ご令嬢、散策中です
サンローラの巨大な市場を散策していると、屑石を売る店を見つけた。
彩とりどりの石は少々の傷や濁りがあり宝飾品にはできないものばかりだったが、きらきらと美しく、今のティアの懐事情にはちょうど良い値段だった。アミュレットをつくるには問題ないのでいくつか購入した。
いつかメアリーに会ったときに贈ろうと考えていた。
ついつい石選びに夢中になってしまい、護衛でついてきてくれたヴォルフを随分待たせてしまった。ティアは慌てて買い物を済ませると店をでた。
ティアが待たせた詫びを言うと、ヴォルフは逆にもっとゆっくりするといいと言ってくれた。その言葉に恐縮しつつも、嬉しくなった。
その後、二人でお茶を飲むことになった。イザークが仕事があると出かけてから、三日経つ。その間ティアは街を散策したり邸にある図書室で読書をしたりと快適な生活を送っていた。ただ、帰って来ないイザークが気掛かりだった。
坂の途中にあったカフェは眺めも素晴らしく、ティアの大好きな青く輝く海が一望のもとに見渡せた。メニューもデザートの種類が多く、いかにも女性が好みそうな店だ。ティアはお茶とケーキを、ヴォルフは軽食を楽しんだ。
イザークにしてもヴォルフにしても特別女性に甘いわけではないのに、さりげない気遣いをする。気が付くと歩調も合わせてくれる。ティアはこういう扱いを受けてこなかったので、嬉しくもあり、少しこそばゆくも感じた。
また、ヴォルフは陽気な性質で話しやすい。彼といると会話の接ぎ穂に困ることなく、いつもリラックスした状態でいられる。見た目は精悍な騎士そのものなのだが、笑うと不思議と人懐っこい。
港町は夕暮れを迎え、ティアとヴォルフは邸へ帰ることにした。市場の喧騒を抜けると閑散とした通りに出た。右手に古びた教会が見える。
すると後方で女性の悲鳴が上がった。みると若い女性が、ならず者に絡まれている。ヴォルフはティアを護衛中なのでやり過ごそうとした。
しかし、彼はなんといっても騎士なのだ。助けを求める女性を見過ごすなど、いたたまれないだろうとティアは思い至った。
「ヴォルフ様、私なら大丈夫です。最強のアミュレットをもっていますから」
といってティアが白いドレスに隠すように身に着けたアミュレットを見せる。
それは、命の危険を及ぼす強力な物理攻撃や魔法攻撃に対し、瞬時に防御壁を張って持ち主の身を守るアミュレットだ。効果は三回までで、最後は砕け散ってしまうが、とても高価で希少な物だった。
「助けに行ってあげてください」
ヴォルフは頷くと
「絶対にここを動かないでください。すぐに片づけてきますから」
と言い残し、ごろつき達の方へ向かっていった。
ティアは大人しく後ろにある教会の古いファザードの前で待つことにした。海風が心地よい。ティアが海に沈む夕日を眺めていると
「もし、お嬢さん」
と声をかける者があった。
誰かと思い振り向くと、杖をついた老女だった。聞けば目も足も悪いから、教会の階段を上るのに手を貸してほしいという。目と鼻の先なのでティアは快く引き受けて老女の手を引いた。
ものの数分でならず者を片付けたヴォルフは、何度も礼をいう女性には取り合わず、ティアが気になった。彼女のいた教会辺りを目で追うが見当たらない。彼は事態に気付き慌てて駆け出した。
必死に探したが、ティアは煙のように忽然と姿を消していた。




