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二つの刻の中で…  作者: 白い黒猫
2章

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12/13

ワインバーにて

 指定された場所は、銀座にある俺も知っているワインバーだった。よくここで時田と飲みに行ったお店だ。

 彼女はお店の奥まった場所にある、壁の窪みに造られた半個室のような席を指定してきた。

 作品について語りたいときは、俺も時田とこの席を選んで飲んだものである。

 あまり人には聞かれたくない会社の話などをしやすい席だった。

 彼女がここを指定してきたことからも、二人もここで飲んでいたんだなと、なんとも言えない気持ちになった。


 俺が店に行くと、時雨結は先に来ていて、俺が近づくと立ち上がり、丁寧にお辞儀をしてきた。

 俺もつられてお辞儀を返してしまう。仕事での席ではなく、こちらの要望で来ていただいたのに、少し申し訳ない気持ちになる。


「時雨先生。会っていただき、ありがとうございます」


 俺はそう言いながら、もう一度頭を下げる。


「いえ、そんな……まず座りませんか?」


 席に座り、改めて向き合うと緊張する。

 時雨結への敬意を込めて高めのワインを注文し、向き合うが、何から話していいのか悩み、黙り込んでしまう。

 とりあえず、何に対してかは分からないが、乾杯をした。


 一口飲んでから、時雨結は視線をこちらにまっすぐ向けてくる。


「あの、私、舞原監督のような方から先生なんて呼ばれるほどの人間ではないので、単なる【時雨】でお願いします」


 少し恥ずかしそうに、時雨結は話してくる。


「私も、ここでも監督と呼ばれるのは気恥ずかしいので、【舞原】でお願いします」


 そういう会話をしたことで、少し場が緩む。


「お手紙、拝見いたしました。

 大変な状況で苦しまれたのですね」


 優しい声でそんなことを言われ、俺の緊張は少し緩む。


「時雨先生は、あんな荒唐無稽な内容……信じてくださったんですね」


 俺の言葉に、時雨結は苦笑する。


「私も似たような経験をしていると思われたから、連絡をしてくださったんですよね?」


 その言葉に、驚きではなく『やはり』という言葉が浮かぶ。


「お察しの通り、私もループ現象を体験して、そして解放されて、今こうしています」


 希望を感じて俺の表情が明るくなったのを見て、時雨結は少し悲しげな表情をする。


「しかし、それだけなんです。

 私にはループ現象に囚われてしまった人を救う力もありませんし、その手立ても知りません」


「でも、貴方はループを抜け出した方法をご存知なのですよね?

 俺は、なぜ自分がループを抜け出せたのかすら分かりません」


 時雨結は少し顔を傾け、俺を見つめてくる。


「その方法に、気づいておられるのではないですか?」


 その言葉に、俺の心臓がチリリと痛む。


「俺は若い一人の女性を犠牲にして、戻ってしまった」


 俺の言葉に、時雨結は慌てたような顔をする。


「いえ。そういうことはないです。

 舞原監督の場合は、私の時より、もう少し複雑な状況に感じます。

 だから状況を確認するためにも、整理させてください」


 一回り以上下の女の子に、俺は縋るような視線を向けてしまう。


「舞原監督は、どのくらいこの現象のことについてご存知なのでしょうか?」


 俺は改めて現象について考える。


「小説に書かれていた内容が、事実なのだな、という認識でいる感じです。

 11月11日生まれの人が、7月11日のあの時間に事故に巻き込まれることで、ループ現象がスタートする。

 その時にそばにいた11日生まれの人が、同様にループ現象に巻き込まれる」


 俺の言葉を聞き、時雨結はゆっくりと頷く。


「ループに巻き込まれたルーパー以外は、基本同じ一日を繰り返す。

 しかし、俺が接触することで、その言動は変化する。

 そんな感じですよね?」


 俺の言葉に、時雨結は口角を上げ、頷く。なんか教授からテストをされている学生のような気分だ。


「概ね、そんな感じです。

 それで、一つお聞きにしたいのですが、舞原……さんの誕生日は、11月11日なのですか?」


 俺は顔を横に振る。


「いえ、9月11日です」


 俺の言葉に、時雨結は少し考える様子を見せる。


「亡くなられた十和一絵さんの誕生日は、お分かりになられますか?」


 俺は十和一絵の言葉を思い出す。


『時田さんって、私と同じ誕生日なんですね』


「時田と同じ……! 11月11日です!」


 時雨結は予想していたのか、驚いた様子もなく、悩む表情をする。

 ワインを一口飲む。そして、フーと息を吐く。


「……あの、貴方にとってご不快な内容だと思うのですが、聞いていただけますか?」


 そう言った後、時雨結の視線が俺から外れ、細められる。

 視線の向けられた方向を見て、俺は驚く。

 カウンター席で飲んでいるロングヘアーの女性に、眞光が声をかけているところだったからだ。


 眞光は、俺たちの方を見て微笑み、手を上げた。

 チラリと時雨結の方を見ると、眉を寄せ、あまり好意的ではない表情を眞光に向けていた。

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