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第四十七話

クライマックスに入っていきます。

あと少し、どうぞよろしくお願いいたします。

 ――季節が巡り、三度目の冬が近づいたころ。

 窓辺に舞い降りた烏がカアと鳴く。朝食を食べていたベアトリクスがそちらを見ると、烏は右足に手紙を携えていた。


「まあ、手紙だわ。珍しいわね。烏さん、ありがとう」


 手紙を受け取ると、烏は再び外に羽ばたいていった。

 クロエ宛だろうと思ったが、しかしあて名はベアトリクスだった。裏面にしたためられた差出人の名前は――


「ミカエル様からだわ」


 指先に感じる手紙の厚みにベアトリクスは胸騒ぎがした。


 手紙は謝罪から始まっていた。ゴミ屋敷を守れなかったこと、そしてその後ベアトリクスの力になれなかったこと、行方を捜したが見つからないためこっそり王族専用の特別な通信用烏を使ったこと――。一枚目にはそのようなことが書かれていた。

 二枚目に移ると、文字を追う目がはっと止まった。


『国内はゴミに溢れ、疫病が流行しています』

『国王陛下は遠征中につき第一王子殿下が対応しておりますが、芳しくなく』

『死者多数』


 ――なぜ、そんなことに? 

 急に高鳴り出した心臓。嫌な汗が背中をつたい、思わず胸を押さえながら先を読む。


『今や我が国のゴミを拾う者は誰もおらず』

『どうしてこうなったのだと政府幹部は慌てております』

『ベアトリクス様、どうか民のためにお戻りください』


 ――手紙には、そう書かれていた。


「わたくしが居なくなったからグラディウスはゴミが溢れているのね。それで疫病が……」


 はあと深いため息をつき、のろのろと便箋を封筒に戻す。


「わたくしがゴミを拾う余地など残されているのでしょうか」


 政府幹部が慌てていると書かれてはいるが、自分を追い詰めた張本人、第三王子ユリウスはどう思っているのだろうか。

 彼がソルシエールまで追ってくる気配は感じられない。今はこの地でそこそこ平穏な暮らしができているし、危険をおかしてまで帰郷する意味はあるのだろうか。


「……とにかくルシファーとクロエ様に相談してみましょう。今夜お会いできたらいいけれど」


 ベアトリクスは手紙をエプロンのポケットにしまって立ち上がる。

 そして既に寝室に入っているクロエを起こさないよう静かに食器を片付け、仕事に出かけたのだった。


 ◇


 ルシファーの修行に休日などない。そのうえクロエと揃ってとなると、いつ会えるという保証は全くないのだが、運よくその日の深夜に二人の声が聞こえた。うとうとしていたベアトリクスは急いで寝室から居間へと向かった。

 地図を前に話し込む二人。数週間ぶりに姿を見るルシファーは痩せたようで心が痛む。しかしそれ以上の会えた喜びを感じながら声をかける。


「クロエ様、ルシファー。お話し中に申し訳ございません」

「どうしたベアトリクス。真夜中だぞ」


 ルシファーは驚いて顔を上げるが、クロエは優雅な表情を崩さず、鋭い目線だけをベアトリクスに向ける。


「我らの話に割って入るとは。よほど急用であるとみえる。言うてみよ」

「師匠。きっと何か訳があるのです。聞きましょう」


 誇り高い大魔法使いは話を遮られたことに立腹しているらしい。ルシファーの取り成しに感謝しつつベアトリクスは跪き、ミカエルからの手紙を提示した。


「今朝、グラディウスの友人から手紙が届いたのです。どうかご覧になってくださいませ」

「……」


 クロエが右手を振ると、ベアトリクスの手のひらからふわりと手紙が浮き上がる。そしてひらりとクロエのもとへ舞い落ちた。

 深紅の爪が、ゆっくりと手紙を開く。その様子をベアトリクスは緊張しながら目で追った。

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― 新着の感想 ―
[一言] ベアトリクスにおんぶにだっこだったっていうのに政府幹部はまだその事に気づかなんだ(゜Д゜;) 愚かどころか哀れに思えるよ。
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