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君は無敵の姫君  作者: violet
19/31

ハンカチ

姫・・・

ジルベールは、隠し持ったマーガレットのハンカチがある胸の内ポケットの上に手をあてる。

ギリアンから、妹からだ、と言葉少なく渡された。

姫が自分の無事を祈っている、その気持ちが嬉しくて、力がみなぎる気がする。


ギリアンは全員に、妹からだ、と渡した。

それ以上を言えなかったからだ、まさか妹がレース編みも刺繍も趣味で家に大量にあり、戦場に赴く男にハンカチを贈るシチュエーションを楽しんでいる、とは言えない。

きっと妹の軽い気持ちに比べ、男達は重く受け止めるだろう、勝手に妄想してくれ、というギリアン。

命を賭けて戦う男達に、妹は失礼だが、悲壮感漂わせて頑張ってと言うよりましだろう、結局、自分も妹には甘いのだ。


イースもハンカチを貰った時には感動したが、将軍のおまけと気が付いている。

彼のポケットには、母や妹からの手作りのお守りやハンカチも入っている。ワイルドな姫さん、可愛いトコあるじゃないか、と思う程度だ。

ジルベール、レイクリフと比べ、家庭的に恵まれているイースは、心に余裕があるのかもしれない。


鼻血が出るほど喜んだのはレイクリフである。

出陣前夜にはキスもくれた、額にだが。

「義兄上、マギーに必ず帰ると言伝(ことづて)を。」

「了解したから、義兄上は止めてくれ、僕の方が年下だ、ギリアンでいい。」

「では、俺はレイクリフと。」

きっとコイツは自分がいなくなると、ハンカチを抱いて小躍りするんだろうな、と思いながら、ギリアンは将軍執務室を出た。

レイクリフの頭の中には出陣前から、早く帰りたい、この思いでいっぱいだった。




国境を挟んだ戦場では、両軍入り乱れての死闘がなされていた。ウォール王国では、続く戦争で疲弊している、それでも戦争を仕掛けてきたのは、オルグ達のアルビリア王国軍内での反逆を想定しての事だ。

ウォール王国が近年、近隣国を掌握して大きくなってきたのは、第3部隊のように協力者を作ってきたからかもしれない。


レイクリフが自分に敵兵を引寄せることで、手薄になった敵軍をアルビリア軍が襲撃する。

敵軍の銃も弓矢もレイクリフを狙う。

早く帰りたいレイクリフは、多少のケガも仕方ないと思っている。その為にはどうするかを頭の中で高速回転させながら、戦略を修正していく。

後方でなく、前線で指揮し、危険も(いと)わなく斬り込んで行くレイクリフに、兵士達も士気があがる。軍神、とレイクリフを呼ぶ者までいるほどだ。

「左翼軍、敵地に突入!」

後ろから、すごい早さで駆けて来る軍馬を認めたレイクリフが叫ぶ。


「北方部隊、私に続け!」

血まみれのジルベールが馬の勢いを止めずに、左翼陣形を引っ張る形で敵地に突入する。

イースがジルベールに向けられた矢を振り払い、血濡れの剣で敵兵士を突き刺す。


左翼のジルベール、右翼のレイクリフ、二人の将軍が大軍を率いて国境を越えた。

アルビリア軍は優勢であったが、勝利が見えた瞬間だった。



深夜になって、レイクリフがジルベールの天幕を訪ねてきた。

「殿下、おケガは大丈夫ですか?」

そう言うレイクリフは、新しい補佐官ガクールを連れている。

「私は大した事ないが、イースが私を庇ってね。」

「やあ、レイ、問題ないよ、ちょっと胸と腕を斬られただけさ。」

ジルベールもイースも服を着替えていて、血はついてないが血の匂いがする。本人のケガの出血であろう。


アッシェンブルグ北方第1部隊長が前に出た。

「殿下、生き残った第3部隊兵ですが、麻薬中毒になってました。」

思わぬ報告に、ジルベールもレイクリフも目を見開く。

麻薬はウォール王国から流入しているのだろう。武器と麻薬が交換だったのかもしれない。

「第3部隊長、オルグ・ヤーツェフの荷物から大量の麻薬が見つかりました。麻薬に釣られてオルグには逆らえなかったようです。」

だから、第3部隊全員が反逆という人数になったのか。



「敵の退却に乗じて、王都を攻め落とすぞ。」

ジルベールは皆に、どうだ、と聞く。

マーガレットに会いたいレイクリフは、早く帰りたい。だが、ウォール軍の司令官の首取ったら帰ろうよ、とは言えない。だから、少しでも早く終わらせれるように一生懸命考えた。


「殿下の北方部隊はそのままウォール王国の王都に向かってください。

その争乱に乗じて、俺が敵陣営に突入して司令官を落とします。」

「わかった、ウォール王国の麻薬を没滅せねばならない。」

敵部隊が撤退し始めた今、有利に調停に持ち込む方法もあったが、ウォール王国を叩き潰す選択になった。


「仮眠を取ったら、夜明け前に奇襲だ。」

ジルベールの言葉に、皆が頷く。

「兵達にも、順番に仮眠と食事を取らせろ。ウォール王国軍にたたみかけるぞ。」


出陣してから3日、戦闘で2日、この後、ウォール王国王都まで2日、攻防戦に3日、王宮制覇に2日、帰国に5日、考えるだけで気が滅入る。短期決戦ですんでいるのが救いだ。半月もマーガレットに会えないのは辛い。

レイクリフは、ガックリ肩を落として自分の天幕に戻った。

手には、皆とお揃いとは知らないハンカチを持っている。



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