表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/33

花見5

「この挟んであるものはなんだ?初めて食べる味だ」


「これはカツサンドです」


マリーが笑う。


褒められて嬉しくて顔がにやけてしまっているのだ。


「カツサンド?」


「はい!豚ヒレ肉に塩コショウして小麦粉と卵とパン粉をつけて高温の油であげたものです。それに朝、畑から取ってきたキャベツの千切りを挟んでいます」


「初めて聞いた料理だが………本当に旨いな。このソースもいい」


「そのソースもマリーお手製なんですよ」


メイが嬉しそうに言う。


アーノルドはあっという間に食べてしまい、次のサンドイッチに手を伸ばした。


そして1口食べる。


「これも美味しいな。レタスとトマトが新鮮なのはもちろん、この薄い肉の塩味がいい」


「これはハムサンドです。ハムは叔父様が輸入したもので保存食なのだそうです」


「干し肉よりずっと美味しい」


アーノルドはもくもくと平らげ、次のサンドイッチに手を伸ばす。


そして1口食べて、驚いた表情をした。


「これは………卵か?」


「はい!タマゴサンドです。ゆで玉子を崩して自家製のマヨネーズと塩コショウで味付けしています」


この世界にはマヨネーズはないのだが、マリーは試行錯誤して自家製マヨネーズを完成させた。


ただ、あまり日持ちはしないため毎回作らないといけないのが欠点だが。


「たまごはこんなに美味しくなるのだな。驚いた」


「パンもマリーの手作りなんですよ」


バッカスもマリーが褒められて嬉しそうだ。


「バッカス殿ではないが、確かに店を出したら繁盛するだろうな」


「眼鏡だけで勘弁してください」


マリーがいうとアーノルドはまた笑った。


そんな会話にほとんど参加せずにショーンはもくもくとサンドイッチを食べている。


「早く食べないとショーンに全部食べられる!」


バッカスが慌ててサンドイッチを2つ取って皿に確保した。


「たくさん作ったからゆっくり食べて大丈夫だよ」


「いや、ショーンならこの量、一人で余裕で平らげるよ。ベデル様も食べたいやつは皿に置いていた方がいいですよ」


よく見るとメイも皿にいくつか確保していた。


「カータス様の分、取り分けておいて正解だったかもね」


マリーがタマゴサンドを食べながらいうと


「大正解だよ」


バッカスが応じる。


「カータス様は行くごろ来るの?」


メイに聞かれてバッカスは首を傾げた。


「午前中は無理って聞いたから12時くらいかなぁ」


「ちゃんと聞いてきなさいよ」


「そんなこと言ったって、カータス様すごく急がしそうだったから」


「もう、頼りないわね」


「メイは本当に俺に優しくないよな」


2人が言い争いを始めそうだったのでマリーが慌てて口を挟んだ。


「飲み物のお分かりはいる?」


「お、さすがマリー気が利くね。コーヒーよろしく」


「自分で用意しなさいよ。マリーはメイドじゃないのよ」


「自分で注ぐよりマリーに注いでもらった方が美味しいんだよ」


マリーはいつもの光景に口許が綻ぶ、


本当に仲がいい2人だな。


「俺ももらっていいですか?」


ショーンもマグカップをマリーに渡した。


そこにコーヒーを注ぐ。


「氷はいるか?」


アーノルドは湯気の立つコーヒーを見ている。


「お願いしてもいいですか?」


「俺もお願いします、アーノルド様」


マリーの持つマグカップに氷が落ちる。


「はい、どうぞ」


マグカップを受け取った2人は今度は1口だけコーヒーを飲んだ。


そしてサンドイッチを頬張る。


「でもこの丘の上から見える花畑は本当に綺麗よね、マリー」


丘を囲むようにして花が植えられているのでどこに座っても花見を楽しむことができる。


「天気もいいし、外で食べるとなんでこんなに美味しく感じるんだろうね」


「マリーのサンドイッチが絶品ってこともあるけどな」


「コーヒーも美味しいです」


「ありがとう」


そんな他愛のない話をしているとあっという間にサンドイッチはなくなってしまった。


「カータス様、間に合わなかったわね」


「仕方ないよ、マリー。みんなお腹空いてたから」


バッカスが笑う。そのままコーヒーを飲んでいるアールドに視線をうつす。


「ベデル様、楽しんでますか?」


「ああ。ここ何年かはこんなのんびりした時間を過ごしていなかったからいい休息になったよ。招待してくれたこと、改めて礼を言う」


「そんな、いいですよ。もしよかったらまた参加してくださいね」


「もちろんだ」


眼鏡購入の時の悪いイメージはマリーの中から完全に消えていた。


友達か………。


横に視線をうつすと、綺麗な横顔がある。


銀の髪もキメの細かい肌も高い鼻も形のいい口もどれを取っても美しいという表現しか出てこない。


本当に綺麗な人。


女性なら笑顔ひとつで簡単に落とせそうな人が自分と友達になりたいなんて、何かの間違いではないだろうかと思う。


もしかしたら男性でもメロメロにさせてしまうかもしれない。


そんなことを思いながらついついジッと見つめていると、こちらを向いたアールドの緑色の瞳と目があった。


眼鏡の奥にあるその瞳はとても優しくてなぜか直視出来ずに視線を反らした。


「私に何か用か?グラッシス嬢」


「あ………えっと」


見惚れていたなんて言えない。


「は、白馬を見せてほしいなと思いまして」


「ああ、さっき約束したな。食事はもういいのか?」


「はい!食べ終わりました」


「それなら紹介するよ。他の者はどうする?」


「私はまだ食べてますので遠慮します。バッカスは馬は好きではないので行かないかと思います」


「勝手に俺の返事をするな」


「バッカス殿はどうする?」


「……ここに残ります」


「ショーンは……護衛なら残るな」


「はい。メイ様のお側を離れるわけには行きませんから」


「じゃあ少しだけグラッシス嬢を借りるな」


アールドが立ち上がったのでマリーも立ち上がる。


「ちょっと行ってくるね!」


2人は丘の下で静かに待っている白馬の元に歩いていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