#015 『暁星』始動 Ⅲ
玉座は比較的大きめに作られるものだ。
理由としては権威の表れであったり、財力の誇示であったりといった理由が多い。
対外的な謁見において相手へ威嚇するような意味合いが強いとも言える。
ここは国ではないし、正直こんな謁見の間とか必要ないとは思う。
正直、子供となってしまった僕の身体には大きすぎるし、何よりも見た目がもう、全体的に悪役感が出すぎていて若干引いている。
これ、絶対ルーミアが監修して作ったんだろうなぁ……。
というか僕が対外的に組織の親玉だって名乗るつもりはないし、表に出て行くのは今だけの話だし、今後はリグがここに座ったりするんだろうか。
……なんか想像したら意外と似合ってそうで妬ましい。
試しに座ってみたけれど、案の定やたらと大きい。
悪役感溢れるなら、こう、足を組んで頬杖を突くとか、ちょっとそういう大人の悪役感を出したかったのに、今の僕が椅子に座ると足がぶらぶらと宙に投げ出される形となってしまって、お世辞にも威厳がある格好になれない。
一応、僕はリグ達のように、この世界で出会った相手にはイシュトアの要求する『不敵な笑みを浮かべる生意気なキャラ』というものを演じている。
ルーミアやオルベール家の面々は『舞台の登場人物』からは外れるため、ある程度は自由に振る舞う事ができるけれど。
ともあれ、そんなキャラクター設定を貫くためには、この不釣り合いに大きな玉座で、それらしい格好をしておかなくちゃいけないのだけれど……どうすればいいんだろうか。
とりあえず足をブラブラさせるのはお子様感が強すぎるし、かと言って胡座をかいて座るというのも、なんだかコンパクトに収まり過ぎているような。
そんな風に試行錯誤をしていたせいか、片足を胡座のように折り曲げ、もう片足をブラブラさせているタイミングで、謁見の間の扉が開かれてしまった。
今から座り直そうとしても、なんだか閉まらないし、折り曲げている足に手を置いたまま仕方なくその体制で対応する事にした。
玉座の置かれる数段の階段には昇らず、その向こう側で足を止め、ジルが跪いて見せると、その後方にいたアレイアまでもが跪いた。
さらに、そんな二人に続くように唯希まで当たり前とでも言わんばかりに跪き、何故かここに連れて来られたらしいジュリーと、リグまで慌てた様子で跪いてみせた。
「――我が主様。お呼びと聞き、馳せ参じました」
……いや、ジル。キミ、なんでいるの?
僕、リグと唯希を呼んで欲しいって言っただけなのに。
なんでこんな、本気で謁見みたいな流れになってしまっているのさ。
「全員、頭を上げて楽にするといいよ。一応、ここの主はリグなんだからね。僕にそういう態度はいらないよ」
僕が舞台上の役割を果たすように、あくまでも飄々とした物言いで告げてみせると、ジルが代表して最初に立ち上がり、胸元に手を当てて頭を下げてから、集まった三人から離れるようにして隅へと移動した。
アレイアもまたそんなジルに付き従うように絨毯の端へと寄り、その場に佇んでみせている。
箔を付ける的な事をしたかったのだろうか……。
そういう立場にいた事はないんだから辞めてほしい。
ジルとアレイアが動いたおかげで、困惑しながらも立ち上がるリグとジュリー。
最後まで跪いていた唯希もまた立ち上がり、こちらを見上げていた。
「さて、忙しい中で集まってもらってすまないね。少し話があったんだ」
…………返事がない。
「あぁ、ごめんよ。わざわざこんな所に集まってもらったのは、単純にここが完成したお披露目のようなものだから、普通に口を開いてもらって構わないよ」
「お、おう、そうか……。何が始まるのかと思ったぜ……」
「黙ってください、リグレッドさん。ルオ様に気を遣っていただいたからと言って、私たちがそのような態度では、ルオ様の威光にいずれ泥を塗りかねません」
安堵したリグに向かって、切れ長の目をすっと向けて静かに淡々と、まるで毛嫌いしている相手に向かって告げるような物言いで唯希が告げる。
そんな言葉のせいで、リグのおかげで弛緩しかけた空気が再び一瞬で張り詰めた。
「唯希、落ち着いて。僕がいいと言ったんだよ?」
「も、申し訳ございません。出過ぎた真似を致しました……」
