#039 大和連邦国の歴史 Ⅱ
僕個人の思惑で言えば、いずれにせよこの世界の、せめてこの国の管理をしている亜神には一度会っておきたいところだとは考えている。
葛之葉を封じたり、神隠しとやらを引き起こした張本人がどういった立場にあるかは判らないけれど、この世界の亜神の一柱に会えるならそこから情報を引き出せばいいし、完全に無駄足になる事もないだろうと考えて問いかけた質問。
しばらく目を丸くしていた葛之葉だけれど、どうやら彼女も僕が本気で訊ねているという事は理解できたらしい。
古い記憶を呼び起こすように一度目を閉じて、その後でゆっくりと目を開けた。
「あたしを封じた神の居場所は判らないけれど、神域と呼ばれる場所なら、いくつか心当たりがあるよ。もっとも、神域はあたしらみたいな妖じゃ足を踏み入れる事すらできないけれどね」
「うん、それで充分だよ。場所だけ教えてくれればいいしね、後は僕が勝手に動くだけだから」
「……無駄足になるかもしれないよ?」
「あはは、心配しなくていいさ。そもそもキミからの情報の方が、ネット上に転がってる都市伝説レベルのものを取捨選択するよりよっぽど信憑性が高いしね」
葛之葉はいまいち理解していないようだけれど、日本の平行世界であるこの世界、実際ネット上には都市伝説、パワースポットなんていう、実際には神と関係していない場所であったり、人間が勝手に崇めている聖地なんてものがあったりで、好き勝手に噂されるような場所は枚挙に暇がない程に転がっているのだ。
その中から取捨選択したり、口コミや噂の内容を吟味して選別して、なんてやっていたらどれだけ時間がかかるのやら。
ネット社会に意外と順応しているルーミアも僕の言わんとしている事は理解できたのか、苦笑しているしね。
「そういう事なら、後であたしの私室に案内しようじゃないか。地図があるからね」
……数百年とか経った地図が見れるものであってくれればいいんだけどね。
葛之葉も僕が危惧している事は理解できたのか、苦笑して頷いた。
「隔離結界の中に放り込んでるから、時間劣化だとかについては心配いらないよ」
「へぇ、時間が止まるんだ? ずいぶんと便利だね、それ」
「そうさね、長く保管したい大事なものなんかは便利だよ。あぁ、ついでにあたしのコレクションを見せるから、何か使えそうなものとか気に入ったものがあったら貰ってくれないかい?」
「コレクション?」
「色々と物珍しい品々を集めていたからね。助けてくれた御礼の品としちゃ不十分だろうとは思うけれど、せめてそれぐらいはさせとくれ」
うーん、コレクション、ねぇ。
別に僕としては見返りなんて特に求めていなかったし、むしろ神に繋がる情報が一番の報酬ではあるのだけれど、葛之葉としても何も御礼ができていないというのは心苦しいものもあるのだろう。
まあ、僕にとってはあまり嬉しくない代物であったとしても、うまく売り捌けば資金の足しになったりもするだろうし、無意味に遠慮する意味もないし頷いておこうとしたところで、ルーミアが僕に代わって口を開いた。
「そういう事なら、武器とかないかしら?」
「へ?」
「ルオ、あなたしばらく表立って魔法使えないって事になっているじゃないの。それなら武器の一つや二つ、持っていた方が様になるでしょ?」
「まぁ、それはそうだけど」
確かに、素手で戦うより武器を使った方が戦いやすいけれど……――と考えたところで、ふと思い立った。
この世界は日本の平行世界。
目の前には平安時代を思わせる時代を生きた大妖怪。
平安時代って、確か日本だと日本刀の文化が開花した時代だったはずだ。
「ねぇ、葛之葉。刀って知ってる?」
「そりゃ知ってるよ。というより、コレクションの中にもあるよ」
……もしかして、僕、日本刀的な武器とか手に入っちゃうのではないだろうか。
ちょっと中二心が疼いてきた気がする。
ただ、前世の世界では刀なんて都合良く存在してなかったから、僕が使ってた武器って長剣なんだよなぁ。
