大掃除 愕然
ウィール(土曜日) 午後
ウィールは午前で授業が終わる。
朝、一人で掃除をする限界を感じた私は、ナタリアさんへ相談してみよう、と授業が終わって事務室へと足を運んだ。
ナタリアさんのような好夫人に私のような豚が話しかけ、あまつさえ、相談するなどおこがましいが相談出来る人(言い換えれば、話しかけられる人)がナタリアさんしかいないため、仕方がなかった。
いつも通りに迎えてくださったナタリアさんへ、汗ばんだ手を震わせつつも、口を開いて説明する。私のつっかえつっかえの言葉にナタリアさんは黙ったまま、聞いて下さった。
「そ、それで、どうしたら良いのかなと……」
実際、私一人で生活を続けるならこのままでも一向に構わない。強いて言うなら、布団がなく、床で寝ているため、寝苦しいことくらいだ。だがそれも、今までの私がしてきたことの罰と思っているので苦ではない。
けれども、同室の子は違う。追い出した彼女があの部屋で生活出来るとは思えない。
汚物(私関連のごみ)は片付けたが、まだまだ汚れは残っている。壁には何かの卵の残骸やくすんだシミがあるし、腐ったような臭いも完全に消えている訳ではない。
出来るだけそれらを取る努力はこれからも続けるつもりだが、今までの取れ具合を考えると、恐らく、今の部屋の状態から劇的に改善することは、ない。
なお、私の鼻は既に麻痺しているので臭いは気にならない。
リフォームすれば全て解決するが、そんなことをする手持ちのお金も伝手もない。そもそも、リフォームが存在するのかも疑問だ。
ナタリアさんから相談を断られたら、ルームメイトに関して、諦めよう。
そう覚悟をして俯かせていた顔を上げれば、ナタリアさんは思案顔で私を見ていた。いつもの穏やかな雰囲気とは違い、どこかピリリとした空気に戸惑う。
やがて、ナタリアさんは一つ、ため息を吐いた。
「半信半疑だったけど、本当に……。その、実はね、私はあなたの様子を監視していたのですよねぇ。ちゃんと反省しているか、本当にごみを片付ける気があるのか。……ごめんなさいねぇ、テリセンちゃん」
「え……」
初めの部分が聞き取れず、聞き返そうとした私は続いた言葉の意味を、理解出来ず、固まった。
「人気のSクラスに助けられたから、もしかして改善した振りでもして彼らに取り入ろうとしてるんじゃないかっていう話がありましてねぇ。でも、元々の性格はそんなに簡単には変えられないでしょう。今までのあなたを考えると、やっても数日で終わるだろうと、他の先生達も思っていたのだけど……」
「そ、そう……だったの、ですか……」
理解したくないという思いの中、辛うじて言えたのは、それだけだった。
ついで、笑顔を浮かべようとした私は、多分失敗してしまった。
ナタリアさんが言っていることは正しい。
今までの態度を思えば、警戒するのも当然だし、私を信じるなどあり得ない事だったのだ。
だから、この胸に重りが入ったような感覚は全くの筋違いだし、気のせい。……気のせいでなければならない。
「はずかしいわ、疑っていた自分が……。大丈夫ですよ。私がちゃんと口添えをしておきますからねぇ。あなたは本当にあの事故から変わったのだと」
「は、はい……」
つん、と鼻筋に刺激がある。まだ、だめ。と、私は必死に腹の下の方に力をいれて我慢をして、ナタリアさんの話を聞く。
「しかめっ面をしないで? 無理なら、学園長に直談判でも何でもしてあげますから。掃除は殆ど終わっているのでしたねぇ? ここまで、あなたは頑張ったのだから、ここからは私が頑張る番ですよねぇ」
何を頑張るのだろうか。
学園長に直談判?
事務員でも、学園長と直接話すことが出来るのか。
彼女の言っていることが分からない。だが、それらを聞く前に、ナタリアさんは話を続けた。
「すこしの間、修練場で寝泊まりをしてもらう事になるけど……あなたは我慢出来るでしょうかねぇ……」
「しゅ、修練場……?」
初めて聞く単語に戸惑うが、ナタリアさんは気づかなかったのか、全て分かっているというような優しげな笑みを浮かべた。
「根気と努力に乾杯っ!ってところかしらねぇ。ちゃんと許可は取ってあげますから、気にしないで……ああ、部屋の中にあるもので壊されたくないものはある?」
咄嗟に思い浮かんだのは、お姉様から頂いた入学祝いの勉強机とセットの椅子だった。お兄様の指輪は、今も持ち歩いているし、これからも持ち歩いて行くつもりなので除外する。
「え、あ……勉強机を……あれは、壊されたら困ります」
そこまで言えば、ナタリアさんは右手の親指と人差し指で丸を作り、私へとウィンクした。
なんとも、行動が若い。
しかも、それが似合っているのだから凄い。
それから、部屋に帰って落ち込もう……と思っていた私はあれよあれよという間に、ナタリアさんに連れ出された。
修練場に行くって、え、荷物は? ……あ、いえ、元々何もないですけれどっ!
ナタリアさんが背を押してくる。恐ろしい事に、私の巨体が簡単にナタリアさんが行きたい方向へと進んでいる。まだダイエット効果、出てませんけれどっ!?
もしや、ナタリアさんはすごーく怪力なのだろうか。
初めは必死に抵抗していた私だったが、事務室が見えなくなったところで客観的にどう見えるかを考えた。
(ナタリアさんに押されて、歩く豚……滑稽すぎるわ……)
細腕のナタリアさんに押される私。その絵面が嫌で「押さないでください! ちゃんと着いて行きますから!」と叫び、大人しくナタリアさんの後ろを着いて行くことになった。
私は一体どこに連れていかれるのだろうか。
ナタリアさんはローズの味方だと思っていた人! 挙手っ!
あ、活動報告で書いたのですが。私、猫が好きです(●ↀωↀ●)✧
なんと言っても、あのふわふわした毛とか。きゅんきゅんしちゃいます。
顔文字も可愛いですよねっ!
(」・ω・)」うー!(/・ω・)/にゃー!
あ、今まで触った動物の中で一番好きな手触り感はダントツトップで『烏骨鶏』です(←