「いや、うん。怒ってはいないから。僕もリグの態度に思うところはないし、唯希だってもう少し気楽にしてくれればいいよ」
「……はっ」
……うん、実は唯希、なんか元気になるにつれて僕の事をやたらと神聖視するようになったと言うか……軽く狂信者感があってちょっと怖い。
リグも唯希にはちょっと苦手意識を抱いているらしい。
僕に宥められる形となって落ち着いた唯希の態度に引きつった笑みを浮かべつつ、深く息を吐き出して安堵しているようだ。
「さて、リグ。キミが連れてきたもう一人の男の子はどうしてる?」
「あー……お陰さんで、今じゃすっかり元気だぜ。今は絵本でも読んでるはずだ」
「そっか、それは良かった。アレイア、あの子の世話は引き続き頼むよ」
僕がそう告げてアレイアに目を向ければ、アレイアは目を閉じたまま軽く膝を落とし、了承の意を示してみせた。
リグが僕の元へと連れてきたのは、二人。
一人はさっきも通路で出会ったジュリーだけれど、もう一人は黒人の男の子で、肺を患っている少年だった。
二年程前に棄民街で見かけ、リグが保護していたらしく、友人に預けて昼は動き、夜は引き取りに行っていたそうだ。
実はその友人にも声をかけたらしいのだけれど、友人は子供と奥さんもいたので身軽に動けるという訳にはいかなかったらしく、保護していた少年だけを連れてきた、という訳だ。
まぁ、治安が良くない棄民街にいるよりは連れて来てあげた方が安全だと思うし、落ち着いたら迎えに行ってもいいと告げている。
そんな子供――コニーはまだ6歳か7歳といったところだ。
実のところ、単純に治療して助けてあげようなんて考えた訳ではない。
アレイアが魔力を直接流し込み、この世界で純粋な魔法使いとしての下地を作れないかと試していたりもする。
「リグ、アレイアやジルに魔力を流してもらった状態なら、身体強化の魔法を使えるようになったと聞いているけれど、本当かい?」
「あぁ。つっても、十分程度が限界だけどな」
「へぇ。魔法の構築とは言えない、魔法における基礎の基礎ではあるけれど、それでも多少は使えるようになったなら上々だよ。唯希、キミはどうだい? 体調は安定したし、早速何か試してみたの?」
「はい、今朝からアレイアさんに見てもらいながら試しました。結果は炎と水は第二階梯魔法まで。風は第三階梯魔法までは先程構築に成功しました。身体強化は調整していれば数時間は維持が可能です」
「うんうん、素晴らしいね。勉強していたおかげかな?」
「はい。実際に試してみて理解しました。さすがはルオ様です」
「あはは、大袈裟だなぁ。僕は魔法構築の基礎と魔力操作の基礎を口頭で教えてあげただけだよ。実際にやってみせたのはキミなんだから、キミの努力の成果だよ」
唯希の治療をしながら、僕はジュリーと唯希には魔法の基礎とでも言える内容について教え込んだ。
リグは頭を使って学ぶというよりも身体で覚えるタイプだったので、そういう話にはあんまり参加しなかったけれど、ジュリーは魔法の知識を知りたがっていたし、唯希は元々魔法少女として魔力とは付き合いが長いと言えたので、理解も早かった。
まぁ、僕の説明をこの世界の考え方に当て嵌めてジュリーが聞き返してきたりしてくれたからこそ、唯希も理解しやすかったのかもしれない。
そういう付き合いがあったおかげで、唯希もジュリーには若干態度が軟化しているしね。
……そう考えると、唯希はリグにだけ冷たいのかもしれない。
もしかしたら大人の男性に対しての苦手意識が芽生えているのかもしれないなぁ。
捕まった時のトラウマも少なからずあるだろうし。
「アレイア、唯希の魔法使用時の魔力は安定していたかい?」
「安定しておりました。ただ、少々気を張りすぎているのか、無理を通そうとする節がありますので、釘を差していただけますと助かります」
得意気な様子で告げていた唯希だったけれど、さすがにアレイアによってあっさりと告げ口される事は予想していなかったらしく、表情がみるみる青褪めていった。
「唯希、無理はしないようにと言ったはずだね?」
「す、すみません……。やっと御力になれると思って、つい……」
