれば、家にあるものならなんでも使っていいけど、できれば下処理したイサキが冷凍してあるから、それを使ってほしいということだった。
とりあえずイサキは冷蔵庫に移して解凍しているが、何を作るかだ。
もし足りないものがあれば、貴志さんに買いに行かせるから好きなものを作っていいと言われたが……。
「何を作るか考えてるの?」
一通り食材を見た後、部屋で悩んでいると和奏が様子を見に来た。
「ああ。まだ夕飯まで時間はあるが、あんまり遅くなって頼むのは申し訳ないからな」
「お祖父ちゃんだったら喜んで買いに行ってくれそうだから、気にしなくてもいいと思うけど」
「俺が気にするんだよ」
心の中で俺が車を運転できればと思うが、そんなことを考えても仕方ないと切り替える。
「一応二人が普段食べないような料理にしようとは思ってるんだが、何か良い案あるか?」
もしかしたら和奏が何か良い案を持っているのではないかと試しに聞いてみる。
「う~ん、あっ」
和奏も特に良い案があるわけでもなかったが、何か思いついたようだった。
「何か思いついたのか?」
「まぁメニューとかじゃないけどね。二人とも基本的に和食ばっかりだから、修司が作る料理は普段食べないようなものだと思うってだけなんだけど、今回作るのも洋食なんでしょ?」
「それしか作れないからな」
「だったら、そのまんま修司が思いついた料理でいいと思う。何か作れそうなものは頭の中にあるんでしょ?」
「まぁそうだな。一応魚を使った料理ならここら辺が簡単かなって」
俺は携帯で調べていた料理を和奏に見せる。
「どれどれ……なにこれ! 美味しそう!」
「これの味付けを和風っぽく出来たらしようと思うんだが」
「うん! それでいいと思う!」
それから俺達は昼食を食べた後も、二人で他にどんなものがいいか話し合った。
一通り作るものを決めたら、貴志さんに車を出してもらって足りないものを買いに出掛ける。
「買いに行くだけなら、お祖父ちゃんだけでもよかったんじゃない?」
「その言葉を和奏が言うのはおかしいと思うんじゃが……でも、わしに頼むだけでもよかったんじゃぞ、修司君」
「魚が解凍するまで時間ありますし、貴志さんに頼むだけ頼むってもの心苦しいので。というか和奏のほうが一緒に来る必要なかったんじゃないか?」
「何? 私が一緒に来ることに不満でもあるの?」
和奏は助手席から後部座席にいる俺に睨みを利かせてくる。
その眼差しから俺は顔を背けながら言う。
「……いえ、なんでもないです」
「よろしい」
それだけ言って和奏は前を向きなおす。
その時、横で運転してる貴志さんは少しおかしそうに笑っていた。
そのまま雑談をしながら車で移動すれば、すぐにスーパーに着いて手早く必要なものを買っていく。
「えっと、本当に出してもらっていいんですか?」
「わしらの為に料理を振る舞ってくれるんじゃから当り前じゃ」
「色々とすみません。ありがとうございます」
「気にしないでくれ。その代わり期待はするからの」
「あ……あはは、頑張ります」
貴志さんの含みのある笑い方で言った言葉に対して、俺は少し苦笑いをしながら返した。
すると、和奏が悪そうな笑みを浮かべながら話しかけてくる。
「極端に変なものじゃなければ、全部美味しいって食べるくせに」
「おまっ! 今そういうことは黙っておくもんじゃろうが!」
「ね?」
俺は二人のやり取りを聞いて少し安心しつつも、喜んでもらえるように頑張ろうと思った。
必要なものを買い終えると、すぐに車に戻って走らせると貴志さんが聞いてきた。
「結局何を買ったんじゃ?」
「えっと、貴志さんの家庭菜園で取れた野菜以外で必要な野菜と香りづけでちょっとしたもの、後は調味料ですかね」
