きらきらした夜
ひらがな表記が少ないのは読みやすさの為だとご理解いただけると助かります。
あるとても寒い月の輝く夜のことです。
机の上に分厚い表紙のある本がありました。
本の持ち主の少年は既に彼のベッドで夢の中。
机にある本の表紙には緑のドレスを纏った羽の生えた少女が描かれていました。
どうやら彼女は本のお話にに出てくる妖精さんのようです。
妖精さんの目がキラリと光ると表紙から、むくりと起き上がり表紙も開きました。
出てきた妖精さんは本より少し高い位置に浮かんでいます。
妖精さんが蝶々のような羽をひらりとすると、机の奥にある窓が少しだけ開きました。
ひゅーっと冷たい風が一瞬、少年の部屋へと流れ込みます。
風と共にパラパラと捲られたページたち。
ページが動く度に、黒い小さなものが机の上に落ちていきます。
よく目を凝らして見ると、黒いものを落としたページは真っ白に。
落ちたきたのは、本の文字たちだったのです。
文字たちが本から出て来るのを待ち終えた妖精さん。
彼女は頬を少し膨らませ、口を尖らせこう言いました。
「今日だけだからね!絶対だからね!」
妖精さんの言葉が合図のように、本から出てきた文字たちは窓の隙間から飛び跳ねながら出ていきました。
キーンと冷えた夜に、ぴょんぴょんと出ていく文字たち。
一瞬のうちに氷のようになってしまいました。
その小さな文字だった氷たちは風に乗って舞い上がると、星が輝いていた空には大きな雲が風に揺られて来ました。
冒険に出た文字の氷たちのためにでしょうか。
雪雲が遊びに来たようです。
はらはらと舞い上がるように降る粉雪と一緒に、文字だった氷たちも夜空を踊ります。
ある文字は雪と氷として地面に降り注ぎました。
ある文字たちは月の光の夜を泳げるようにと風にお願いをします。
氷になった文字たちは、月の世界できらきらと輝いて冒険をたくさんたくさん楽しんでいました。
楽しい時間はあっという間というのは本当なんです。
文字たちは、魔法が溶けたように氷から自分たち黒い姿に戻ってしまいました。
文字たちはゆっくりとぼとぼと少年の家の方へと歩いて行きます。
家の中から文字たちが帰ってきたのが分かった妖精さんは羽をひらり。
本の中にちゃんと帰るようにしたのです。
ただしみんながみんな良い子とは限りません。
なぜならのんびり自由に過ごした1ページ分の文字たちがいたのです。
「あ、お家の御本に戻れなくなっちゃう」
頑張って少年のお家の方へと走りました。
本の中から「56ページさんだけ帰ってないぞ」と、不満の声を聞かされていた妖精さん。
早く早くと羽で合図。
なんとか文字たちが本の中に滑り込んだのを確認してから妖精さんも表紙へと。
自分の本の文字達がお出かけしていたなんて知らなかった少年。
彼のお気に入りの読書の時間がやって来ました。
「あれ?ママ、このページだけ文字が全部逆さまになってる」
お読み下さりありがとうございました。
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