10.街中散策
やってきました冒険者ギルド。
敗戦国の施設だけど、冒険者ギルドは国を超えて組織されてるから関係なく営業されてるらしい。
元いた王国にはなかったけど、大抵の国には冒険者ギルドの拠点があって、王族や貴族にも対抗出来るような組織を目指してるんだって。
力のある人はもちろん、弱い人、庶民や子どもでも、それなりに働けて、社会の一員として頑張れる場所とのこと。
生まれよりは、その人が持つ強さや能力が重視される。
何が出来るのかが重要。
誰でも簡単に始められるけど、自分の命も含めて、全てが自己責任。
社会制度が整っていない国の、大規模な隙間産業ってとこかな。
力のない人が生きていくのが難しい国ってことだ。
街中に老人を見かけないということは、そういうことなんだろう。
とりあえず冒険者になってみよう。
例によって、子ども扱いされながら登録しました。
15歳って書いたら、受付の人に、子どもでも登録出来るから本当の年齢書いて大丈夫よ?って言われた。
受付のお姉さんの優しさが辛い。
今日は準備もしてないし、まだ依頼は受けないけれど、どんなのがあるのかチェックしておく。
依頼ボードを眺めてみると、強めの魔獣退治とか残ってた。オーガロードとか。
あれ?私、結界でオーガロードもワイバーンもトロルもみんなやっつけたけどこれはダメなの?
ああ、冒険者になる前のはカウントされないし、討伐部位持ってこないとダメなんだって。惜しかったあ。
討伐部位ってどこなの?耳?
無理。耳切り落とすとか無理。
たくさん殺したら袋とかに耳だけが詰まってるところを想像してしまった。
エグい。
あ、薬草集めは常時依頼だからいつでもいくらでも受付中なんだ。
野生の薬草探すってこと?畑から収穫じゃないの?うわぁ、面倒くさい。無理。
薬草集めより、薬草買ってポーション作って売った方が良さそう。
売るなら材料より加工品だよね。
ポーション作成の依頼はないな。
大人気で既に他の人に受けられちゃったとかはない気がする。
薬草が常時依頼だもの。
ふむ。
「すみませーん、薬草の依頼は常時なのに、ポーションの納品は無いんですか?」
わからない時は聞いてみる。
すると、ポーション作成は商業ギルドで依頼をかけているとのこと。
商業ギルドは、何かを売るとかつくり出す人が登録する組織で、ポーションを売るならそっちに登録して納品した方が良いのだそうだ。
ポーションは常に不足しているから、作れるなら是非とも納品して欲しいって言われた。
冒険者ギルドは、商業ギルドからポーションを卸して販売するルール。
競争させるんじゃなくて役割を分けてるのか。
市場価格も調整してそう。まあ富の配分て考えれば効率的なんだろう。
ポーション作れるけどどうしようかな。
買取り価格、結構高いみたいだからそっちの方が楽に稼げそう。
教会で死ぬほど作らされたから得意だよ。
あれもお金とか貰ってなかったな…。
思考停止って怖いな。
ちなみに私は魔力の多さにかこつけて、ゴリゴリとかしないで葉っぱからすぐに液体にしちゃうよ。
一応、水魔法とか錬金魔法とか聖魔法とか使ってるけれども。
あと魔力すっごい使うけど、全く無から聖魔法のみでポーション作ったりも出来る。
いわゆる聖女のポーションてやつ。
欠損も治るすんごい薬。…これも無報酬でたくさん作らされたな。酷いわー。
でもせっかく冒険者になったんだから、魔獣討伐もやってみたい。
王国の大結界レベルの強さだと、魔獣が消滅して討伐部位とれなくなるから、微妙にコントロールして耳だけ残すように出来れば良いよね。練習してみよ。
あと、アイテムボックスって魔法が使えれば、倒した魔獣を丸ごと入れて運べるらしい。難しい魔術らしいけど、誰か教えてくれないかな。
ちょっと考えただけでも、色々やりたいことが出てくる。
「なんかワクワクするね!」
「ニャー」
このニャーは相槌だね。
「どしよ、一応商業ギルドにも登録しておこうかな?」
普通の時より、敗戦後のざわざわしてる時の方がドサクサに紛れてサクッといくんじゃないかって打算もあるし。
それに出来れば色々情報を集めたい。
色んなことやりたいワクワク感でソワソワしながら、プラタに楽しく話しかけていたら、
「お嬢さんこんにちは。商業ギルドに行くなら一緒に行く?」
「へっ?」
突然、後ろから声をかけられた。
ビックリして、少し飛び上がってしまった。
振り向くと、キラッキラとした若い男が、にこにこしながら立っていた。
顔だけ王子の元婚約者ほどではないけれど、イケメンだ。
ちなみに元婚約者は、顔だけは本当に美しかった。
中身はクズなんだけど、それを知ってても美しいものは美しいよねって結論に達してしまうくらいには傾国系だった。
中身はクズだったけど。
なのでイケメンには免疫があるのだ。
こっぴどく婚約破棄もされたので、抵抗力もある。
「僕も今から商業ギルドにいくところなんだ」
私が返事をしなくても気にしないで話し続けるイケメン。
プラタが大人しいし、この人に敵意とか悪意はないようだからいいかな?
「ここからだとちょっとわかりにくいからね。ここ、初めてなんでしょ?」
「ええ、まあ、はい」
案内してくれるならありがたい、かな?
「大丈夫、そんなに遠くないから。
さ、いこう?あ、僕はイアン。よろしくね」
「あ、えっと、ジルヴァラです」
「ジルヴァラ。こっちだよ。手、繋ご?」
「え…」
ひょっとして子ども扱いされてる?
うわあ、イケメンに声かけられて、なんていうの?色事、的な何かかとほんの少しだけ思っちゃったよぅ。
迷子の子どもに親切なイケメンってだけだった。恥ずかしいわぁ。バレてないよね?
イアンと名乗るイケメンが差し出した手を、反射的に握る。
イアンは特に何のリアクションもなく優しく握り返してくれる。
そしてそのまま、軽く町を案内されながら、商業ギルドまで歩いた。
うん、まあ、子ども扱いでも、イケメンに優しくされるのは楽しい。
いつも冷たい指先が、ぬくぬくするのが気持ちいい。
今まで一番温かいって思ってた教会の奥にある結界術式の部屋にある大魔石よりもずっと温かくてぬくぬくだ。
あ、プラタは別枠ね。




