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現人神様の暗躍ライフ  作者: 白神 怜司
幕間 世間のダンジョン騒動編
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幕間 ダンジョン出現騒動 Ⅴ

「――お疲れ様でした」


 リーンくんの検査を終え、その続きで研究室内の整理や諸々をしている間に、時刻はすっかり夜になっていたらしい。

 アレイアくんから声をかけられて時間に気が付いた私――ジュリー・アストリー――は手渡されたホットコーヒーを受け取りつつ、真新しい椅子に腰を下ろしてから一息ついた。


「やれやれ。さすがにこの一ヶ月程の忙しさは凄まじかったね……。研究もろくに進めない地獄のような日々だったよ」


「連邦軍との交渉から始まり、登記に土地の購入、我が主様による建物の建設に機材搬入と設置、ですからね。普通に考えれば一年以上はかかるような作業をたった一ヶ月で行っていますからね」


「改めて聞くと常識外れにも程がある内容だよ。これで私の後ろ(・・・・)に魔法使いがいるという事は充分に軍部にも伝わっただろうさ」


 常識外れというよりも、常識的に考えれば不可能とも言える行動。

 先日会った大野、鳴宮両名を含めた連邦軍の目が届く範囲での無茶なスケジュールの敢行。

 敢えてそんなものを実践してみせたのは、(ひとえ)に私が個ではないという対外的なアピールを含めているからだ。


 凛央郊外の広大な土地を確保して実質一週間でこれだけの建物が完成するなんて、何処かから持ってこれるようなものでもないし、現実的に考えれば有り得ない。

 しかし、所有者となる私という人間を知る大野、鳴宮両名であれば、こんな不可能を可能にする方法があるかと考えた時に、まず間違いなく魔法という存在を連想するだろう。


 そうすれば、嫌でも辿り着く。

 魔法を研究していて、すでに画期的――と、あの二人は思っているが、私から見ればまだまだ序の口の技術でしかない――な成果を見せた私が、どうやってその理論、技術に至ったのか。


 ――ジュリー・アストリーのバックには、魔法を使える協力者がいる。


 そんな疑惑を抱いてもらうために、敢えて常識を無視したスケジュールを敢行した。


「ジュリー・アストリーは傀儡でしかない。政府の上層部、或いは私の技術を独占したいと考えるような連中にそう思い込んでもらえれば、私自身に手を出しても首魁には逃げられる可能性が高くなって、迂闊に行動にも移せなくなるだろうさ」


「ですが、それでも狙われる事は変わらないのでは?」


「それは私の独自の技術だと思われていても変わらないさ。これから先、私が研究した内容を発表する以上、どうしたって利権にしがみつきたい連中には狙われるだろうね。でも、私の裏に不可能を可能にするような何者かがいるとなれば、慎重な者ほど迂闊には手を出さなくなるだろう。逆に、単純に考えるような存在が動こうとしても……」


「『暁星(スティラ)』が動いて潰す事になると」


「ま、そうなるだろうね」


 詰まるところ、これは私という存在の価値を偽装するための行動だ。

 まあ、事実として我らが総帥閣下とアレイアくんという魔法を使える存在もいるし、基礎知識として魔法についても色々教わってしまっている以上、あながち間違いではない。


 しかし今、私は『純魔力液(エーテルリキッド)』を通して魔道具――もとい、魔法を利用するための道具というよりも、魔法を意図して制御し、誰でも同様の結果を生み出せる新たな存在、『魔()具』を作成しており、我らが総帥閣下にも「自分の知るモノとは違う」と感心しつつもそう言わしめた。


 そう言われて、ようやく私はスタートラインに立てたのだと実感した。

 祝杯だと言われて、普段はお酒を飲まないはずの私だと言うのに珍しくお酒を口にして騒いだものだ。


 もっとも、我らが総帥閣下の前で下着姿で管を巻いたせいか、翌日、生暖かい目を向けられてしまうハメになったが。

 私はどうも、酒に酔うと暑くなって脱いでしまうらしい。

 いや、知らなかったな。やはりお酒は飲んでも呑まれるな、という事なのだろう。


 ……うん、あれは猛省した。


「ところで、軍病院を受け入れた理由を聞いても?」


「あぁ、それかい? 実は、大将閣下に依頼されたのさ。報酬をさらに上乗せして出す代わりに、ってね」


「依頼?」


「あぁ、そうだよ。アレイアくんは『活動不明』となった魔法少女を知っているかい?」


「『活動不明』、ですか。確か、魔法少女の非公式ファンサイトにありましたね」


 いや、うん。

 そうなんだけど、アレイアくんには似合わない情報だし、知らないと思っていたよ。

 魔法少女よりもメイド少女の方が有能、とか言い出しそうだし。

 まぁ知っているなら話は早いけども。


「三ヶ月以上活躍が見えない魔法少女、ですか。そもそも魔法少女は認識阻害を駆使して己を隠蔽している者もいると聞いていますが、判別できるものなのですか?」


「一応、ルイナー討伐情報は魔法庁でもアップしているからね。一般人が見えなくても、活動していたという事は記録上公開されているんだ」


「なるほど。そちらの情報さえアップされているのであれば活動している事は理解できる、と。逆に公表されている情報にもいないのであれば、という事ですね」


「そうなるね。――で、その『活動不明』の魔法少女の数名が、今度こっちの病棟に移ってくるんだ」


 タブレット端末を操作すると、壁に取り付けられたモニターに四人の魔法少女の名前と顔写真が映し出された。


「序列第六位、『氷雪』のニクス。それに序列第十二位、あとは無名の魔法少女も含めた四名が、ルイナーとの戦闘で傷つき、昏睡状態に陥っている。もっとも、外傷なんかは大した事もないのに、だ。精神的な要因のせいかもしれないと判断されていたらしいけれど、もしかしたら魔法も関係しているんじゃないか、って相談されてね」


