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27 二人の時間

(うう、どうしよう、結局ユリアに押し通されてこんなヒラヒラなネグリジェを着させられてしまったわ)


 ああだこうだと押し問答をしたけれど、ユリアの強引さに負けてキャロラインはユリアが持ってきたネグリジェを着る羽目になってしまった。

 白く肌触りのいいそのネグリジェは、肩の部分が紐になっていて胸元は大きく開き、所々にレースがあしらわれている。丈は長めだが脇にスリットが入っているため、座ると必然的に足が露わになってしまう。可愛いのだが、いかんせんセクシーすぎるのだ。


(頭を打つ前の私だったら好みなデザインだったかもしれないけど、今の私には無理……!)


 派手好きだった過去のキャロラインであれば、楽しんで着ていたかもしれない。だが、転生前は病弱で入退院を繰り返し二十歳になる前に死んでしまったのだ。お洒落をすることもなく、恋愛することもなく死んでしまったユキにとってはあまりにも刺激が強すぎる。


 ユリアは寒くないようにと羽織ものも一緒に置いていってくれたが、その羽織ものでさえヒラヒラスケスケで心もとない。


(破廉恥な女だとか思われたら嫌だもの、クローク様が来る前にとにかくいつものネグリジェに着替えないと!)


 キャロラインが慌てて着替えようとしていたその時、ドアがノックされる。

 

 コンコン


「俺だ、入るぞ」

「え、あ、ええっ!?」


 こんな時にまさかのクロークがもうやって来てしまった。慌てるキャロラインはどうしていいかわからず、右往左往しながら返事もままならない。


「キャロライン?大丈夫か?」

「えっ、いえ、あの、大丈夫じゃないです!」

「何!?どうした!?」


 咄嗟に大丈夫じゃないと返事をしてしまったキャロラインと、その返事に何かあったのかと慌てて部屋へ入ってくるクローク。そして、クロークはキャロラインの姿を見て驚愕した。


「あ、う……」


 キャロラインは見たこともないネグリジェを着ていつものネグリジェを両手に持ち、顔を真っ赤にしてクロークを見つめている。思わずクロークはキャロラインの体を上から下まで見ると、ゴクリと喉を鳴らした。露わになった胸元、綺麗な素肌が真っ白なネグリジェから惜しげもなく出でいる。


「そ、その格好は一体……」

「こ、これは、その、あの、ユリアが!ユリアがこれを着てクローク様を待てと言ったんですけど、私にはこんな格好は似合わないので!い、いつもの格好に着替え直そうとしてたんです!それだけなんです!」


 両手に持ったいつものネグリジェで体を隠すようにしてキャロラインは顔を真っ赤にしながら早口で捲し立てた。それを聞いたクロークは、なるほど……と小声で呟くと、口元を手で隠してくるりと後ろを向く。


「大丈夫じゃないと聞こえたから何かあったのかと思って咄嗟に入ってしまったが、そうだったのか。いや、似合わなくはない、むしろ似合ってると、思う。だが、……そうか、すまない、後ろを向いているから着替えてくれ」


(えっ、今、似合ってるって言った?それに、いくら後ろを向いているからって、クローク様がいるのに着替えるの?えっ?)


 呆然とするキャロラインだが、クロークは後ろを向いたまま微動だにしない。キャロラインは目をぱちくりさせてから、渋々その場で着替え始めた。


(うっ、クローク様の近くで着替えるだなんて恥ずかしい、けど、一刻も早くこのヒラヒラスカスカした格好からいつもの格好に戻りたい!)

 

「……あ、あの、終わりました」

「あ、ああ」


 少し経ってからキャロラインの声がしてクロークは振り向くと、キャロラインはいつものネグリジェに着替え終わっていた。いつものネグリジェはゆったりとしたワンピースのようなデザインで生地は薄く、こちらも可愛らしいデザインをしている。それはそれで十分似合っているのだが、やはり先ほどの姿も大変魅力的だったため、クロークは内心ちょっとガッカリしていた。


「ックシュン!」


 キャロラインが小さくくしゃみをする。着替えようとワタワタしている間に体が冷えてしまったのだろう。すかさず、クロークがフワッとキャロラインを包み込んだ。


「こうすれば暖かいだろう。せっかく帰ってきたのに、早々風邪をひいては困る」

「クローク様……」


 ぎゅっと力強くクロークはキャロラインを抱き締める。そうして、ゆっくりと大きく息を吐いた。


「ようやく、ゆっくりこうしてキャロラインと二人きりになれた。……会いたかった」

「……私もです」


 自分に巻き付けていた腕をそっと離し、クロークの背中に回す。そして優しく抱き締めると、クロークのキャロラインを抱き締める力が強くなった。

 お互いが触れ合っている部分が温かい。溶け合ってしまうのではというくらい、むしろ溶け合って一つになってしまいたいと思うくらいクロークはキャロラインを抱きしめて離さなかった。


「キャロラインの笑顔が見れず声も聞けず、触れることもできない。本当に辛かった。もう、どこにも行くな。……いや、行かせない」


 このまま背骨ごと折られてしまうのではないかというくらいクロークの抱き締める力がさらに強くなり、キャロラインは思わず呻いてしまう。その呻き声にハッとして、クロークは力を緩めた。


 そのまま、すり、キャロラインの頬元に自分の頬を擦り寄わせる。それからクロークは耳元に唇を近づけて軽くキスをした。


「んっ、くすぐったい」


 身をよじって避けようとするキャロラインをおさえてクロークはそのまま耳元にカプッとかじりついた。あむあむと甘噛みすれば、キャロラインからまた可愛らしい声が聞こえてくる。


「クローク様、く、くすぐったいです、んっ、あっ」


 あまりに可愛らしい反応にクロークは止められないな、と内心呟いた。正直このまま続けていたいが、そういうわけにもいかない。


「ずっとこうして君に触れたかった」


 耳元でそんな言葉をあまりにも良い声で言われたものだから、キャロラインは思わずゾクリとしてしまう。そうしてクロークはそっとキャロラインから体を離すと、キャロラインの顔を見て高揚したように笑みを浮かべる。顔を真っ赤にして目にうっすら涙を浮かべるキャロラインはあまりに扇状的でそのまま押し倒してしまいたくなるほどだった。


「あんまり揶揄わないでください」

「揶揄ってなんかいない。本当はこのままずっと君に触れていたんだが……帰ってきたばかりで疲れているだろうし、ゆっくり休ませて上げたい。それに、話しておかなければいけないことがある」

「話しておかなければいけないこと?」


 キャロラインが紫水晶のような瞳をクロークへ向けると、オッドアイとかちあう。クロークはキャロラインの手をそっと取って、ソファへ促し一緒に座った。


「キャロラインの両親は俺とキャロラインを離縁させ、キャロラインを他の人間と再婚させようとしている。そして、キャロラインはその相手が誰かはわからないんだよな?」

「はい、聞いていないのでわかりません。そもそもその話を聞かされた時、私は絶対に嫌だと言ったので」

「俺も絶対に嫌だ。キャロラインと別れるつもりも、誰かに渡すつもりも無い。その相手のことだが、レオに調べてもらった」


 クロークはキャロラインの片手を握りしめたまま、神妙な顔でキャロラインを見つめる。


「キャロラインの両親が再婚相手としてすすめているのは、トリスタン、兄上だ」

「……え、トリスタン様、ですか?」


 クロークの言葉に、キャロラインは両目を大きく見開いた。

 


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