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花見の前に4(sideアーノルド)

バッカスが訪ねてきのは4月になってからだった。


王太子の執務室には限られた人物しか入ることは赦されない。


そのためバッカスは秘書課を通してアーノルドに用事があると連絡してくれたようだ。


花見のことに違いない。


アーノルドは自身の客人を招く自分専用の応接室に通すように伝えてから、カイサスに席を外すことを伝えて応接室に急いだ。


マリーの姿が脳裏を掠める。


ポニーテールが揺れて楽しそうに会話をする彼女の姿だ。


と言っても彼女の笑顔が自分に向けられたことはないが。


接客スマイルなら何度も見ているが、アーノルドに向けて純粋な笑顔を向けられたことはない。


その笑顔は自分以外に向けられている。


その事に何故か胸が痛んだがその理由はアーノルドにはわからなかった。


応接室の扉を開けるとバッカスが所在なさげに座っていた。


アーノルドを確認すると慌ててソファから立ち上がる。


そして綺麗な礼をした。


「待たせてすまない」


アーノルドはそういいながら向かいのソファに腰かけた。


「バッカス殿も座ってくれ」


「は、失礼します」


バッカスも座る。


「今日、私に用があると聞いたのだが」


「はい、あの……この間話していた花見の日程が決まりましたのでお伝えに参りました」


「そうか。詳細を聞いても?」


アーノルドが聞くと


「もちろんです」


とバッカスは笑った。


「日時は土曜日の11時からと決まりました。場所は街の広場の奥にある大きな公園なのですが……わかりますか?」


「噴水の向こう側にある場所か?」


「そうです!その公園の中央あたりに花畑があります。その花畑を見渡せる小高い丘がありまして、その丘の上にある大きな木の下が待合せ場所です」


アーノルドは騎士の頃に街をよく巡回していたのですぐに検討がついた。


「あの場所か。眺めのいい場所だな。三ツ星丘と名がついていたか」


「その丘です!その場所に11時となりました。持ち物は特にありませんが………その………あまり豪奢な馬車で来られない方がいいかと」


「侯爵家の家紋付の馬車だと確かに目立つな。馬ならいいか?」


「はい!では花見に参加できるということでしょうか?」


バッカスに言われてアーノルドは頷いた。


「15時過ぎから執務があるため途中で退場するかもしれないが」


「畏まったものではありませんので、退場は自由です」


バッカスがニカッと笑う。


裏表の無さそうな男だな、とアーノルドは思った。


「侍女はいないとのことだが、昼食はどうするのだ?」


「ああ!それなら問題ありません。マリーが作ってくれますから」


「グラッシス嬢が?」


「はい!マリーのサンドイッチは絶品なんですよ」


「手作りか……」


アーノルドの呟きにバッカスはハッとした。


「もしかして、毒味なしでは食べれないとかですか?」


「そういうわけではないのだが、料理人以外の料理を食べたことがなくてな」


「毒味役は私がしますので安心してください。美味しいのでぜひベデル様にも食べて頂きたいです」


アーノルドは小さく頷いた。


「とても楽しみだ」


「あ……ここでの話はマリーには秘密でお願いします」


「どうしてだ?」


「ハードルを上げた!って怒られてしまいます」


バッカスの言葉にアーノルドは笑った。


「仲がいいんだな」


「友人ですから」


バッカスの言葉に自分もこれくらいマリーと親しくなれたらいいなとアーノルドは思った。


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