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あなたのことは愛していますが、今回は辞退しようかと思います  作者: 別所 燈
第三章 自由を手にするために~ストラグル~
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王宮へGO!

 カルディアの政情は悪い状況にあった。隣国ヨークスとの間でのたび重なる紛争により、リモージュ攻略の拠点となったマラッカが疲弊した。

 それは次第に国中に広がっていった。軍備のための重税が主な原因となっている。また働き手が兵にとられ、地方財政は疲弊した。そのため、ここ最近、各地で暴動が起きるようになった。

 しかし、そんな領地に手を差し伸べることなく、王宮では貴族が各派閥にわかれて争っていた。国の財政は一気に悪化していった。


 いつからか不思議な噂が国民の間に流れるようになった。病で臥せっていることになっている国王がすでに崩御していると。噂は隣国の知るところとなり、それに乗じて境界線問題でもめていた東の隣国が攻めてきた。

 また、新たな紛争が勃発してしまった。


 国民はますます食い詰め、あぶれた者たちが、王都に集結してきた。日増しに治安は悪化し、城外には不穏な空気が流れてた。



 ティアは王宮の芝生の上でのんびりとメアリーと昼のサンドイッチをつまんでいた。ここは使用人しか立ち入らないエリアだ。貴族たちが来ないので見咎められることもなく、のんびりと過ごせる。

 日差しがぽかぽかと温かく最高のピクニック日和だ。ティアはお昼寝したくなってきた。といっても二人はピクニックをしているのではない。昼休みを楽しんでいた。

 二人はおそろいのメイド服に身を包んでいる。ただ所属によってリボンの色が違う。ティアは青でメアリーは黄色だ。

 上級使用人と違いコルセットを着用する必要がなく、修道服や旅装に慣れてしまったティアには楽だった。


「ティア様じゃない。エレン、メイド生活はいかがですか?」

「ふふ、メアリーったら間違えないでね。私はエレン!順調よ」


 ティアは五日間に渡る王宮メイド研修が終了したばかりだった。現在、国情が不安定なこの国ではメイドが次から次へと辞めていく、そのため思ったより潜り込みやすかった。


「ああ、ティアラ様!こんなところに。イチゴの収穫がありました。食べませんか?」


 庭の奥から、若い庭師のアルベルトがにこにこしながら、大きな籠をもって現れた。


「アルベルト、声デカっ!」


 メアリーが慌てて彼の口を押える。彼とティアは王宮にいるときから知り合いだ。ティアが彼の母が病気になったときに、ポーションをあげたのがきっかけだ。

 今ではティアをサポートしてくれている大切な仲間だ。ちなみに馴染の庭師軍団は皆ティアの味方だ。

 一年以上前、ティアが城から逃げる時も、今回城へ潜入する際も彼らが手を貸してくれた。それから、なぜか厨房の料理人たちもほとんどがティアの味方だ。

 そういえば、使用人の子供達に乞われて文字を教えたことがある。おなかがすいている子には、上級使用人たちの目を盗んで、自分の豪華すぎて量が多すぎる食べ物を分け与えた気がする。王妃に嫌われ、カーライルに放置されていた彼女は、一人で食事をすることが多く、彼らには随分慰められた。

 なんだかその行動で後々食料横流しの罪に問われたような気もするが、もう過去のことはどうでもいい。




 いくら味方がいるとはいえ、国外追放となっているティアが、この国で見つかれば死罪だ。しかし、ティアは危険を冒しても呪いを解く鍵となるものを見つけなければならなった。助かる道がそれしかないからだ。

 今はカエルムの呪解師カミーユからもらったアミュレットのおかげで、彼女に呪いをかけた謎の呪術師から姿を隠していられるが、それも時間の問題だ。何せ稀代の呪解師と呼ばれるカミーユですら、すべて解くことは不可能なほど強力な呪いをかけられているのだ。近づけば近づくほど危険なのはわかっているが。

 王都に入ってから、ティアは久しく見なくなったカーライルの夢をまた繰り返し見るようになった。別に彼を慕っているわけではなく、一緒に見た稀覯本が気になっているのだ。一人で探して見つからなくて、悲しい気持ちになったことを夢に見る。根拠はないが……きっとそれが鍵……なんとなく感じるのだ。


 呪いは半分以上解けている。そのせいで呪術師はかなりのダメージを負っているはずだ。だから、ティアはそのことに関しては楽観していた。


 もう一つの問題は、呪いをかけられた場所だ。これだけの強い呪いだとかけられた場所で残りの呪いを解く必要があるという。シーリーからも指摘されたが、どこで呪われたのか依然として思い出せない……。ただおかしな夢をみる。その夢はカエルムから始まった。古ぼけた井戸、あの場所をティアは知らない。恐怖で目が覚める。

 無用な心配をされたくなくて、結局そのことは誰にも相談していない。



 王宮へ潜入するなど、最初は緊張したが、ふたを開けて見れば、以前の顔なじみの使用人たちに助けられていた。騎士の中にも、なぜか味方がいて応援までしてくれる。なんでだろう?ヴォルフとアリエルが何かしたのだろうか?とりあえず、とても心強い状態だった。

 そんな感じで、ティアは昔、騎士たちに回復魔法をかけてあげたことなどすっかり忘れていた。



 とりあえず、イザークとシーリーが二人の人脈を駆使して作り上げてくれた味方のおかげで、茶色の髪に眼鏡で目の色までかえる念の入れようだったのだが、限られたエリアなら銀髪で歩いても問題なさそうな状況となっていた。


 しかし、王宮の中で使用人エリアを離れるとぐっと味方は減る。この間、腕の良い傭兵として雇われているノーラに会った。どうやら彼女は、その類まれな強さから要人警護にスカウトされたようだ。貴族出没エリアによくいる。ティアはつい最近知ったのだが、彼女の体には人外の血が流れているそうだ。「種族を当てたら、ご褒美やるよ」などと変なクイズを挑まれてしまった。

 そして、宮廷魔導士にパイプを持つサフィラスも出入りしていて、その度にいろいろなことをフォローし、城内にいる味方が上手く連携が取れように気を配っている。

 万全の体制が敷かれていた。


 たった一つの場所を除いては……

 そして呪いを解く鍵はそこにある。




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