第百八話 朝食の手伝い
あれから一睡できずに朝を迎えると、下から物音が聞こえてきたので一階に降りてみる。
すると、奏子さんがキッチンの方で朝食の準備をしていた。
「おはようございます」
「今日はやけに早起きじゃないかい」
「あはは……」
ただ一睡も出来なかっただけです……なんて言えない。
俺は少し困ったように笑っていると、奏子さんは不思議そうにしていた。
「もう少し寝てきたらどうだい」
奏子さんはそう言いながら、すぐに朝食の準備を再開する。
「あーいえ、目が覚めてしまっていて」
それに今から寝られたとしても起きれる自信がない。
俺はそのまま朝食の準備をする奏子さんを見て、あることを思いついた。
「よかったらでいいんですけど、朝食の準備を手伝わせてくれませんか?」
「へぇ~あんた料理できたのかい?」
奏子さんは意外そうな様子で俺を見てくる。
俺は少し戸惑いながらも答えた。
「えっと、まぁ簡単なものでしたら」
「そうかい。といってもやることなんか大してないんだけどね」
奏子さんはそう言いながらも、俺が手伝うことを了承してくれた。
「とりあえず、ここにある野菜を一口サイズにしてもらおうか。ただナスを切る時だけ一声かけておくれ」
「わかりました」
俺は奏子さんに言われた通り、野菜を切っていく。
奏子さんは手を動かしながら、俺の様子を横目で見ていると感心しながら声をかけてきた。
「へぇー慣れてる感じからして、料理してるのは本当みたいだね」
「一人暮らしですから、これくらいなら。難しい料理とかはできないです」
「それだけできれば十分だよ」
そんな話をしていれば、ナス以外の野菜は全て切り終わった。
「切った野菜は味噌汁の具だからもらうよ。ナスは半分に切った後、皮の方に格子状に切り込みを入れておくれ」
「えっと、わかりました」
ナスだけは何か別に料理するのかと予想しながら、奏子さんの指示通りにナスを切っていく。
奏子さんは味噌汁用の鍋に切った野菜を入れた後、油を多めに敷いたフライパンを準備していた。
「このナス揚げるんですか?」
「軽く揚げ焼きにね。天ぷらで使った油が少し残ってるから、それを使っちまおうかなって」
「……なるほど」
でも、朝から油ものってどうなんだろうか。
俺がそんなことを考えていると、顔に出ていたのかわからないが、奏子さんがからかうように少し笑う。
「朝から揚げ物はどうなんだってかい?」
「えっ、いや、あの」
「まぁちょっと待ってな」
奏子さんはそう言いながら切ったナスを受け取ると、熱くなったフライパンに入れて揚げ焼きをしていく。
しばらく焼いて柔らかくなってきた頃に、フライパンからナスを取り出してキッチンペーパーで余計な油をきる。
それから奏子さんは俺が野菜を切っている間に用意していた出し汁に浸けていく。
「これは?」
「めんつゆに砂糖、ごま油を混ぜた出汁に細かく切った長ネギと青じそを入れたものだよ。この出汁で少しあっさりした感じになるからね」
「なるほど」
奏子さんはそう言いながら、ナスを全て出汁に浸けると冷蔵庫に入れた。
「後は白米が炊ければ完成だね」
「味噌汁に味噌は入れておかなくていいんですか?」
「好みの問題かもしれないけど、食べる前に入れる方が味噌の風味が飛ばなくて楽だからね」
「へぇーそうなんですね」
それから俺達は白米が炊きあがるまで、居間でテレビでも見ながら待つことになった。
お茶を飲みながら朝のニュース番組を眺めていると、ふと奏子さんが静かに話しかけてくる。
「少しは晴れたみたいだね」
「え? あ」
奏子さんも心配してくれていたのか。
あえて踏み込まない優しさだということに気付いた俺は、なんとなく和奏を思い出した。
この不器用な感じは奏子さん譲りって感じがするな。
「もう大丈夫です、心配をおかけしてすみません」
「別に心配なんかしちゃいないよ。祖父さんが変なこと言ったんじゃないかってハラハラはしたけどね」
それは心配してくれたのと同じなんじゃないだろうか。
そう思っていると、奏子さんは頬杖を突きながら素っ気ない様子でテレビを見始めた。
そんな奏子さんを眺めながら、この三日間のことを思い返す。
昨日は和奏の世話になったけど、ここに来てから二人には世話になりっぱなしだから、明日帰る前にお礼がしたいな。
そんなことを考えていると、ふとある提案を思いつく。
「あの奏子さん」
「ん?」
「よかったらでいいんですが、今晩の夕食は俺に作らせてもらえないですが?」
「……急にどうしたんだい?」
「この数日間、お世話になったお礼というのが一番ですが、少し自分の気持ちを見つめ直すきっかけをくれた貴志さんと、ここに来るように誘ってくれた奏子さんにお礼がしたいんです」
俺が頭を下げて頼むと、静かにお茶を飲む音が聞こえてきた。
それから湯呑をテーブルの上に置く音が聞こえると、奏子さんは軽く呟いた。
「はぁ、元々こっちからのお礼だったんだけどねぇ……」
恐らく奏子さんは呆れた表情を浮かべているだろうけど、俺はそのまま頭を下げ続ける。
しばらくすると、奏子さんから二回目のため息をつきながら話す。
「はぁ、わかったから頭を上げな」
「ありがとうございます!」
「ただし! あんたはお礼って言ったんだから、まずいものを出して来たら容赦なくまずいって言うからね」
「わかりました」
それから俺はすぐに、奏子さんから二人の好きな食べ物や苦手なものなどを聞き始めた。




