37.試練の入り口
私とフェルトは王妃様に連れられ、薄暗い城の地下を進んでいます。
この薄暗い、石造りの階段の下に火の試練が置かれているようです。
陛下はひとり、大広間に残って外交を続けます。
家族全員が会場からいなくなってしまうわけにはいきませんからね。
王妃様の手にはランタン型の魔道具があり、ぼうっとかがり火に似た灯りが道を照らします。
私たちは水筒やらが入った鞄をひっさげて歩いていて……。
なんだか……ちょっとした冒険でわくわくです。
「お城の地下にこのような場所があったんですね」
「ええ、めったに人の来ない場所だけれど……リリアちゃんはあまり怖くないみたいね?」
「はい、あんまり怖くないみたいです」
これでも大人の部分を持っていますから。
さすがに集団で歩いていて暗いだけの道でビビったりはしません。
加えてハーマのアレコレに比べれば、ただ暗いだけです。
「リリアは強いね」
フェルトは顔と歩き方に力が入っています。
というより、入りすぎでは。一目見て緊張しているのが伝わります。
ここは彼の緊張をほぐさないと……!
ぎゅっとフェルトの手を握ります。
「皆とフェルトがいてくれるからだよ」
「……ありがとう」
私たちは階段をいくつも下り、曲がりくねった道を進みます。
思ったよりも火の試練は奥のほうにあるみたい……。
地下三階くらいのところにいるでしょうか。
「そろそろよ」
王妃様が言われると、まもなく厳めしい石の門が現れました。
今の私だと上部を見るのにひっくり返りそうになるくらいです。
五メートルはある門の両脇には、赤い水晶でできた鳥の像が安置されています。
この像のモチーフは孔雀でしょうか。灯りに照らされ、美しくも荘厳です。
「ここが火の試練の入り口よ。フェルト、鳥の像に手を当てて」
フェルトが深呼吸をし、像に手を当てます。
像の表面がゆっくりと輝き、赤い光が通路を満たし始めました。
門にも赤い灼熱した文字が浮かび上がります。
『恐怖に耐える者でなければ、火は扱えぬ。我が子孫よ、恐怖に耐えて火を掴むがよい』
おお、それっぽい……。
光が消えていくのと同時に、地響きを立てながら門が開きます。
この奥が火の試練です。なんだか本当にゲームのダンジョンですね。
「ここからはふたりで行くのよ」
王妃様の声には心配の色が色濃くにじんでいます。
私とフェルトは頷き合い、それを振り払うように応えました。
「「はい!」」
「もし駄目だと思ったら、静かにそこで待ちなさい。時間が経てば失敗とみなされて、ここに戻されるから」
王妃様が屈んで、私たちをいっぺんに抱きしめます。
「このランタンを持って、気を付けて。ふたりとも……無茶はしないでね」
それだけを言うと、王妃様はすっと離れました。
私たちの手にはランタン型の魔道具があります。
「母上、絶対に印を取って戻ってきますから」
「僕も頑張ります……!」
暗い中で王妃様の顔の全ては見えません。
でも、きっと不安なんでしょうね。
この王宮で完全にふたりきりになる時なんてありません。
どこにいたって侍女や執事はいます。お花摘みでも夜の寝室でも扉の向こうには当然、人がいるわけで。
その意味では、本当に私たちはふたりきりで試練に挑むことになります。
初めてのおつかい――とはこういうことを言うのでしょうか。
一国を左右しかねないおつかいですけれど。
「行こう、リリア」
「うん。行きましょう」
ランタンの魔道具は非常に簡単な作りでした。
光が出るだけなので、そうなのでしょうが……門の奥は見えません。
最後に私たちは王妃様に頭を下げました。
――いってきます。
声を揃え挨拶をして。
これが王族としての本当の試練です。
私たちは意を決して、門の内側に足を踏み入れたのでした。
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