「そう思ってくれるのは嬉しいけれど、無理してほしいとは思っていないよ。アレイア、キミの裁量で限度を調整してあげてほしい。あまり無理をさせると、体内の魔力器官に傷がつきかねないからね」
「承知いたしました、我が主様」
落ち込んでしまったらしい唯希には悪いけれど、正直に言えばこれは想定通りだった。
唯希が何故か僕に対して妙な懐き方をしてしまっている以上、動けるようになったら早速とばかりに無茶をする可能性というものは僕も考えていたし、アレイアの言う事を聞かないようなら僕に言ってくれと伝えてあったからね。
「ジル」
「はっ」
「バーの営業はいつから始められる?」
「仰せとあらば、今夜からでも」
「よし、じゃあ舞台は整ってきた、という訳だね。三日もあれば周辺に情報を流せるかい?」
「ご配慮いただき、感謝申し上げます。三日もあれば充分かと」
「うん、じゃあ三日後から始めよう」
「はっ」
ジルの返事を聞いてから、僕は玉座から降りてみんなに向かって数歩ばかり歩み寄る。
段差があるのに僕の方が目線が低いのは些か納得がいかないけれど、まぁこの際それは気にしていない方向でいこう。
「――さて、諸君。準備はすでに整った。舞台の幕を開ける時がきたという訳だ」
子供の容姿であるが故に箔はつかないかもしれないけれど、目の前にいるリグ、ジュリー、唯希から見た僕という存在は、異常な力を持ちながらも、目的らしい目的を語らずにただ自分たちを支援してくれている謎の存在だ。
そんな僕が、今日、こうしてわざわざ全員を呼び出した以上、何かが語られるという予感はあったのだろう。
みんなの表情が僅かに強張った。
……まぁ、ホントはもっと軽いノリで仕事をしてもらおうと思っていたんだけれども。
こんな風に集まってもらった以上、演出はしっかりとやっておかないと、ね。
「僕が組織を必要とした理由は、以前にも言った通りだね。この世界の裏側にもしっかりと根を伸ばす事が目的だ。それは同時に、今の歪な社会が取り零した人々を受け入れる組織であるとも言える。まるで慈善活動を行う団体のようだ、とも見えるかもしれない」
――けれど、僕らは善ではない。
そんな一言を付け加えると、リグは唾を飲み込み、ジュリーは微笑を湛えたまま目を閉じ、唯希は真っ直ぐこちらを見つめて頷いた。
「もちろん、無益な人殺しに手を染めるつもりはないけれど、力を見せなければ、一方的に搾取されるのが人の世の常だ。そんな時、圧倒的な力を見せつける事ができれば、争いにもならずに済むだろう。その役目を担って、裏社会を支配していくのが、リグ。キミの役目になる」
「……そういう目的の為ってのは、とっくに覚悟してる。まだまだ届いちゃいねぇが、今更になって怖気づいたりもしてねぇさ」
この事については、ここに連れて来る時に改めて告げていた。
もしも怖気づいてしまったりしては目も当てられないし、コニーはともかく、ジュリーもまた、聞いていなかったと後々になって逃げられるぐらいなら、最初から連れて行く気はなかったからね。
「ジュリー」
「なんだい?」
「改めて言っておくよ。一年だ」
唐突に話を振られた事についていけず小首を傾げるジュリーに向かって、僕は挑発するように不敵な笑みを浮かべてみせた。
「今後一年で、世界の有り様は大きく変わる。その時、魔法研究の第一人者と呼ばれる存在は、間違いなくキミになる。もしも気が変わって、表に出たくないと考えるなら――」
「――それは前にも答えたはずだよ、我らが総帥閣下。私の手柄も、私への称賛も、私のものだ。誰にも奪わせない。今はキミ達には届かないが、キミ達でさえ驚く物を必ず私の手で生み出してみせる、と。その意思は変わっていないさ」
「うん、さすがだね。なら、近い内にアレイアを連れて魔法技術の研究を行う名目で会社を興しておいて。代表はキミだけの小さな会社でいい。アレイア、フォローは任せるよ」
「ふむ、表向きな所属を明らかにして対外的な発言権も得る気だね? あとは余計な引き抜きなんかの煩わしいちょっかいを避けるため、というところか。オーケーだ。アレイアくん、よろしく頼むよ」
「我が主様の命令とあらば」
「名を売るタイミングは僕が言うよ。――リグ、聞いていたね? 少なくともそれまでに、この周辺と凛央の裏社会の者達に、キミの名を刻み込むんだ」