長剣は刺突、叩き割るっていう要素が強かったけれど、確か日本刀は刺突もあるけれど、「引いて斬る」という動作が必要になったはずだから、動き方とかが全く異なるはずだし。
「ねぇ、葛之葉。もし刀で使えそうなものがあったら、それとついでに刀術も教えてもらえるか、教えてくれる知り合いとかいないかな?」
「あたしが教えられるよ? それに、あたしにゃ強すぎて使えそうになかったけれど、あんたなら使いこなせそうな刀もあるさね」
強すぎて使えない、っていう意味がいまいち理解できないけれど、葛之葉がそう言うって事はかなりの業物があったりするのだろうか。
ちょっとイタズラっぽくニタリと笑っている表情が、なかなか狐っぽく見える。
……これは、刀デビューも近いのではないだろうか。
そんな事を考えて中二心をうずうずとさせていると、ちょうどご飯の準備ができたのか、襖の向こうから双子の少女の声が聞こえてきて、僕らは食事の為に移動する事になった。
「……こ、れは」
双子に連れられて再び着替えてきた葛之葉が、思わずといった様子で机に並んだ大量の料理と、それにお酒の数々を見て爛々と目を輝かせながら感嘆の声を漏らした。
口の端に涎も垂れているけれど、それも無理はないだろう。
準備を手伝っていたはずの双子の少女も似たような顔をしているし。
「主様が治療を施した上に、人間ではないとの事。胃の心配をする必要など皆無と思い、ご馳走を用意いたしました」
恭しく胸に手を当てて頭を下げてみせた、僕の斜め後方を陣取るジル。
その横にいるアレイアとリュリュもメイドらしく控えているけれど、アレイアは相変わらず無表情なのにドヤ顔感が出ているし、リュリュは澄ました顔をしているようで、料理をさっきからチラチラと見ては顔にデカデカと「食べたい」と書いてあるような気がする程度には分かりやすい反応を見せていた。
「……ねぇ、ジル」
「はい、主様」
「あの真ん中にあるでかい魚の舟盛り、何?」
「金目鯛でございます」
「いや、そうじゃなくて。明らかにここにあった食材じゃないよね?」
買ってきた、って言うなら普通に納得できたんだけれど、明らかに新鮮過ぎるんだよね。
まるで冷凍保存なんてしてませんでした、ぐらいには。
「獲ってまいりました」
「あ、はい」
転移も使えればそれも可能だよね、そりゃあ。
実際、『暁星』の食費とか、一人離れたところにいるジュリーの食費とかって、なんだか妙に安く済んでいるなぁって思っていたんだけれど、そういう事だったんだね。
「かか様、こっち」
「母様、こっち。私たちがお世話する」
ぐいぐいと二人に引っ張られて、窘めながらもちゃんと付き合ってあげるあたり、本当に親子らしいというか、微笑ましい光景だなぁ。
「……アレイア、なんで僕の手を握ってるの?」
「不肖このアレイアが、主様のお世話を――」
「――いや、いらないよ。というかあの双子に構えない鬱憤を僕で晴らそうとしないでくれない?」
いつもならそんな真似をしないのに、アレイアが何故か僕の手を引っ張り始めたのでやんわりと拒絶しておくと、アレイアが絶望したみたいな顔をしてこちらを見てきた。
……いや、キミ、表面上はそんなに愉快なキャラじゃなかったでしょ。
あの双子のせいで我慢できなくなってない?
「ふふ、私たちも座っていただきましょ。あなた達も座りなさいな」
「え、いいんですか!? ――痛ぁっ!?」
「いいのよ。ね、ルオ?」
「うん、別に給仕してもらわなくていいし。それに、ジル達が立ってたら、あの子たちも落ち着かないだろうしね」
葛之葉を座らせて、挟み込むように座る双子の少女。
一応は客人であり、恩人でもある僕らが座るまでは待っているらしく、食事やお酒に手をつけずに葛之葉にくっつきながら、ちらちらとこっちを見ている。
あの双子の少女たちは、この団欒をずっと待ち望んでいたはずだ。
葛之葉が封印され、石像となって警備をしながらも、ずっとずっと、何十年、何百年という時間を、ずっと。
「さぁ、僕らもいただこう」
これ以上待たせる訳にはいかないしね。




