神狼の掘り出し物 (2)
ウーリーに害がないと納得できたところで、ジョージは騎士たちを下がらせた。ジョージ自身も屋敷に戻ろうと、きびすを返そうとする。そこへユージェニーは声をかけた。
「おじいさま、ちょっとこれを見てくださいますか」
「うん? 何だね?」
ユージェニーはハンカチを広げ、ウーリーがくわえてきた金属を祖父に見せた。その模様が何か気づいたとたん、ジョージは難しい顔になる。
「王家の紋章じゃないか。これはどうしたんだい?」
「やっぱりそうですよね? ウーリーが持ってきたんです」
「どこから?」
「どこからでしょうね……」
出どころに関しては、さっぱり見当がつかない。ウーリーが姿を消してから、今までどこをうろついていたのかも全然わからないのだ。
ところがここで、ピンと耳を立ててユージェニーをじっと見つめていたウーリーが、すっくと立ち上がった。かと思うと、鼻づらを彼女に押しつけてぐいぐいと押す。ウーリーの態度に、ユージェニーは首をかしげた。
「ウーリー、どうしたの? どこか連れて行きたいの?」
「オン!」
どうやら神狼には、彼女を連れて行きたい場所があるらしい。
ユージェニーが問うように祖父を振り向くと、ジョージはうなずいて見せた。彼女がウーリーに「どこなの?」と尋ねると、ウーリーは先導して歩き始めた。ときどき振り返っては、彼女が付いて来ていることを確認する。
そうして連れて行かれた先は、なんと厩舎だった。ウーリーは厩舎の前で立ち止まり、そこに体を横たえてしまう。ここに連れて来たかったのは間違いないものの、ここが最終目的地というわけでもないようだ。
「馬で行けってこと?」
「オン!」
ユージェニーは祖父を振り返り、「──だそうです」と肩をすくめた。
「ちょっと着替えて、行ってきてもいいですか」
「うん。わたしも一緒に行こう」
二人は屋敷に戻って乗馬服に着替え、厩舎に引き返した。その間、ウーリーは厩舎の前で寝そべって待っていたようだ。二人が護衛二人を伴って現れると、すぐに立ち上がり、ブルブルと体を振って汚れを落とした。
四人が馬の支度をしている間も、厩舎の前をうろうろと歩き回り、おとなしく待っている。そして準備ができたと見てとるや、先導して歩き始めた。小走りに進んでは足をとめて振り返り、馬の歩みに速度を合わせる。
向かった先は、王都の外。王都の北東に向けて、街道をてくてくと進んでいく。この街道沿いには、途中に「魔の森」と呼ばれる深い森がある。しばしば魔獣が群れをなして出没することで知られる森だ。
その森に差しかかったところで、突然ウーリーは道端の茂みに飛び込んでしまった。
「え」
驚いたユージェニーは、馬をとめる。他の三人も戸惑ったように、ウーリーが姿を消した方向を見ていた。が、しばらくするとガサガサと茂みが揺れ、ひょっこりとウーリーが頭を突き出す。そしてユージェニーを見上げて、首をかしげた。
まるで「どうして来ないの?」と言っているかのようだ。
「この先なの?」
「オン!」
ユージェニーは祖父と顔を見合わせてから、「行ってきますね」と馬を下りた。もちろん、他の三人が彼女をひとりで行かせるわけがない。全員、馬を手近な木につなぎ、ウーリーの後を追った。
ウーリーが案内したのは、茂みを抜けてすぐのところにある、少し開けた場所だった。その一角をフンフンと匂いをかぎながら、前足で軽く掘ってみせる。そこには、土に埋もれかけた金属が見えた。取り出して土を払ってみれば、それはウーリーが侯爵邸へくわえてきたのとまったく同じものではないか。
ユージェニーがその金属をジョージに渡すと、彼は「まさか……」とどこか呆然とした様子だ。
ウーリーはユージェニーに体をこすりつけてから、さらに先の茂みの中に姿を消した。そしてまた、茂みの中から頭だけ出して彼女を見上げる。仕方ないので、ウーリーの後を追って茂みに分け入ると、そこには横倒しになって朽ちかけた馬車があった。
ウーリーはその馬車に、ひらりと飛び乗った。そして御者台に取り付けられている、手のひらサイズのメダルを前足でトントンと叩く。それは魔道具だった。風雨にさらされてすっかり変色しているが、ユージェニーには見覚えのあるものだ。
それは港町アルデラに向かう途中で出会った、パルトン大公国のダライアス・ファレルが持っていたのと同じものだったのだ。彼女の後について茂みを分け入ってきたジョージを振り返り、魔道具を手振りで示す。
「おじいさま。ウーリーが見せたかったのは、これみたいです」
「これは……。第一王子殿下の亡くなった場所じゃないか」
これには、ユージェニーも驚いた。第一王子夫妻がここで亡くなり、その馬車に魔獣寄せの魔道具が取り付けてあったということは──。
ユージェニーが「この魔道具は、魔獣寄せです」と説明すると、ジョージはゆっくりとうなずいた。そして、ため息をつく。
「ということは、この魔道具の入手もとがわかれば、この事件の手口が明らかにできるのか。しかし、もう二十年近く昔のことだからなあ……」
「わかるかもしれません」
彼女の言葉に、ジョージはカッと目を見開く。
「わかるのか!」
「たぶん」
そこで彼女は、ダライアス・ファレルの話をした。魔獣よけと偽って、魔獣寄せの魔道具を渡され、危ない目に遭っていた外国の貴人と偶然すれ違ったのだ、と。ウーリーと再会したのは、そのときのことだ。
もしかしたらウーリーは、そのとき見たのと同じ魔道具を見つけたので、彼女に知らせに来たのかもしれない。
「ダライアス卿に問い合わせたら、誰に渡されたものか教えてくれると思います」
「なるほど」
「家に戻れば、いただいた連絡先のメモがありますよ」
「助かるな。ありがとう」
礼を言うジョージの目には、確かな希望の光がともっていた。




