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第十九話

 数週間が経過し、グラディウス王国は星の市の日を迎えていた。

 大きな蚤の市が立ち、飲食店は屋台を出し、職人らはこの日のためにとっておきの商品を軒先に並べる。準備をする住民たちで街は早朝から賑やかだ。


「ベアトリクス様、おはようございます」

「おはようございます、ミカエル様。ごめんなさいね、クエスト前の貴重なお時間をいただいてしまって」

「お気になさらないでください。むしろ、手伝いをさせてくださるのならクエストなんて受けませんでしたのに。非常に残念です」


 屋敷の前で待っていたミカエルはベアトリクスを認めると素早く姿勢を正した。そのまま丁寧に腰を折ると、動きに合わせて銀色の長い髪がさらりと揺れた。


(どうしておまえがいるんだよ)

(子供は引っ込んでいなさい。あなたでは設営の力仕事ができないでしょう)


 目線でけん制し合うルシファーとミカエル。

 その様子は、ベアトリクスには親しげに映ったようだ。


「目で会話をするなんて、ふたりは仲良しなのね。歳も近いし、いい友達になれるといいわね」


(おい! ベアトリクス!!)


「……歳が近い?」

「あっ」


 焦った様子のルシファーの視線に、やってしまったという顔で口元を押さえるベアトリクス。ミカエルの怪訝な表情を無言の笑顔でやり過ごし、「さ、さあ、市の準備をしなきゃ!」と奥へ消えていった。

 ミカエルはじろりとルシファーをねめつけた。


「……君、わたしにまだ何か隠していますね?」

「隠すも何も、おまえに全てを言う筋合いはないだろう。残念ながら、俺はおまえと仲良くなりたいと思っていない。悪いな」

「奇遇ですね。わたしもですよ」


 ミカエルは笑っているが、額には青筋がぴくぴくと震えている。ゴミ屋敷には、全く場違いな二つの強い殺気が渦巻いていた。


 ◇


 市に出す品を荷車いっぱいに積み込み三人で会場に向かう。蚤の市の会場となる広場に到着すると、すでに多くの民で賑わいをみせていた。

 広場は等間隔に区画分けされていて、おのおのシートを敷いたりテントを張ったりして店を出している。ベアトリクスも自分に割り当てられた区画の前に荷車を止め、荷物を下ろし始める。


「重いものはわたしがやります。ベアトリクス様は負担の少ないものを」

「まあ。ありがとうございます」


 横からミカエルの腕が伸びてきて、ちょうど下ろそうとしていた木箱を持つ。

 百九十近い長身に、無駄なく筋肉のついた身体。鍛えている彼は木箱を一気に四つ持ち軽々と下ろしていく。

 彼はルシファーの方を見て、勝ち誇った顔で口角を上げた。


(くっそ。ほんとうにいけ好かないやつだ)


 設営が終わるとミカエルはベアトリクスに対してとても名残惜しそうな顔を向け、そしてルシファーを鬼のような形相で一瞥し、クエストへ出かけていった。

 ベアトリクスと一緒に参加することができないなら、別の女性と参加するのではなくクエストを受けるなんて。そういうところは生粋の冒険者らしいのにな、とルシファーはひどく残念に思ったのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] まったくミカエルさん、いけ好かないっすよねぇ脳筋な思考回路にストーカー属性加わるとこうなるのか(;'∀')
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