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君は無敵の姫君  作者: violet
17/31

出陣前夜

「イース・ブリューゲル、そうか。ジルベールに付いてくれるか。」

ジルベールから報告を聞く王は、嬉しそうに呟いた。

「次期将軍候補にも名が出るほどの、能力のある男だ。

それが、ジルベールに付いてくれるか。」

何度も繰り返す王に、ジルベールも苦笑いをする。


「兄上は、私を好きすぎます。」

「当たり前だ。」

ハハハ、と王が笑うのを、照れた表情でジルベールが見ている。

「イース・ブリューゲルは見る目があるな!」

「兄上。」

「許せ、嬉しいのだ。

私は、お前に苦難の道を与えてしまったからな。

ワーグナー将軍の痛手は大きいだろうが。」


「そうですね。

実は、私自身も、主君として認められ、何処までも付いてくる、と言われると男として嬉しいですね。

そして、恥じぬ人間にならなければ、と身が引き締まります。」

お前は真面目だな、と王が笑っている。




王都の酒場には、レイクリフとイースがいた。

「騎士学校時代からの腐れ縁だな、15年か。

お前と離れる事になるとは思わなかった。」

レイクリフがピッチャーから酒をグラスに注ぎながら言う。

「悪いな、俺も思ってたさ。

だが、主君を見つけた自分が嬉しいんだ。

何故とか、どこが、とか説明はつかないが、感じたんだ。」

カチンとグラスを交わす。

「祝いだ。」


近いうちに、お互い遠く離れて行くと覚悟しているが、ガヤガヤと酒場の騒音の中では、しんみりする心境にはならない。




グラント公爵邸の中庭では、マーガレットとギリアンが打ち合いをしていた。

夜の庭に剣の音が響く、先に地についたのはギリアンだ。

「勝ちましたわ。」

ニッコリとマーガレットが微笑んで剣を振りかざす。

「短気を起こさなければ、マギーは強いんだけどね。」

両手を挙げてギリアンが言う。

「明日、将軍が出陣する。」


剣を(さや)に戻しながら、マーガレットが聞いている。

「南方、北方、両部隊だ。

すでに、ウォール王国軍が国境間近にいる。

僕は早朝の出陣に立ち会う。」

「お兄様にお願いがありますの。」

マーガレットがドレスを翻して、屋敷の中に入っていく。後を追うようにギリアンも屋敷に入った。


サロンでお茶を用意していると、マーガレットが手にハンカチを持って戻ってきた。

「刺繍したハンカチを作りましたの。渡して欲しいのです。」

出された物に、ギリアンは驚いている。妹が婚約者に刺繍をしたハンカチだと。

「戦地に赴く婚約者に、刺繍のハンカチ。ステキでしょう。」

ギリアンは気が付いた、妹はシチュエーションに酔っている。

妹が生まれた時からの長い付き合いだ、妹の好きな小説のシーンにあったのだろう、と理解する。直ぐに腕力に訴える妹だが、乙女チックなのだ。


「戦場で、婚約者のハンカチを握りしめ、負傷しながら婚約者の事を思うのです!

残された婚約者は、無事を祈りながら帰りを待つ、定番ですわ!」

どこの定番だ?

ステキ、と呟く声が聞こえてきて、ギリアンは頭を抱えた。

妹はレイクリフの無事を祈るなどしないだろうし、第一、将軍のレイクリフが負傷するとなると、戦争が劣勢ということだ。


これは殿下、これはイース様、これは出兵しないけどお兄様、とレイクリフ以外の分も渡される。

妹よ・・・・




酒屋の帰り、明日は出陣なので、早めのお開きとなったレイクリフはグラント公爵家に寄った。

イースは両親に挨拶に行くと言って別れたが、レイクリフの両親は19歳の時に亡くなっている。姉は王家に嫁いでおり、ワーグナー公爵邸で使用人達と暮らしている。

イースが離れていく、寂しさがないはずがない、屋敷に帰っても家族はいない。


さすがに訪ねる時間ではないので、庭に忍び込み、マーガレットの部屋の下に行った。

ただ、マーガレットの近くに居たかっただけなのに、そこまですると、どうしても顔を見たくなる。早朝には出陣だ、生きて帰れる保証はない。


「どうしました?登れないの?」

頭上から声をかけられて、あわてて見上げるとマーガレットが2階の自室のベランダにいた。

レイクリフが部屋の下で、ウロウロしているのをマーガレットは窓から見ていたが、我慢しきれなくなってベランダに出てきたのだ。


隠す気のないレイクリフは、結構な物音を立てて庭に忍び込んだので、ギリアン達も気が付いたが、レイクリフとわかると放置したようだった。


「マギー。」

喜色満面で壁をよじ登ってくる姿は、手に吸盤でも付いているのかと思う程である。

「会いたかった!」

恐る恐るレイクリフがマーガレットを抱き締めると抵抗がない、出陣前夜ということで、マーガレットは乙女モード全開である。

マーガレット、出血大サービスで頭をコロンとレイクリフの肩に乗せた。

「夢か、いい夢だ。俺、酔っぱらってるんだなぁ。」

レイクリフの独り言が聞こえた。

ガン!!

レイクリフがマーガレットに蹴られたが、ニヘラと笑っている。

「痛いぞ、夢じゃない!」

結局、いつもの展開になったのだか、マーガレットも笑うしかない。


「そのだなぁ、あの。」

レイクリフが顔を赤くして、顔をマーガレットに近づけてきた。レイクリフは美形なのだ、マーガレットだって美しい顔は好きだ、だが・・・・

「息、酒臭い。」

マーガレットの冷めた声に、ベランダの空気が凍えた。

「うわぁ!残念すぎる、俺。」

レイクリフが膝を抱えてうずくまった。

「戦地で頑張ってくるのよ。」

そう言って、マーガレットがレイクリフの(ひたい)にキスをした。

「うわぉぉぉぉ!!」

レイクリフが奇声をあげて、首をブンブン縦に振っている。

「死ぬ気で頑張るから!!」



マーガレットに、風邪を引かないように部屋に入るよう言い残して、レイクリフはグラント公爵邸を後にした。

闇の中に消えるレイクリフを見送りながら、マーガレットも独り言。

「アイツ、小説の登場人物よりチョロイんじゃない?」

顔が(ほころ)んでいることを、マーガレット自身も気づかない。

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