11.邂逅遭遇
北の帝国と呼ばれる我がオズワルド帝国が、隣接してはいるが、あまり国交のないこの国から、挑発するような先制攻撃を受け、反撃を開始してから今日で一ヶ月経つ。
戦いは騎士や兵隊達に任せて、戦火の届かない後方から戦況を見ていたのだけれど、なぜ強くもないのに強国である帝国を挑発したのかわからないほどの戦力差に、指揮は副官に任せっきりで、終ぞ出番のないまま、実に呆気なく勝利してしまった。
勝ったところでこの砂漠の果ての山あいの小国は、国土の殆どが山間部の傾斜地で、平地も少なく、畑作には向いていない。
さらに、目立った鉱山もなく、海もない。
故に、併合しても経費や人材が失われるだけで、たいした旨味もないだろうと思われていた。
我が帝国は、小国を次から次へと併合して、現在の大帝国を築き上げてきた。
しかしだからこそ、併合した結果、負債になるような国は、極力手を出さない。
今回の戦は、この国の度重なる帝国への挑発的行為に、目の前の羽虫を払う程度のもので、たしかにそこそこの数の遠征だったものの国を落とすほどの数には全く足りない、はずだったのだが、敵が想像以上に弱かったのだ。
しかたなく、戦後処理のためにこの国に入ってみると、驚くことに国民は、清潔で飢えておらず、街並みは小国ながらも立派なもので、小さいながらも機能的に作られている。
我が帝国との国境から、この小国までの道のりは、殆どが砂漠である。
植物も水もなく、慣れたものでなければ砂漠の道なき道に迷い、行き倒れる。
故にこれまで国交も殆どなかったのだ。
しかしながら辿り着いたこの国の、まるで蜃気楼のように現れた豊かな街並みには、酷く驚かされた。
それなのになぜ帝国に戦争を仕掛けたのか。
話を聞いてみると、どうやらこの豊かな恵みは、隣国である古き王国からもたらされているものだという。
この国が最果てではなかったということにまず驚く。
古き王国とは、この大陸が、魔大陸と呼ばれていた時代から存在する王国で、旧時代の失われた魔法や遺跡が現役で使用されているという。
何やら眉唾モノの話だが、その古き王国と唯一、国交があるのが、この国だというのだ。
酒場の親父や、市場のおかみさんといったごく普通の平民が、揃って同じことを話す。秘匿されたものではなく、ごく一般的なことのようだ。
自ら、古き王国の属国としてへりくだり、食糧や魔道具などを安価で手に入れているのだとか。
そういえば、この国の兵士たちは、やけに高性能の魔道具を使っていた。
そのせいで少しだけ苦戦したことを思い出した。少しだけだが。
あの飛び道具を、すべての兵士たちが持っていれば戦況は変わったかもしれない。
しかし、かの国との国交は、双方自由に行われているわけではなく、国と国の間の緩衝地帯には、強い魔獣が高密度で生息している魔獣の森と呼ばれる深い森があって、とてもじゃないが一般人が通ることは出来ないという。
実際に、この国からも何度か使節団を送り込んでも、途中の魔獣の森で力尽きるのか、誰一人として戻った者がいないらしい。
世界の遺跡から、明らかに現代よりも高度な文明がもたらした魔道具が発掘されることがある。それらが作られたと思しき時代を、我々は旧魔大陸時代と呼んでいた。
世界のどこかに、今でも続く国があると噂には聞いていたが、ただの伝説だと思っていた。
本当にこの深い森の先に1000年以上も続く古の王国が存在するのか。
そして、旧魔大陸時代の文化や魔術が本当に存続しているのか。
実に興味深い。
是非、訪れてみたい。
魔獣の森とはどの程度のものなのか。
この国のお粗末な軍隊ではたどり着けなくとも、我が軍の精鋭なら行けるのではないだろうか。
つらつらと考えつつ、冒険者ギルドなどを見て回っていると、酷く場違いな印象の少女が目に入った。
最初は貴族の子弟のお忍びか、とも思ったのだけれど、貴族にしては所作が雑だ。
これといって何が場違いなのかはわからない。
服も粗末なものだし、髪もあまり手入れされておらず、全体的に薄汚れている。
強いて言えば、この町の他の子どもたちよりも貧相で、痩せていて目立つのか。
よくよく見るとどう見ても貴族の子弟には見えないのに、なぜ最初に貴族の子弟と思ってしまったのが気になるので声をかけてみることにした。




