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16.盛者必衰


「全く酷いものです」


王城の執務室の窓から、この国の宰相が王都を眺める。


視界には、長い時間をかけて洗練されてきた美しい建築物や、公共用の道路や噴水などの施設が、魔獣に次々と壊されているところが見えていた。


「美を愛でる心もないとは、魔獣とはつまらない生き物ですね」


王城は、王都の中心部の高台にあり、城下を展望出来る。


「幾千年の歴史が、一瞬で滅びる様など、そうそう見られるものではありませんが」


この国は、聖女の大きな力で、歴史の流れに取り残されているとも言える。


魔大陸時代の大災害で、聖女の結界のない全ての国が一度滅んだ。


そしていつのまにか、世界のあちらこちらで再び国が興き、新しい歴史が創り出された。


「滅びるべくして、滅びるということなんでしょうけれども。

長年研究されていた魔導技術や魔術式の技術も一緒になくなってしまうのは惜しい気がしますが、熟していない人類に、過ぎた技術や知識は危険ですから、これもまたなるべくしてなったと言うべきか」


窓から外を見ている宰相の耳には、近づいてくる破壊音が聞こえていた。


「そろそろですか」


先程、遂に魔獣が城内に入り込んだとの知らせを受けた。

力の強い魔獣が、何もかもを壊しながら歩き回っているのだろう。

柱や壁が壊され、天井が崩れはじめたようだ。


「王国とともに」


この国の最後の宰相は、静かに目を閉じた。




***






第一王子は、逃げていた。


城の奥にある謁見の間の、重い扉を開いて中に入る。

東の離宮へと繋がる抜け道がある国王の執務室へ向かうためだ。


謁見の間に入ると、玉座に誰かが座っているのに気がつく。


第一王子が気がついたことに、玉座に座るものも気がついたようで、


「アレフよ」


と声を発した。


この国で、第一王子を名前で呼び捨てに出来る者は一人しか存在しない。

第一王子の父親であり、この国の王であった。


「陛下?なぜここに!」


「城下が何やら騒がしくてな、離宮から隠し通路でここまで来たのだ。

また随分とボロボロになったのう」


返り血を浴び、石を投げつけられたために、汚れが酷く、全身傷だらけだった。


「ここは危険です!はやくお逃げ下さい!」


第一王子が、焦って声を上げるも、国王はいつものようにのんびりとした動作で、片肘をつき、玉座の上から王子を見下ろしている。


「大結界が消えたのは知っておる。王妃は前聖女だからの。なぜ消えたかも暗部の者に聞いた」


「仕方なかったのです!」


離宮にいながら、なぜそんなに詳しいのだと、心は荒れ狂ったが、頭ではきっちり言い訳をせねばとフル回転させている。


「まあ良い。今更論じてもどうにもならぬ」


まあ良いと言われ、少しホッとする。


「陛下!早く逃げなければ!」


少し心に余裕ができたため、父親を心配している体を装う。


「どこにも逃げ場などありはせぬよ」


なぜこの有事に、のんびりした態度でいるのかわからない。

早く逃げなければ、平民がまた襲ってくるのだ。


「陛下の執務室から、東の離宮へ行きましょう!」


「離宮か」


「王妃殿下は、結界の魔法を使えるのではありませんか?」


結界さえあれば助かるのだ。

ジルヴァラは、いつもぼーっとしながらも、この国全体を覆う結界を維持していた。

前聖女で貴族出身である王妃殿下もそれくらいは出来るに違いない。



「もう結界魔法は使えませんよ」


謁見の間から続く、国王の執務室から、王妃殿下が現れた。


「王妃殿下!なぜここに!」


相変わらず、神々しい美しさを持つ王妃である。たしか30歳くらいの筈だが、どうみても20代にしか見えない。


やはりジルヴァラとは違うと、どうしても比べてしまう


「東の離宮は魔獣に侵入されました。私は教会に行き、大結界を再起動するためにここに戻ってきました。

ですが、それはもう手遅れのようですね」


「な、なぜ」


「血に濡れた術式など使い物にならないからです」


結界魔法は難しく、簡単に発動させてしまうジルヴァラと違い、聖女としては標準的な魔力量の持ち主だった王妃は術式がなければ発動することが出来なかった。


「あああああ!」


絶望と後悔の念が第一王子を襲う。

結界を消滅させた原因を作ったのは自分。

多くの血で、再構築する可能性を無くしたのも自分。そもそも使える聖女を追い出したのも自分だった。


絶望感でどうにかなりそうだった。


「そんな…そんな…し、知らなかったんだ…」


政権を持つものが何も知らないというのは、それだけで罪である。


その時、大きな音が謁見の間を襲い、壊されたドアから、見たこともない大きくグロテスクな人型の魔獣が入って来るのが見えた。


「終わりだな」


ローランド王国最後の国王の静かな声が謁見の間に響いた。



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