目の前の王太子殿下は本当に私の幼馴染なのでしょうか?合言葉で確かめてみました。
『なろうラジオ大賞7』参加作品です。
作中キーワードは『合言葉』『ホットケーキ』『舞踏会』
戸惑いました。
私の目の前にいるのはセドリック王太子殿下、御年18歳。舞踏会の主催です。
銀の髪に豪奢なお召し物がよく似合っていました。
私はこの場へ『特別招待』されたのです。
『殿下は心から楽しみにしておいでです』と招待状にありました。
私はピンときました。王太子殿下は『リック』なのではないかと。
辺境伯の一人娘である私には友達がおりませんでした。同じくらいの年の子がいなかったのです。
お父様がある日男の子を連れてきました。
痩せた赤毛のみすぼらしい子。
「リックだよ。イザベラ。仲良くしてあげなさい。ただしこの子の存在は私達の秘密だ」
不思議には思いましたが、初めてのお友達が嬉しくて仕方ありませんでした。
私達はたちまち仲良くなりました。原っぱを駆け回り、ソファーの上で一緒に本を読みました。
雪が深いこの地に何日閉じ込められようと互いがいれば平気でした。
リックが特に喜んだのはホットケーキでした。ふんわりと丸く膨らんだそれにバターを溶かし、特産のシロップをかけるとたまらない。美味しかった。
でもそんな日々は長くは続きませんでした。
雪の夜、ベッドで体をゆすられました。
「起きて。イザベラ」
「リック…どうしたの? 夜中よ」
「お別れなんだ」
「えっ」
「追手が来た。僕殺されるかもしれない。行かなきゃ」
去ろうとする袖を必死に掴みました。
「合言葉を決めましょう!」
「合言葉?」
「どこで会ってもお互いがわかるように秘密の言葉を……」
そのまま離れ離れになったのです。
間諜を疑われ長い間逃亡生活をしていた王妃と王太子が名誉を回復。王宮に戻ったのは今から1年前のことでした。
目の前の王太子殿下はあの時のリックなのでしょうか?
あまりに違いすぎる見た目。髪は染めていたのでしょうが、堂々たる体躯がリックと重なりませんでした。
私は賭けをすることにしました。
屈伸礼をしてから殿下に声をかけたのです。
「ホットケーキ」
ざわつく貴族たち。戸惑う殿下。
「合言葉ですわ。覚えていらっしゃる?」
「覚えているよ。でも」
「でも?」
「……あのときは子供で」
「合言葉の続きがなければ『リック』と認めませんわ」
照れたように俯くと瞬きを一つ。殿下は私にだけ聞こえる声でそっと囁きました。
「…………大好き」
『ホットケーキ』『大好き』それが私達の合言葉!
殿下は私を強く抱きしめました。私も抱きしめ返しました。もう誰にも2人を引き裂かせやしない。リック! 会いたかった!




