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ご令嬢、大図書館の秘密を知る

長閑なペトラルカ村の夜が、鳥の囀りとともに爽やかに明けたはずだったが・・・・。


「地震だ!」


「え、何?地響き」


 メラニア修道院でちょっとした揺れが起こり、修道女と出入り業者や村人にに衝撃が走った。すぐさま、ヒルデガルドの指示のもとシスターマイアーナとシスターベルが対応にでた。何とか宥めすかし、修道女達には通常のお勤めに戻ってもらい、業者及び村人には大人しくお引き取り願った。

 こんなことでは、少し前に起きた「嘆きの尖塔」の時みたいに、また村人や信者たちに祈られかねない。ヒルデガルドは揺れのもとになった。大図書館へ向かった。

 その際、この教会の力仕事のプロフェッショナルにして秘密兵器である修道女の招集も忘れなかった。


「シスタールチア、これはどういったことでしょう?」


マイアーナのこめかみがぴくぴくしている。


「だから、なんでいきなり私が犯人扱いなのですか!だいたい館長のシスターゾーイや写本の責任者のシスターフラニーはどうなんですか!」


「だまらっしゃい!」


マイアーナがルチアの意見を一喝する。


「シスタールチア、あなた、また、おかしな魔道具でも作ったのでしょ?だから、空間魔力が増して、こんなもんがホールに発現してしまったんでしょ!どうするんですかあ」


マイアーナの髪も柳眉も逆立っている。その迫力と勢いにさすがにルチアもタジタジとなった。


「まあまあ、シスターマイアーナ。そこでルチアを責めても始まりません。とりあえず補修いたしましょう」


ヒルデガルドが大図書館のホールに入ってきた。後ろに小山のように大きな修道女を伴って。


「シスターノーラ、その厚くて大きな板は?」


とルチアが問う。

シスターノーラこと小山のように大きい修道女が約2メートル四方の板を一人で難なく担いでいる。人よんでメラニア修道院の大工。遠く南方からこの修道院にやってきた、肌の浅黒い筋肉むきむきの修道女である。元拳闘士という噂まである。


「さあ、さあ、みなさんとりあえず応急処置にとりかかりましょう」


そういいながら、ヒルデガルドは皆を促すように手をパンパンと叩いた。





「・・・ィア様、ティア様、起きてください!」


ティアは自室でメアリーに起こされた。すでに日は高くまで上がっていた。


「あら、いやだ。私、寝坊してしまったのね」


慌てて飛び起きる。


「ああ、その件なら大丈夫です。ティア様は昨日の一件でお疲れだから、休ませるようにとヒルデガルド様からいわれておりますから」


そういえば昨日大木が炎上してティアが消火活動をしたのだった。メアリーが申し訳なさそうな目でティアをみる。


「えっと、では、何かあったの?」


ティアが首を傾げる。


「はっ!そうよ。ヒルデガルド様がお呼びなのです。大至急、大図書館に来るようにって」


ティアは大急ぎで身繕いをし、メアリーとともに大図書館へ向かった。

大図書館の前にはなんと出入り禁止の看板と張り紙があった


「あの、これ私たちが入ってもいいの?」


その問いにメアリーが勢いよく頷く。

いつもの観音開きの大きな扉のほうからではなく、少し奥まったところにある小さな扉から入った。


するとホールにヒルデガルド、マイアーナ、ルチアとノーラがいた。


「ティア様こちらへ!」


入ってすぐ、ティアはホールにいつも以上に強い魔力が充満していることに気が付いた。


「どうかされたのですか?」

「ひっ!ティア様、それ!」


メアリーが指さす方向を見るとホールの床に穴が開いていた。確実に二人くらい落とせる大きさだ。なるほどあそこから魔力が漏れているのかとティアは思い、ヒルデガルドたちのもとへ近づくと


「ヒルデガルド様!これは・・・」


ティアは言葉を失った。なぜならそこには


「「ダンジョン???」」


ティアとメアリーの声が重なった。


とりあえず説明は後で、このダンジョンを人目につかないように封鎖したいといわれ、ティアが協力することになった。噂が広がると困るので今回はここにいるメンツで対応することとなった。


「で、とりあえずヒルデガルド様が、シスターノーラにそこの分厚い板でこのダンジョンをふさいで周囲を立ち入り禁止にしようとしたわけよ」


とルチア。


「それで何か問題でもありまして?」


「おおありよ。そのダンジョン移動するの」


「「はああ??」」


ティアとメアリーの声がきれいにはもる。

ヒルデガルドが言うには魔術的な封印が必要なのだそうだ。それを魔導の心得があるティアに手伝ってほしいとのこと。2時間ほど四苦八苦してどうにかダンジョンが動かないように固定することには成功した。入り口と思しき穴をノーラが厚い板で塞ぎ、大図書館の出入り禁止は解除された。




「ティア嬢。あのダンジョン気にならない?」

「気になります。すっごく気になります」


ヒルデガルドの命で、今日は薬草園ではなく、大図書館にあるポーション工房で作業している。ダンジョンの修復が済むまでの緊急措置だ。


「じゃあさあ、探検してみない」


ルチアの瞳がきらりと光る。あのダンジョンからはいやな気配は感じないので、ティアも興味津々だった。魔術学院時代、ダンジョンのことは少し触れたし、実習で降りたこともある。もちろん専門の教師がついて、探索し終わった、安全なダンジョンであったが。


「行きたいとは思いますが、未踏破のダンジョンはどんなギミックがあるかわからないので危険です」


残念そうにティアがいう。ルチアも「まあ、仕方ないか」と頭をポリポリと掻きながらいうと大人しく仕事に戻っていった。彼女も多忙なのだ。


「あっ、そうそう。言い忘れてた」


などと言いなら、ルチアがまたティアのもとに戻ってきて小声で話しかけてくる。


「ティア嬢。魔法使えるよね。ここって強力な魔法とか魔力開放とか禁止だから」

「え?それはなぜですの?」


ティアが首を傾げる。


「あの隠しダンジョンから漏れ出る魔力を利用してポーション作りをしてるんだけど、逆に空間魔力がいきなり増えちゃうと刺激されちゃって、封印の魔術が解けて、今日みたいにダンジョンが出現しちゃうらしいよ」


 ティアの顔からサーっと音とをたてて血の気が引いた。見学をしに来たその日に魔力開放をしたのは彼女だった。


その後ティアが速攻で院長室に詫びにいったのは言うまでもない。



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