4
私の予想は外れた。
あの告白劇から一夜明けて、登校した私は、遠巻きに注目を集める存在になっていた。
確かに寮に帰ってから質問攻めにされたけれど、それも昨夜までで、今朝はもうみんな納得して興味を失っているようだったのに。
私と普段付き合いのない人ほど、興味を失っていないみたいだ。
「あの子よ、ほら――」
「アシュフォードさんって、意外と華やかな方がお好みではないのね」
「もう返事はしたのかしら」
漏れ聞こえて来る噂話の主が私自身だと思うと、胃のあたりがきゅうっとなる。思わずお腹を抑えて立ち止まった私の腕を掴んだのはクレアだった。
「ちょっと来て」
そのまま腕を引かれてたどり着いたのは人気のない校舎の影だった。
「連れてきたわよ」
「悪いな。助かったよ」
クレアが声をかけたのは、魔術科のパトリック・オルディスさん。オルディス侯爵家の三男で、クレアの婚約者だ。専攻科も違うし身分も違うし、親しくしているわけではないけれど、さすがに親友の婚約者とは顔見知りではある。
慌てて略式の礼をする私に苦笑して、挨拶を手で制したオルディスさんは、「ほら」と言って一歩横にずれた。
オルディスさんと植え込みの影になって見えなかったが、そこに彼がいた。
驚いたけれど、クレアに強引に引っ張られた時からそんな気はしていた。
リチャードは、なんとも言えない表情をしていた。オルディスさんに肘で小突かれて、よろけるように前に出る。
クレアもいつの間にか私の横に下がっていたので、気がつけば二人向かい合う形で立っていた。
「……昨日は、ごめん」
リチャードは、そう言うと腰から深く頭を下げた。私は、なんだか胸がモヤモヤした。
「あんな騒ぎにするつもりはなかったんだ」
――そうだろうか。あんなところであんなことをすれば騒ぎになるに決まっている。
「……私はどうしたらいいですか」
自分で思うより冷たい声が出た。リチャードが腰を曲げたままの体勢で固まったのがわかった。リチャード越しのオルディスさんも少し驚いた顔をして、おそらく私の後ろにいるクレアと目を合わせている。
「作戦が完了するように協力します。その代わりこの件に関しておかしな噂が流れたり、誰かから危害が加えられたりしないよう、そちらで対応してください。もちろん故郷の家族にも知られないようにしてください」
リチャードが、ばっと顔を上げた。
「ベル」
懐かしい呼び方だった。最後に呼ばれたのはいつだっただろうか。初等学校のあの日々でリチャードが私の名前を呼ぶことはなかった気がする。ではそれよりもっと前、あの屈託のなかった幼い頃以来だろうか。
「……ベル?」
急に私を名前で呼んだリチャードにオルディスさんが訝しげな顔をする。
だがリチャードには聞こえていないようだった。
「ごめん――。あちらには絶対に知られないようにする。それも含めて、本当にごめん」
それはなんとも言えない顔だった。苦しいようなどこか嬉しいような。
なぜ、あなたがそんな顔をするのか。無性に腹が立った。
「――誰かに強制されたの? それとも自分で?」
口調が変わった私にクレアとオルディスさんが視線を向けた。この様子だと学園の友人は知らないのだろう。養子に入った生徒の出自について、噂には聞いていても、本人に直接尋ねるのはタブーだからだ。だけれど、口調が砕けたことで、リチャードは確信を深めたようだった。
拳を握りしめると、真剣な顔でこちらを見た。
「強制されたのは事実だけど、ベルが思っているようなことじゃない。昨日のやり方は反省している。ちゃんと話す機会をくれ」
「……どういうこと?」
小さい声でクレアがつぶやくのが聞こえた。オルディスさんも戸惑った顔で私たちを見ている。どちらにせよ、二人には説明しないといけないだろう。
「――少し考えさせて」
私にはそういうのが精一杯だった。




