シュテファン伯爵令嬢ミッシェル
恐がって引き籠っていても仕方ない、あんな大事件になると思わなかったのだから。
あれは3週間程前のこと、お父様に呼ばれた私は、その話にショックを隠せなかった。
「ワーグナー公爵がグラント公爵令嬢と婚約された。来週には婚約発表の舞踏会で式は半年後に決定したそうだ。
王の決定だ、誰にも覆せない。
ミッシェル、もう諦めなさい。」
グラント公爵令嬢って、夜会にも出席せず、王太后の元に通い、孤児院やら、教会で慰問や奉仕をしていると噂の地味な女。
一部の男性には絶大な人気があるそうだけど、見た事もない。
私と公爵がそういう関係になって、父が婚姻を申し入れたが断られている。
世間では、私は公爵の愛人の一人と言われているが、私には公爵だけだ。伯爵家の我が家なら公爵家にだって嫁ぐことができる。
父の顔を見るのがつらい、断られても時期になれば結婚できると信じていた。父にも家族にもそう言っていた。
南部地域を荒らした盗賊討伐の凱旋で、その姿に憧れ、なんとか近づきたいと夜会に通いつめたのだ。そして、想いを受け取ってもらえた私は、他の女達とは違うのよ。
王の決定、父の言葉が頭に響いた。
その夜も馴染みの夜会で公爵を待っていた、来週は婚約発表だという。私が御慰めせねばと思いは募る。
王の決定では、公爵といえども逆らえやしない。
「レディ、ダンスをお相手できますか?」
後ろからかけられた声に、慌てて振り向きがっかりする、レイクリフ様ではない。
「ワーグナー公爵を待っているなら、来られないよ。」
「クリオール子爵様、そんな事では。」
「公爵は結婚が決まってね、身ぎれいにするそうだよ。
貴女は若く美しいからね、私のところにこないか?」
クリオール子爵は妻帯者だ、どうしてこんな話がでている。嫌な予感がうかぶ。
「事業が上手くいっていてね、贅沢させてあげるよ。」
「結婚のお話なら、父を通して言っていただかないと。」
「はは、さすが男をあしらうのが上手いな。
遊び上手な貴女なら、いつでも歓迎するよ。」
そう言って子爵は去って行ったが、言われた言葉に泣きそうになる。
遊び上手な女、そう思われていたの?
私は伯爵令嬢よ、どこにだって嫁げる身分なのよ。
レイクリフ様はダンスを踊ってくださった後は、部屋で愛してくださったのよ。
グラント公爵家の力がなかったら、私が花嫁だったのに。
「レディ、こんなところでお一人ですか?
よろしければダンスをお願いします。」
そう言ってきた男性は、初めて見る顔だった。
「じつは、失恋したんです。哀れな男に一曲お相手を。」
「まぁ。お上手ね。」
ほら、私だって声をかけてくる男性はいるのよ。
「王の命令で彼女が結婚しなければならないのです。」
男性の言葉に、心臓がはねる、グラント公爵令嬢のことだ。
「お互いに不本意な結婚なんて、なくなればいいのにと何度も思いましたよ。
街には騒動を起こすならず者がいるので、多少の金で騒動を起こさせようかと調べたりもしました。
街の西はずれの酒屋ルアンにいるそうです。
婚約披露を騒動で台無しにすれば、王も不吉な始まりと考えなおすと思うのですよ。
ただ、金額が少々高くって、躊躇してます。」
「騒動ってどのような?」
「会場の庭園で花火を庭にばら撒くとか、楽隊の飲み水に酒を入れて演奏をだいなしにするとか。」
「まぁ。」
「おおと、言いすぎました、失恋男の愚痴です、忘れてください。
貴女のような美しい方と踊れて、忘れることができそうです。」
とても上手なダンスに私も気分が高揚してきた。
街の西はずれの酒場ルアン。
次の日の夕暮時に、一人でこっそり行ってしまった。
あんな火事を起こすなんて思いもしなかった。
王子を攫って侍女を2人も殺すなんて、聞いてなかった。
ただ、王宮に忍び込んで騒ぎを起こすだけだって、お金を渡してしまった。
舞踏会で信じたくないものを見てしまった。
レイクリフ様は笑顔でワーグナー公爵令嬢をエスコートして入って来られたのだ。レイクリフ様から贈られたドレスを着た公爵令嬢は美しかった。
続けて2曲も踊られ、そのうえ跪いて、愛を誓ったのだ。
好きなんて言葉言われた事なかった、リボンの一つもプレゼントされた事なかった。
夜会で誘うのはいつも私。
ダンスをして、別室で愛し合ったのに、私は何だったの。
あんな笑みをくれた事もない。
大広間の中央で微笑んでいる、あの男は誰?
私の知っているレイクリフ様じゃない。
なのに、あの女、首を振って嫌がっている。
公爵家で美人に生まれただけの女、嫌なら返してよ!
あの女こそ死ねばいい。
お読みくださり、ありがとうございます。
ミッシェル、イタイ。
好きになると多少は相手の悪い所に目をつぶろうって面がありますけど、これは強い願いが思い込みになってしまったような・・・




