強力なライバル
レイクリフは自分の目を疑った。
王宮の一室で片膝突き、プロポーズしている男に、マーガレットが優しく微笑んでいるのだ。
レイクリフが舞踏会でした時には、やめてよバカ、と顔に書いてあった。
この待遇の違い、しかも相手は一国の王太子だ、公爵のレイクリフでは太刀打ちできない。ただし、王太子は6歳だが。
「マーガレット姫、貴方は優しく美しい。
弟を助けてくれて、どんなに嬉しかったことか。
どうか10年待ってほしい、必ず姫を妃にする。」
6歳の幼児がませすぎている。
周りにいる侍女達も、あらあらと微笑ましくみている。
レイクリフは飛び出して、マーガレットの手を握りしめる王太子の手を放させた。
「おや、公爵、やきもちですか、伯父上の出番ではありません。
公爵は僕より22歳も年上ですからね。」
王太子はどうだ、とばかりに言うが、クスッとレイクリフは笑う。
「殿下、申し訳ありません。
マーガレット姫は私の婚約者で、10年後には私の妻になっております。」
子供と大人で不毛な争いをしている、マーガレットは呆れるばかりである。
自分になびかない女に興味を持っただけだろう。
一時の熱が冷めたら、見向きもしないオモチャになるのはごめんだわ。
次々女性を替えてきたのは、熱しやすく冷めやすい、そういう男だからでしょ。レイクリフの評価はマイナス135点。
だが、このままでは結婚を避けれない、何とかしないと。
「これだ!」
自分で思いつきながら、頭を抱えた。
王太子に乗り換えて10年の間に何とかしようと思ったが、子供相手に情けなさすぎる。
王太子には、年相応の姫君がふさわしいし、騒乱の元だ。
情けない・・・・子供を巻き込もうと思った自分にマーガレットは落ち込む。
マーガレットはヒューイ殿下のお見舞いに王宮の王子の部屋を訪れていた。
ヒューイは、事件の深夜に意識を戻し皆を安心させたが、侍女の死のショックが大きく安静が必要だった。
部屋に王太子が来て、先ほどのプロポーズになったのだ。
ヒューイがそっとマーガレットの手を握ってきた。
「マーガレットは、いなくならない?」
亡くなった侍女の事を言っているのだろう、目の前で斬られ、自身は袋に入れられた衝撃は3歳の王子には大きなものだ。
「もちろんですわ、お元気になられたら王太后様のところで、また一緒に遊びましょうね。」
猫を被って言っているわけではない、これもマーガレットの一面である、公爵令嬢として19年育ったのだ。
ああ、ヒューイ殿下可愛い!
私も結婚して、こんな可愛い子供が欲しい。
旦那様は、真面目で働き者で~、私だけを愛してくれるの。
自分で想像して、キャ、と声が出た。
旦那様を想像しているところで、すでにレイクリフではない。
「どうした?マギー。」
レイクリフが覗きこんできて、ドキッとした、顔はいいのよね。
「時間だから迎えに来たんだ。
補佐官も待っているぞ。」
「お兄様が?」
わかりました、と言ってマーガレットは王子達に別れを告げ、部屋を出た。
「何してるの?」
回廊を歩くレイクリフがマーガレットの手を繋いできた、さっきヒューイ殿下としていたのと同じだ。
「いや、執務室まで距離があるから。」
「大丈夫よ。子供じゃあるまいし、ちゃんとついて行くから迷わないわよ。」
言うがはやいか、レイクリフの手を振り払う。
マーガレットにレイクリフの想いは1ミリも伝わらない。
元気がなさそうなマーガレットを、今ならイケルとレイクリフは思っていたが、失敗した。手も繋いでくれない。
南方部隊将軍執務室で、副官のイースと話していた兄のギリアンが、部屋に入ってきたマーガレットに声をかけた。
「殿下の様子はどうだった?」
「お元気ではなかったわ。ショックが大きすぎるのよ。」
はい、とお茶をわたされる。
カップから香る茶葉の香り、琥珀の色合い、兄はお茶を入れるのが上手い。
「お兄様のお茶、久しぶり。やっぱり上手ね。」
「裏切り者?」
反復して聞いたマーガレットにギリアンは答えた。
「舞踏会の夜の警備や時間、いろいろな事が漏れていた。
内部情報を提供した者がいるとしか考えられない。」
レイクリフは黙って座って聞いている。
「犯人達への訊問は、軍の管轄だ。それを元に内密に調査した。
婚約発表を壊して欲しい、そう指示を受けたと犯人は言っているのだ。
それなら、何故王子を攫う?
火事だけでも十分だし、リスクが増える。」
カタン、レイクリフが黙って動いた。その場の人間の視線が集まる。
「情報を漏らしたのは、軍じゃないぞ。
だから、補佐官にお願いした。」
バサ、とレイクリフがテーブルの上に置いた物を見て、マーガレットは目を見張った。
王宮内部の地図だ、大広間を中心に詳細に描かれている。
「犯人が持っていた物だ。軍が動くとバレるからな、だから僕達が動いた。」
ギリアンが言う。
それで、地図のところどころに血がついているのか、とマーガレットが納得するが、よほど王宮に詳しくないとここまで描けない。
「殿下の誘拐犯は、街のならず者に見せかけた隣国ウォールの者達だ。
生き残った者達が、決して口を割らない、それが街のならず者でないと証明している。」
陛下はこれを憂慮していたのだろう、だからグラント公爵家とワーグナー公爵家の婚姻を推し進めて内政安定と強化を計った。
レイクリフもギリアンも同じ事を思っていた。
「でだな、マギーを呼んだのは、囮になって欲しいからだ。
将軍と街をデートして目立ってきてくれ。」
ギリアンの言葉に瞬間沸騰直撃型マーガレット。
「バカ兄!妹を売ったな!!」
ギリアンの鳩尾にマーガレットの拳が入った。




