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42 溢れ出る愛

 キャロラインがクロークからの口づけを受け入れると、クロークはこれでもかと言わんばかりにキャロラインへ愛をぶつける。


 目の前で顔を真っ赤にし、瞳を潤ませて身を捩る姿はとても扇情的だ。頭を打つ前の、クロークを蔑み卑しいと暴言を吐いていたキャロラインと同じ人物なはずなのに、当時の面影はどこにもない。

 ユキの記憶を思い出したあとのキャロラインは、全くの別人のように変わり、だからこそクロークはこんなにも惹かれ愛するようになったのだ。


 キャロラインのおかげで、クロークの瞳に映る世界はどんどん変わっていく。愛がなんたるかを知らなかったクロークへキャロラインは愛を教えてくれたばかりか、生まれてからずっと誰からも愛されていなかったと思っていたのに、トリスタンやレオから愛されていたことも明かしたのだ。


 キャロラインのおかげで、屋敷の使用人たちからも主としての信頼を得られるようになり、仕事にも今まで以上に打ち込めるようになった。


 キャロラインが昔のままだったら、きっとクロークはずっと世の中の全てを恨み、憎しみ、いつか父親を殺すという目的のためだけに生き続けていただろう。


 クロークを暗闇から連れ出し、眩しいほどの光の中に連れ出したのは紛れもなく目の前で乱れているキャロラインなのだ。


(くっ……どんなに愛を伝えても注いでも際限がないな、止まれない。止まりようがない)


 内側から無限のように湧き出るキャロラインへの思いを、クロークは止めることができないでいた。

 大切にしたいのに、どうにかしてこの思いをぶつけなければ気がすまないのだ。そして、そんなクロークの思いをキャロラインは受け入れてくれる。


(もうキャロラインを狙う奴はいない。それでも、これからまたキャロラインの魅力に引き寄せられるように近寄ってくる輩が出てくるかもしれない)


 そう考えただけで、クロークは頭がおかしくなりそうだ。キャロラインの側にいていいのも、笑顔を向けられるのも、キャロラインに触れていいのも、その愛を向けられるのも全て自分だけでなければならない。


 キャロラインの触れれば吸い付くようなキメ細やかな肌、クロークを感じて発する声、懇願するようにクロークを見つめる瞳、そのどれもが自分だけのものなのだと確かめるように、クロークはひたすらキャロラインへ愛を注いだ。





 クロークにありったけの愛を伝えられた翌朝。キャロラインは目を覚ますとゆっくりと体を起こした。


(うっ、まだなんだか気だるい感じがする……)


 昨日はトリスタンが帰ってからあれよあれよという間にクロークから散々愛を伝えられ、キャロラインはいつの間にか気を失っていた。


 目が覚めると、クロークに担がれるようにしてバスルームへ連れて行かれ、一緒に入ってこれでもかというほど優しく全身をくまなく洗われた。


 その後、キャロラインはベッドに入れられると、クローク自ら夕食をキャロラインへ食べさせ、甲斐甲斐しく世話を焼かれたのだった。


(愛されていた時もすごかったけど、そのあとの甘やかされっぷりもすごかったな……)


