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第二十一話

 先ほどまでいた広場から数分離れたところに、そのペンネの出店はあった。


「ここね! ミートソースにクリームソース、どれも美味しそう。好きなものを選んでかけられるのね」


 はしゃいだ声を上げると、恰幅のいい店主がこちらに顔を向け愛想良く言った。


「ベアトリクス様、いらっしゃい! おすすめはサーモンのクリームペンネだよ。この日のために隣国から特別に仕入れたんだ」

「サーモン! 魚は貴重ですわね。ルシファーも喜ぶわ」


 サーモンのペンネとよく冷えた果実水を二つ購入したベアトリクスは、うきうきしながら人混みのなか元来た道を引き返す。

 そんな彼女の前に、突然二人の男が立ちはだかった。


「なあなあ、姉ちゃん。どこ行くの?」

「美味しそうなペンネだねえ」


 肉ダルマのような小柄な男と、長身でガタイのいい男だ。

 二人ともニヤニヤと締まりのない笑みを浮かべており、よれた服装と無精ひげがだらしない。肉ダルマのほうはポケットに手を突っ込みながら、不躾に彼女の側にやってきた。


「……市の会場に戻るところですわ。何か御用でしょうか」


 顔を背けて足早に通り過ぎようとするベアトリクス。彼らの様子から、まともな用があるとは思えなかったからだ。


「御用っていうかねえ……。俺たち、暇なんだよね。一緒に遊ばない?」

「見事な金髪じゃねえか。ちょっと触らせてよ」

「あ、ちょっと! おやめください!」


 あっという間に距離を詰められて髪に触れられる。

 振り払おうにも両手は料理を持っているため使えない。きっと睨みつけると男たちは余計に面白そうな顔をした。


「おーおー、気の強い嬢ちゃんは好きだぜ。泣かせたくなるぜ」

「ほら、行こうぜ。なに、すぐ楽しくなるさ」


 下品な笑いと熱のこもった視線に背筋がぞっとする。

 ベアトリクスは考える。成人男性一人ぐらいであれば股間を蹴り上げて逃げられるが、相手は冒険者崩れのような者で二人。そのうえ両手が塞がっている状況では、どう行動するのが正解なのか?


 おそらく最適解は、「大声を出して周囲に助けを求める」だっただろう。しかし一瞬悩んだ隙を突かれて口を塞がれる。


「んんっ!!?」


 右手から果実水のコップが滑り落ち、地面に吸い込まれていく。

 彼女の声にならない悲鳴は雑踏にかき消され、あっという間に路地裏に連れ込まれてしまった。


 ◇


「――ベアトリクス、遅いな」


 食べ物を買いに行ってから三十分は経っている。

 ペンネの店とやらはそんなに遠いのだろうか。ベアトリクスは「ちょっと待っていてね」くらいの感覚で出ていったように思えたが……。

 どこか寄り道でもしているのだろうか。顔の広いベアトリクスだから、住民につかまって立ち話でもしているのかもしれない。


 売れ残り品の積み込みも終わったし、夜も近い広場には人もまばら。みな花火がよく見える王城周辺へ移動してしまったのだろう。

 荷車に背を預けてしばらく考えるルシファーだったが、やがて顔を上げる。


「探しに行くか。いくらなんでも遅すぎる」


 運よくどこかで見た顔の冒険者が通りかかったので、きょとんとする彼に銀貨を掴ませる。


「荷物の見張りを頼む。あと、これ借りるぞ」


 混乱する彼の腰元から剣を拝借し、ベアトリクスが消えていった通りの方へと駆けだした。


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[一言] 急ぐんだルシファー(゜Д゜;)
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