 元々運び込まれた時も、外傷はそこまで酷くはなかったとの事だ。

 今ではその外傷とてとっくに完治しており、いつ目が覚めても良いはず。

 だというのに一向に目覚めないらしく、その原因が魔力的な要素によるものなのかもしれないので、私にも是非治療に協力してほしい、との事だった。


「そんな訳で、魔力波測定器を改善したものを持ち込んでみたのだけれど、どうにも彼女たちにはとある共通点(・・・)があってね」


「それが、魔力に関するものだった、と?」


「うん、そうみたいだね。魔力が枯渇し、発生してもすぐに萎んで消えてしまうという繰り返し現象が起きていたのさ」


「常に魔力が足りていないような状態、という事でしょうか」


「そうなるね。そんな訳で、『純魔力液(エーテルリキッド)』を使った高濃度魔素室で少し様子を見る事を提案したのさ、私にとっても人体への影響がどう出ているのかは知りたいところではあったし、医療技術と知識を持つ人材がいてくれるのは喜ばしい。加えて、軍がこの建物に出入りするとなれば、必然的に私の後ろ盾にもなってくれる。そうなれば、多少の権力者を牽制する言い訳も増える。あながち悪い提案ではなかった、という訳さ」


 もっとも、この建物は魔法による結界という反則的な力のおかげで、病棟側からこちらに入ってくる事はできない。

 何せ我らが総帥閣下が施してくれた結界は、登録された魔力を持つ人間しか通さないらしいからね。

 そう考えると魔力というものは指紋と同じように一人ひとりに違いがあるという訳だけれど、まぁそれはともかくとして、そのおかげでこちらの棟内に入り込む事はできないし、科学技術によって生み出されたシステムによるセキュリティでもない以上、今の段階では人間には決して破れないセキュリティ体制であると言えるし、こちらを監視する事さえできないだろう。


 向こうとしては面白くないかもしれないが、まぁそこは魔力影響に対する医療研究に協力するのだから目を瞑ってもらいたいね。


「それに、今後ダンジョンや魔素濃度の向上で魔法少女と似たような症状で昏睡状態に陥る人も出てくるだろうしね。その対策を確立しておきたいんだろう、向こうさんも」


 そう言いながら私が映し出したのは、この一週間程で一気に有名人となった青年だ。

 ダンジョン発生時に偶然ダンジョン発生に巻き込まれ、偶然魔法武器を手に入れ、偶然魔法薬までも手に入れて出てきた青年。

 そんな彼が偶然にも配信までしていたおかげで、ダンジョンという存在が公になった。


 いきなりダンジョンの情報が公になったなんて、国の上層部にとっては頭の痛い問題だっただろうけれど、まあ運が悪かったとでも思うしかないだろうね。


 ダンジョンの発生は神の意思。

 世界全体で足並みを揃えて発表されたダンジョン発生の理由と、今後の世界の流れに対する公式な発表、そしてダンジョンで出る品々の買い取りや流通を取り仕切る、国という枠組みを超えた探索者ギルドなる組合の発足。

 ダンジョンに潜り、資源を採集したり、魔物と呼ばれるルイナーに似たように魔力障壁を持つと思われる魔物と戦う者を探索者とする。


 そんな、まるでファンタジー小説の世界がまるっとやって来たような今の状況に、インターネット上では毎日がお祭り騒ぎといった様相を呈している。


 魔法少女を助けてヒーローになりたい、なんて意見も出ていたりするようだけれど、私から見れば、命のやり取りにその程度の意思で耐えられるほど、現代人は強くはないだろうというのが正直な感想だったりもする。

 特に青年が配信していた動画に映っていた魔物は、明確に殺意を向けていた。

 あれは常人には耐えられるようなものではない類の代物だ。


 そう考えると、棄民街で生きてきた者達の方が探索者には適しているかもしれない。

 悪意に晒され、立ち向かい、戦うという事を選択して生き抜いてきた者達と、ぬるま湯に浸かっている者達。

 上下の差が、ここにきて逆転するのかもしれないね。


 そういえば、ダンジョンが表に出てきて以来、我らが総帥閣下の姿を見かけないような……。


「アレイアくん、我らが総帥閣下はどうしているんだい?」


「今頃、この青年に会いに行っているかと」


「……え?」


 ……なんで?

 こんなに目立った人間を『暁星(スティラ)』に引き入れるなんて有り得ないだろうし、だとすれば、目的は一体?


 困惑する私に向かって、アレイアくんは淡々と告げた。


「場合によっては消すかもしれない、だそうです」


 ……それはまた、何やらきな臭い感じだね。

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