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二つの刻の中で…  作者: 白い黒猫
一章

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8/13

魔女と呼ばれた女

 時雨結とは、結局その日中に連絡がつかなかった。

 プロデューサーの佐々木は、時雨結本人の連絡先を知らなかった。

 これまでのやり取りはすべて、担当編集者である幹元という人物を介していたらしい。

 ところがその幹元は、現在有給休暇中で日本におらず、どうやっても連絡が取れない。


「明後日には出勤するので、その時に伝えます」

 そう言われてしまえば、それ以上強くは言えない。

 どう見ても、こちらの事情は“緊急”には映らないのだ。


 ——だが、俺にとっては今日しかない。

 十二時を越えれば、この日は終わる。

 いや、終わるのではない。なかったことになる。


 無茶を承知で頼み込んだが、結果は空振りだった。


 時雨結は、もともと人気のライトノベル作家だった。

 だが【11:11:11〜廻る世界〜】を発表してから、別の意味で世間の注目を浴びるようになる。

 毎年、7月11日11時11分11秒に起きている事故。

 それを題材にした小説を書いたからだ。


 しかも出版の直前、彼女の仲間とも言えるラノベ作家仲間と、彼女の作品で主演を務めた声優が、まさにその時間に亡くなっていた。


「知り合いの死をネタにした」

 そう言われ、激しいバッシングを受けた。


 だが小説の内容自体は、亡くなった二人の事件とは無関係だった。

 イベント会社に勤める男性が、7月11日11時11分11秒に事故に遭い、そこから同じ一日を繰り返すループに巻き込まれる——それだけの話だ。


 ところが、その主人公が

「過去に同じ時刻で亡くなった土岐野(トキノ)(メグル)をモデルにしているのではないか」

 そんな噂が広まり、調べる人間が現れた。


 結果、毎年同じ時刻に事故が起きている事実が掘り起こされる。


 ラノベ作家の(ソラ)(タマキ)

 声優の月代(ツキシロ)(レイ)

 そして、彼女のデビュー作の表紙を描いたイラストレーター・命華(メイカ)

 主人公のモデルとなったとされる土岐野(トキノ)(メグル)


 全員、前の年の7月11日11時11分11秒に亡くなっていた。


 一部では、

「時雨結が事故を起こしているのではないか」

「魔女だ」「預言者だ」

 そんな声まで上がるようになる。


 時田が亡くなった後、その名が主人公の名前に似ていることから、彼女を本物の霊能者として崇拝するような人間まで現れた。


 それでも、時雨結は何も語らなかった。

 淡々と小説を書き続け、昨年には続編【11:11:11〜永遠の宙】を発表している。

 発売直前に亡くなった時田について、あとがきで追悼の言葉を載せていた。

 それが、彼女自身の言葉として唯一、11:11:11関連で発信されたものだ。


 友であり、クリエイターとしての師を悼む文章。

 死に方にも、時刻にも、一切触れていない。

 スピリチュアルな要素は一切ない。


 様々なエッセイでも彼女は、知的でウィットに富み、ロジカルで、極端な思想を持たない文章を書く。

 それまでの作品も同様だ。

 設定は破綻せず、世界観は緻密で、物語は美しく綴られている。


 もし現実で、毎年11時11分11秒の事故さえ起きていなければ。

 間違いなく、才能に恵まれた人気作家として正当に評価されていただろう。


 ネットでも調べてみたが、作品に関する情報はいくらでも出てくるのに、

 作者本人については驚くほど情報が少なかった。


 この現象に関して、彼女が無関係とは思えない。

 ただ、11:11:11に毎年連続して起こる事故を題材にしただけなら、

 ここまで俺も気にしなかっただろう。

 このネタは、以前トカズコーポレーション関連で、二年連続事故が起こった時にも話題になっていたことだからだ。


 しかし彼女は、そこにループ現象という要素を加えている。

 そこが、どうしても気になってしまうのだ。


 このループという要素は、【閉ざされた夏の日】という映画から発想を得たというが、一日が終わりループに入る感覚が、まったく俺が体験しているのと同じだった。


 何かを知っているとしか思えなかった。

 しかし、俺の今の状況で彼女とコンタクトを取るのは、なかなか難しかった。


 一方、高速道路の事故は、個人で止められるものじゃない。

 封鎖でもしない限り、どうにもならない。


 俺は何度も、事故に巻き込まれる人物に、怪しいと分かっていながらメッセージを送った。

 だが結果は同じだ。

 冗談だと流されるか、仕事があるからと無視されるか、その回は助かっても、次のループで元どおり。

 だから俺は、高速道路の事故を救うのを諦めた。

 現場から離れた【11:11:11〜廻る世界〜】の主人公の気持ちが、

 嫌というほど分かる。


 それでも、オッサンの俺は完全には割り切れないらしい。

 朝起きて、十和一絵から電話をもらい、

 タクシーに乗り、七星四季館に通い続ける。

 糸口があるとしたら、ここしかない。

 そう思って、必死に縋っている。

 三十回も繰り返せば、どれだけ悲惨な事故にも、慣れてしまう。

 同じ映画を、何度も再生しているような感覚だ。


 今日は眞光といるのが少し疲れて、先に会議室へ向かうことにした。

 見慣れたロビー。

 割れたガラスにも視線を向けず、野次馬の溜まる方角を横目に歩く。


 ふと思い出した。

 今通り過ぎたあのロビーで、自撮りをしていた女性。

 あの場所に、いただろうか。

 思い出せない。

 すでに会議室まで来ていたため、

 事故現場へ戻るのは不自然だ。

 次のループで確認することにした。


 結果から言えば、

 あの二人の女性がいた場所には、誰もいなかった。

 具体的にどんな姿だったのか?

 ぼんやりとしか覚えていない。

 ロングヘアの女性の、敵意のある視線だけしか覚えていない。

 その女性は、青い花柄のワンピースを着ていた気がする。

 もう一人の女性は……。

 ショートではなく、もう少し髪は長かった?

 洋服は……黒?

 それとも紺とかいった、濃いめの色の服を着ていた?

 はっきり覚えているのは、“カシャ”という微かなシャッター音だけだった。


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