初恋認定
マーガレットは壁を登ってくる音に気が付いた。
どうして玄関から来ない?
はぁ、と溜息をつきながらマーガレットはベランダを見た。
マーガレットだって、レイクリフが公爵で将軍職を務める程の武官で容姿もいいことはわかっている。
今までの女性達には、それを使ってきただろうに、マーガレットにだけはカッコよさは前面に出てこない。
アイツ、バカなんだ。
結論はソレだ。
「マギー、鍵開けてくれよ。」
情けない声が聞こえる、笑わせる為に来たとしか思えない。
「話があるんだよ。」
「もう、寝ました。」
「え、それって寝室に来いってお誘い?」
殴られたいという事か、マーガレットがベランダの扉を開けるのと同時にレイクリフが抱きついてきた。
「ギリアンに言われただろう、怒りのままに動くと隙があるって。」
腕は絡みとられ、蹴ろうとした足も押さえられる。
それで躊躇するマーガレットではない、頭突きは想定外だったのだろう、キレイに決まったが、ダメージを受けたのはマーガレットだ。
「うわぁ!マギー!
額が赤くなっている。」
「レイクリフの石頭!痛い!」
「悪かった、俺の頭硬いんだよ。」
あわててマーガレットを抱き上げたレイクリフが、ソファーにマーガレットを寝かす。
戦場で沢山の負傷兵を見てきたレイクリフだが、マーガレットの赤くなった額の衝撃は大きいようだ。
オロオロと部屋の中でタオルを探して、水差しの水で冷やすとマーガレットの額にあてた。
「可哀そうに、痛いよな。」
あれ?蹴るよりも殴るよりも、レイクリフに与えたダメージが大きい気がする。マーガレットはレイクリフを観察する。
「痛い。」
マーガレットがポツリと呟けば、主治医を呼んでくると出ていこうとする。
「待って、ここにいて。」
マーガレットが言えば、直ぐに手を取りに来て横に座る。
「話って?」
タオルを手で押さえながら、マーガレットが身体を起こす。
「マギーの初恋の相手だが、気になってギリアンに聞いたんだ。」
一挙にマーガレットが臨戦態勢になる。初恋のきれいな思い出を土足で踏みにじろうとは許せない。
「ごめんな、勝手に聞いて。
それで、その男を越えるように頑張るよ、って言いに来た。」
バカじゃない、コイツ。いや、さっきもバカ認定したばかりだった。
初恋相手を越えないといけない、って思っているのか?
どうやったら、越えると確認できるのか?
レイクリフは初恋と言った、28になっての初恋。
あれだけ女性にもてまくったせいで、遅い恋愛感情。その対象が自分となると、少しは嬉しいという気持ちはあるが、大半は怖ろしいだ。
多分、レイクリフはマーガレットが思っている以上に真剣だろう。
「マーガレットを守って亡くなったと聞いた、忘れろって無理だと思う。だが、俺とこれからを生きて欲しいんだ。」
いや、無理じゃない、もうキレイな思い出だ。
父も兄も、この件に関してはデリケートだが、しょせんは淡い片思い程度だ。
母の方が図太く、聞いてきたし、言ってきた。男と女の違いという事なのかもしれない。
同じ立場だったら、男は自分が忘れたくないと思っているからだろうか。
マーガレットはじっとレイクリフを見る。
こんなデカイ図体でロマンチックなんて・・・・似合わない。
「お茶を入れるわ。
ずっと王宮につめていて疲れたでしょ。」
「今日は泊まっていいか?」
せっかく優しくマーガレットが言ったのに、図にのったレイクリフは一言が多い。
「なんで蹴るんだよ、俺達婚約者なんだぜ。
結婚式まで待てないよ。」
マーガレットの中で、ロマンチックにバッテンがつく。
「マギーが欲しい。」
レイクリフがマーガレットに迫ってくる。
「今度ね。」
「今度っていつだ?」
「その内よ。」
「その内っていつだ?」
一応は合意を得ようとしているらしい。
「なんか、初恋って意識したら身体が火照って仕方ないんだ。」
胸がドキドキする、とさえ言っている。
「今はそうでも、直ぐに他の女性にもするような気がする。」
「どれだけ信用ないんだ、マギーだけだ。」
「信用ないような女性関係していたでしょ。」
「愛を知って、俺は変わった。」
宣言するレイクリフはマギーの鉄拳の洗礼を受ける。
「マギー!」
「結婚式まで我慢したら、好きにしていいから。」
ああ、うざいとばかりにマーガレットがなげやりに言う。
レイクリフがマーガレットの額のタオルをどけてキスをする。
「後3ヶ月は長いよ。」
頬にもキスをし、唇に移動する。
長いキスの後、レイクリフはマーガレットに蹴られた。
「隙がいっぱいよ。」
フフフ、とマーガレットが勝ち誇って笑う。
お読みいただき、ありがとうございます。
甘い、レイクリフ甘くなってきました。