「ってことはナスにピーマン、トマトとキュウリ、後は大葉以外の野菜とその他諸々ってところかの」
「そうですね」
「う~ん。食材を見ないと何か想像がつかんの」
貴志さんがそう言うと、もう何を作るか知っている和奏がニヤニヤしながら言う。
「修司の料理って、お祖父ちゃん達に馴染みないかもだけど、すっごく美味しいから」
「おーそれは楽しみじゃの」
「おい、急にハードルを上げるなよ」
「だって本当のことだもん」
和奏は楽しそうに言っているが、俺は困ったようにため息をついた。
帰宅すると、時間は十五時。
今から準備すれば少し早め、もしくは丁度いいくらいの時間に夕飯ができるので、早速キッチンの前に立つ。
必要な食材で元々あったものが、イサキ、カボチャ、ナス、ピーマン、トマト、ミニトマト、玉ねぎ、大葉、砂抜きされたアサリ、シメジ。
買ってきたものがレンコン、ズッキーニ、パプリカ、ニンニク、生姜。
まずはトマトを湯むきするために、ヘタを取って薄い切り込みを入れた後、熱湯に沈めて、皮にしわが寄ったらすぐに冷水に浸けて皮を剥いでいく。
次に皮を剥いたトマトと一緒にナス、ズッキーニを一口サイズに、ピーマン、パプリカ、玉ねぎは乱切りにしていき、ニンニクだけは包丁の腹で潰していく。
「お米は炊いておいたよ」
「ありがとう。手伝ってもらって悪いな」
「元々手伝うつもりで、修司の部屋に行ったんだから気にしないで」
夕食の味を確認してほしいと和奏に頼んだら、調理のほうも手伝うと申し出てくれたので、手伝ってもらっていた。
「次は何すればいい?」
「鍋を用意して、ニンニクとオリーブオイルを入れて中火で火をかけてくれ。あ、ニンニクはもう一品でも使うから残しておいてくれ」
「了解」
火にかけて香りがたってきたら弱火にして、玉ねぎから、ピーマンとパプリカ、ナスとズッキーニの順番でしんなりするまで炒めてもらう。
これは野菜によって火の通り方が違うので、この順番で炒めてもらった。
「炒める度に軽く何か入れてるけど、それは?」
「これか? ただの塩だよ。少し塩を入れるだけで野菜から水分が出た後、炒めてる過程で水分が飛んで野菜の旨みが残るんだよ」
「へぇ~!」
野菜が丁度良くしんなりしてきたら、トマトと料理酒を入れ、最後に塩、粗びき胡椒、ローリエを入れて味を整えていく。
弱火で十分から十五分くらい煮込んだら、ラタトゥイユの完成。
「これ、もう食べちゃダメかな?」
「おい、駄目に決まってるだろ。次いくぞ」
「はーい」
和奏は少し不満そうな声を出しながらも、レンコン、カボチャを食べやすいサイズに切っていく。
俺は解凍したイサキの両面と腹に塩を振って十分ほど置いておく。
十分後にイサキの水気をキッチンペーパーで拭きとった。
「生姜と大葉は千切りでいいんだよね? あ、シメジも用意しておいたよ」
「ありがとう。それじゃ少し待っててくれ」
俺は中火で熱したフライパンにオリーブオイルをひいて、両面に焼き色がつくまでイサキを焼く。
焼き色がついたら、和奏に用意してもらった生姜と残りのニンニクを入れて香りが立つまで炒めていく。
その後、アサリを入れて少し炒めたら料理酒を入れて、アサリが開くまで加熱し、アサリが開いたらレンコンとカボチャと水を入れて、十五分ほど煮込む。
カボチャに火が通ったことを確認したら、ヘタを取ったミニトマトとシメジを入れて、しんなりするまで炒めていく。
和奏に味を調節してもらいながら醤油を入れて、最後は千切りにした大葉を乗せたら和風アクアパッツァの完成。
「完成だ」
「お~!」
貴志さんと奏子さんが喜んでくれるといいけど。
そんなことを考えながら横の和奏を見ると、和奏は目を輝かせながら料理を眺めていた。
その様子を見て、一瞬過ぎった不安もどこかへ飛んでいった。




