7.遠路遥々
「ほんとはね、戦争に負けたばかりで、きっと治安が良くない隣国に行くっていうのも危険かなとは思うんだけど、この森に隣接してるのは元いた王国と隣国だけだからね。王国に戻ることは出来ないから、とりあえず行くしかないのよね」
王国と隣国の間に広がる巨大な森は、馬車が通れるほどの道こそあるけれども、強い魔獣が多く生息しているので、ごく稀に国交を行う際の軍隊や、大きな隊列を組んだ商人がこの魔獣の森の街道を通るのみで、少人数で移動は出来ない、とされていた。
そんな街道に、荷物をたくさんくくりつけたロバを引き、ヤギ二匹を連れ、白猫にのんびりと話しかけながら歩く幼女。
よく見ると、ロバの上の荷物の上には、ニワトリが座っている。
門番夫婦のものである簡素な服に着替え、農作業用のツバつきのほっかむりを被って目立つ白銀の長い髪を隠し、どこからどうみても農家の娘だなと、本人は満足している。
「ちょっと疲れたし、この辺で休もう」
白猫もロバも、ヤギですら、またか、という顔をする。
さっきから1時間おきくらいに休憩を取っているのだ。
動物たちは、まだ全然疲れていなかった。
「この木陰が良さそうね」
動物たちが醸し出す空気を読むことなく、街道のすぐ側にあった大きめの木の、地面から飛び出している根に腰掛ける。
魔獣の森と呼ばれているが、ただ魔獣が多く生息しているだけの普通の森なので、植生はごく一般的。普通に太陽の光が降り注いだり、木漏れ日が気持ち良かったりする。
酸素も濃い目で、むしろ街や薄暗い室内にいるよりよっぽど健康的だ。
「隣国って遠いね。今日中になんて絶対辿り着けないから、しばらくは野宿になるよ。
私ってば地面でなんて眠れるのかしら。一応、毛布は持ってきたけれど…。」
実は王国の国境の門と隣国は、距離的にはそれほど遠くはない。
早馬で駆ければ、丸一日、荷物満載の商人のキャラバン隊だと三日程度の距離なのだ。ただし、途中で魔獣に襲われなければ、という前提だが。
「よし、少し休めたし、もう少し進んでおこうか。ついでに寝れそうな場所も探さないと。
食べ物も、干し肉とかすっごい硬いパン以外なものが食べたいなあ。
あ、ニワトリさんの卵は毎日美味しくいただいてます。あとヤギさんもミルクありがとう」
普通の冒険者や傭兵団であれば、多少無理してでも、ある程度森を抜けてから休息することを考えるが、平民とはいえ、幼い頃から教会の奥で、聖女として暮らしていたので、一般常識に欠けていた。しかも長年のインドア生活で体力もない。
しかし、いくら常識に欠けていたとしても、王国を護ってきた聖女の力は本物で、自分と動物たちだけを護るだけの結界など、息をするように発動し続けることが出来たので、危険なことは何もなかった。
生活魔法もひととおり使えるので、夜営に困ることもないのだった。
「明日はベッドで眠れると良いなぁ」
なので、多少緊張感に欠けていたとしても、それほど心配する必要はない、愛し子のやりたいようにすれば良いと、護獣プラタは思っていた。