 思い出しただけて照れてしまい、キャロラインは両手で頬をおさえるとほうっと息を吐く。


 そうして色々と思い出して顔を赤くしていると、コンコンと部屋のドアがノックされた。


「はい!」

「キャロライン、俺だ。入るぞ」


 そう言って、入ってきたのクロークは騎士服に身を包んでいる。


「体は大丈夫か?」

「はい、まだちょっと気だるいですけど、クローク様がお世話してくださったおかげで大丈夫です」

「そうか、それならよかった」


 クロークはベッドサイドに腰をかけると、嬉しそうに微笑んでキャロラインの頬を優しく撫でる。


「もうお仕事へ行かれるのですか?」


 キャロラインは少し寝坊してしまった自覚があるが、それにしてもいつもより早いきがする。


「ああ。しばらく休みをもらっていたからな。復帰初日は早めに行って色々と確認したいこともある」

「私のせいですよね……ごめんなさい」


 キャロラインを守るためにクロークは数日休みをもらっていたのだ。キャロラインが申し訳なさそうにそう言うと、クロークは眉を顰めて否定するように首をふる。


「キャロラインは何も悪くないだろう。むしろずっとキャロラインの側にいられたんだ、俺としては良い時間だったよ。本当はまだずっと一緒にいたいくらいだ」


 そう言って、クロークはキャロラインへ頬を寄せてスリスリと頬同士をくっつけた。


「クローク様ったら。私もクローク様とずっと一緒にいられるのは嬉しいですけど、お仕事を頑張るクローク様もかっこよくて素敵だと思っていますよ。だから頑張ってきてくださいね」


 ふわっと優く微笑むキャロラインを見て、クロークは思わず頬を緩める。


「全く、キャロラインには敵わないな。俺が不在の間、屋敷にはレオを残していく。なるべくキャロラインの側にいるようにさせるから、何かあればレオに言ってくれ」

「レオを?」


 常に側に置いていたレオを屋敷へ置いていくだなんて今まで一度もなかったことだ。騎士の仕事の時も、騎士団本部へ連れて行き事務的な作業をさせていたはずだ。


「兄上との件は解決したとはいえ、またいつ誰がキャロラインをさらいに来るかわからない。それに、兄上が言っていたことについてレオもここで色々と調べたいそうだからな」

「なるほど、そういうことであれば納得です」


 キャロラインが力強く頷くと、クロークは少しだけ不満そうな顔をしながらそっとキャロラインの手をとって優しく甲を親指で撫でつけた。


「推しが常に一緒にいるというのはどういう気持ちになるんだろうな?俺はレオを誰よりも信頼している。だからこそキャロラインの護衛としてレオを残していくんだ。そんなレオと何かあるとは思っていないが、キャロラインの心がレオに一瞬でも向けられるかもしれないと思うと気が気じゃない」


 そう言いながら、クロークはキャロラインの片手に小さくキスを落としながら指をハムハムとくわえている。たまに小さく舌で舐めたりするものだから、キャロラインの顔はあっという間に真っ赤になった。


「なっ!クローク様っ、ちょっ……こそばゆいです!」


 キャロラインが抗議しながら手をクロークから離そうとするが、クロークはさらに強く手を握りしめてグイッと引き寄せた。あっという間にクロークとキャロラインの顔は鼻先がつきそうな程の距離になった。


 クロークのオッドアイがギラギラと灼熱のように燃えている。


「君は俺だけのものだ。誰にも渡さない、レオにもだ。離れていても、その心も体も瞳も声も全身全霊が俺のものだと言うことを忘れるなよ」


 そう言ってニヤリと笑うクロークは妖艶で恐ろしさまである。だが、キャロラインはその瞳を逸らさずに見つめ返すと、クロークの唇に小さくキスをした。


「!?」

「そんなこととっくにわかっています。わかっていますけど、クローク様が言い足りないのであれば満足するまでいくらでも言ってください。そして、満足したならそろそろお仕事へ行ってくださいね。復帰初日は早めに行って確認することがあるのでしょう?」


 そう言ってキャロラインはクロークの両頬を両手で挟み込む。突然のことにクロークは目を丸くしたが、すぐに俯いてくくく、と笑い出した。


「くっ、ははは!全く、これだからキャロラインは……手放せないんだよ」


 最後は低く呟くように言うと、キャロラインの両手首を掴んで自分の頬から離すと、キャロラインの唇に噛みつくようにキスをする。


「!?んー!」


 驚いたキャロラインが抵抗しようとするが、クロークはそのまま何度も何度も食いつくようにキスをすると、キャロラインから次第に力が抜けていく。


 クロークは名残惜しそうに唇を離すと、うまく息ができなくてはーはーと苦しそうにしながらくったりしているキャロラインを見て舌なめずりをし、満足そうに微笑んだ。


「それじゃ、行ってくる」


 クロークはキャロラインを優しく撫でて立ち上がると、意気揚々と部屋から出ていった。取り残されたキャロラインは唖然としながらクロークが去っていったドアを見つめる。


(な、な、なんなの!?)


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