後日談1
ツールベルグはカルディアからきた軍勢を投降させたあと、独立を宣言した。もともと根回してあったカエルムとヨークスの承認がすぐ得られた。宗教都市であるカエルムの承認は他国に大きな影響を及ぼした。そのして次々と近隣諸国の承認を得ることに成功した。
ほどなくして、カルディアでは国王陛下の崩御が伝えられた。
第三王子は王宮内でクーデターを起こしたとして国をおわれ、第二王子はツールベルグへの挙兵後消息不明となり、継承者は第一王子フィリップとなった。
その後も重税に喘いでいた市民や農民が、断続的に暴徒となり、国は混迷を極めた。再びツールベルグへ挙兵するような国力は残ってなかった。
近隣諸国に治安が悪化したカルディアから難民が流出し、それがまた国家を脅かす反乱分子となった。
困ったフィリップがツールベルグに助けを求めてきた。カルディアからの難民を一部受け入れる事で治安維持に貢献し、ツールベルグの独立を承認させた。
ここに新しい国家が誕生した。
そしてカルディアのウィンクルム侯爵領をはじめ、いくつかの領地とヨークスの一部であるペトラルカ村、トルクも新しくツールベルグに編入した。
新国家として他国から注目される頃には、ツールベルグはカルディアの国土の四分の一を占めていた。
独立を支持した貴族、騎士、修道会の合議により、ツールベルグは王国となり、年若い国王が統治する国となった。
時は半年前に遡る。
ティアは忙しかった。
「ティア様、ここわかんない」
青空の下きらめく湖を背景にティアは子供たちに囲まれて勉強を教えるはめに陥っていた。カルディアからの難民が多く、城でも親からはぐれた子供たちを預かっていた。あちらこちらへとドレスをはためかせながら移動し、文字や計算を教える。
礼拝堂に向かう途中で、質問責めにあってしまったのだ。
「ティア!何をしている。皆を待たせてしまうぞ」
イザークが走りよってきた。今日の彼は珍しく盛装している。
「今行きます」
ティアは慌てて丘の上の礼拝堂めがけてはしりだした。真っ白な長いドレスの裾を巻き込み、転びそうになる。力強い腕で支えられた。
「気をつけろ。折角のドレスが泥だらけになる。今日は他国からも賓客が来ているから、
あまり手間をかけさせるなよ」
イザークが呆れたようにいう。しかし、その瞳は澄んでいて、出会った頃の翳りはない。目の前の湖の色を映したような深い青。漆黒の髪が彼の涼やかな美貌を彩る。
その時、鐘が鳴り始めた。
「まずい、鐘がなっている」
「どうしましょ!」
ふうわりとティアは抱き上げられた。
「走るぞ」
「はい」
ティア元気よく返事をすると彼にギュッとつかまった。下手に逃げ出そうとするよりも、この方が怖くないことに最近になって気づいた。
緑の草生した丘を駆け抜け、礼拝堂の入口まではあっという間だった。
ティアはイザークの腕から降り、きちんとベールをかけなおした。
そして微笑みあいながら手を取り合った。
「ここを出るときはティアは私の妻だ」
「はい。ずっと一緒です」
笑顔が花開いた。イザークが扉に手をかける。
「ティア、絶対に離さない」
ティアの純白のウエディングドレスが風に揺れた。
扉を開け、二人は新しい一歩を踏み出した。
そこには、支え合い共に戦った仲間達が待っていた。
二人の誓いの儀式を見守るために。
――愚かだった私は、愛される資格がないといい、犠牲を払うことであなたに愛を伝えました。
でも、本当は、ただ、あなたのそばにいたかった。
だから、これから先は、愛するあなたと一緒に生きて行きます。