「……なるほどな。会社が動き出した時に妙な真似をさせねぇようにしろって事だな? いいぜ、やってやる」
僅かに目を剥いた後、リグは堪えきれないとでも言いたげに獰猛な笑みを浮かべて断言した。
「ジルがバーを営業しながら、組織の手足になる人材を集めていく事になる。けれど、キミが本当に信頼できると考えた人間以外に、当面魔法を教える事はしない。対象とするかどうかの選択は、キミに任せるよ。キミ自身も今の調子で鍛えつつ、部下を増やしていく事を考えるんだ」
「あぁ、分かった」
しばらくの方針はこんな所だろう。
これで僕の手にかかりっぱなしになっていた組織は、手が離れてそれぞれに動いていく事になる訳だ。
「唯希。以前言った通り、ルイナーが出たらキミが倒すんだ。キミの存在を、本物の力を学んだ魔法少女の存在を、存分に見せつけてあげるといい」
「はいっ!」
「魔法少女には僕の部下である事は知られていいよ。けれど、僕はルイナーとは敵対しているけれど、魔法少女と仲良くやっていくつもりはないからね。人の全てを救おうなんて思っていない」
「分かっています。私も、他人なんかを守る為に戦うつもりはありません」
「そっか。魔法少女に知り合いがいたりはしないのかい?」
「長く魔法少女として活動していたので、私を知る魔法少女はいるかと思いますが、問題ありません。御命令とあれば、魔法少女と戦う事に躊躇いはありません」
「うん、分かった。まぁ、僕が命令しない限りは殺さなくていいからね」
「分かりました」
まぁ、殺せって命じる事はないけどね。
唯希の境遇を考えれば、親しい人にまだ子供の内に手酷く裏切られた事で、他者を憎む事も有り得た。けれど、この程度の線引きをするだけに留まれたのは僥倖だと言える。
他人の全てを呪うような子になってしまったら、悪役ではなくて純粋な悪になってしまうし、それは僕も望むところではない。
リグに対して先程辛辣な態度を取ってみせたのは、恐怖の裏返し、警戒心からのものだけれども、ああいう態度は、きっと僕の仲間とは言えない相手に――魔法少女に対しても取るだろう。
むしろ好都合だ。
何せ、彼女には魔法少女の正統なライバルという役目を担ってもらうつもりだ。
僕じゃライバルになるには力の差がありすぎるしね。
「あー、その、なんだ。じゃあ動こうって時に悪いんだが……」
「うん? どうしたんだい?」
「組織の名前とかつけてくれねぇか? 実際に動くってなったら、広めるにしたって名前がないんじゃどうしようもねぇし」
「あぁ、それもそうだね……」
確かに、対外的にも名前を知られている方がいいというのは間違いない。
前世だったらギルドに名前があるのが一般的だったし、裏ギルド、闇ギルドなんて言われている連中も名前があった。
「『暁星』。とある国の言葉で、暁星を指す言葉なんてどうかな?」
「……なるほど。新たな時代の幕開けを夜明けに喩え、その中にあっても輝き燃え続ける存在、か。悪くないね、私は異存ない」
さすがにジュリーには語源となった意味が伝わったようだ。
彼女の説明を聞いて、リグはその名前を刻むように何度か反芻して口の中で呟き、唯希は何故か目を輝かせて感動していた。
ちらりとジルとアレイアに目を向けると、二人は当然ながらに異論はないらしく、控えたまま何も言おうとはせず、むしろ納得した様子で頷いていた。
「――さあ、ここから始めよう」
『暁星』が動き出す事になるのであれば、僕も悠長に構えてはいられない。
ルーミアも何か面白い事が起こりそうだと言っていたし、そろそろ本格的に色々と動き出していこうじゃないか。
サブタイトルそのまま読むと
「『暁星』始動」⇛「ぎょうせいしどう」⇛「行政指導」……!?
ルビというか読み仮名で構成していたので、そのまま考えるとブラック企業的な何かになりそうだと気が付いたのが、昨日の夕方のお話でした(手遅れ)
お読みくださりありがとうございます。
ここからしばらく本編が続きます。
また、この場を借りてお礼を言わせてください。
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