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メラニア修道院 深夜の食堂~メアリーの不眠症

 どうしても眠れない。メアリーは眠ることを諦めた。彼女の部屋は二人部屋であるが、今現在一人でつかっている。相方は、いつの間にか男を作って出て行ってしまったのだ。はあ、修道院っていったい何?と思うメアリーであった。


 彼女は部屋を静かに抜け出し、一階にある食堂に向かった。窓から月の明かりのさす廊下をひたひたと歩く。すると食堂にほのかに灯りがともっていた。誰かいるのだろうか?もしシスターマイアーナだったら大変だ。こんな時間に部屋を抜け出して食堂に行ったのがばれたら怒られてしまう。でも、一人で部屋の中で悶々とするのも嫌で、そうっと誰がいるのか覗いてみることにした。


「いよっす。メアリー」


 バシッと背中を叩かれる。


「うあわああ」


 メアリーはいきなり声をかけれて心臓が止まるかと思うほどびっくりした。


「ちょっ、メアリー、騒ぐな!しっー」


 何のことはないルチアだった。


「シスタールチア。なにやってるんですか?」

「ん?私はいままで工房で研究に没頭していておなかが空いたんだよ」


 なにやら自慢げに言われた。解せヌ。とメアリーは思った。


「まあ、こっちへ来な」といわれて、食堂ヘ入るとシスターノーラがいた。


「あれ、シスターノーラまで、二人でなにやってるんですか?」

「けけけっ、酒盛りにきまってるだろ!」

 ルチアはすっかり出来上がり、ノーラはひたすら食べ続けている。

「げっ」

 メアリーは静かにお茶を飲むつもりだった。何なのだろうこの絵面は。


「で、なにメアリーちゃん、どうしたの?こんな時間に。お姉さんたちがお話聞いてあげるよ」


 と陽気なルチア。その横でノーラはひたすら、山盛りのふかした芋を食べ続けている。なんなのだろうか、この状況は。メアリーは部屋を抜け出してきたことを少々後悔した。


「はあ、私、落ち込んでるんですよぉ」

「ああ、あれね!火球ぶっぱなして、木燃やしちゃったやつ」


 ルチアがはたと手を打つ。


「はい。まさにそれです。もう二度とあれは使わないって誓ったのに」

「二度とってことはどこかでやらかしたわけ?」

「はい。まさにそれこそ私が修道院にはいることになった、理由です」


 そこから、深夜の食堂でメアリーが修道院にはいることとなった経緯が語られた。


「なるほどねえ。つまり故郷に居場所がなくなったと」

「うっ、なんか、そう簡単にまとめれちゃうとちょっと辛いです」


 とメアリーが呻く。顔をみあわせるルチアとノーラ。


「あたしらだって、同じようなもんだよね」

「ああ、そうだ」

 そこでやっとノーラがジャガイモを掻っ込むのをやめた。


「あたしは八百長の試合に嫌気がさして村長の息子、ぶっ飛ばしちまった」

「えーーー!シスターノーラが元拳闘士ってただの噂じゃないんですか?」

「事実だよ」

「ってか突っ込むとこそこ?」

 とルチア。

「いや、つっこみどこありすぎて。状況がよくわかりません」


 それにしても拳闘士はネタかと思っていたので、メアリーはその事実に絶句した。無茶苦茶ガタイの良い、只の超筋肉質なお姉さまかと思っていたのだ。


「そそ、私も似たようなもん」


 ズズッとコップ酒をすすりながらいうルチアにメアリーがギギと顔を向ける。


「似たようなもんって、いったい、何やらかしたんですか!」

「ああ、騎士団にいた頃。気に入らない上官がいたんで、ぶっ飛ばした」

「ひーーーっ!それよく捕まりませんでしたね」


 メアリーの顔が引きつる。


「あたしら、ヒルデガルド様に拾ってもらったんだ」


 そこで、ルチアとノーラはがっちりと肩を組んだ。まさに修道院きっての最強タッグ。


「そういやメアリーももうすぐ私たちのお仲間だね」


 ルチアがそういってにやにや笑う。ノーラはまたジャガイモを貪り始めた。昼間の労働の対価だろうか?


「お仲間って。なんのです?」


 もう、嫌な予感しかしなった。


「メラニア修道院自警団だよ」

「は?」

「火魔法がある程度制御できるようになったら、ヒルデガルド様からお声がかかると思うよ」

「ええーーー!まじですか」


「あたりまえだよ。あたしらはその為の人材なんだから」


 ノーラがガハハハッと豪快に笑う。今は夜中ですよと突っ込む者は、最早そこにはいない。


「ぜぇーったい!いやですっ!」


 メアリーの絶叫が響いた。


 かくしてメラニア修道院の夜は更けていったのだった。


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