花見の前に2
「おや、バッカス様は帰ったのかい?」
奥で作業をしていたジョージが戻ってきた。
「うん」
「花見の日程が決まったのかな?」
「今度の土曜日だって。行っても大丈夫よね?」
「もちろん。ただ、土曜日お渡しの眼鏡がたくさんあるから、ある程度作ってくれたら助かるが」
「それはちゃんとするわよ。土曜日はサンドイッチ作らないといけないから1日仕事出来ないし」
「メンバーは何人なんだい?」
ジョージに言われてマリーは苦笑した。
「ベデル様も来るんだって。カータス様も来るからメイの護衛も含めて6人。結構な人数になっちゃった」
「リンドール家とベデル家が一緒になるなんて、社交界でも珍しいぞ」
「そうよね。私でさえ両家の確執は知ってるのに」
マリーはため息をついた。
「ベデル様、どうしても私と仲良くしたいんだって。変な人」
「ははは……みんな大人だし、大きな問題は起きないと思うが……マリー、くれぐれも前世の記憶を持っていることは言ってはいけないよ」
ジョージに言われてマリーはうなずいた。
「わかってるわ。私が利用されないように、でしょ?でも私の持ってる記憶なんてたいしたことないよ?前世も眼鏡屋の娘で眼鏡の販売をしていたくらいしか覚えてないのに」
「マリーにとってはたいしたことなくても、その記憶は王家にとったら魅力的なんだ。君の前世はこことは違い、『カガク』というものもが発達していたんだろ?」
「ええ。電気が通っててガソリンで動く車があって……スマホっていう通信機器もあったわ」
「電気は魔道具のライトがあるが、移動は馬車で伝達は手紙のこの世界とは大きく違う。その記憶が国の発展に大きな力を発揮する可能性を秘めているんだよ。だから特に王家に近いベデル様と王家に反発していたリンドール家にはしられないほうがいい」
「それ、おじいちゃんの受け売り?」
ジョージは笑った。
「そうだな。我がグラッシス家最大の異端児だった父の受け売りだ。父も前世の記憶を持っていたからね」
「やっぱり!おじいちゃんの発明品の度数測定器も視力検査器も前世にあったもの!オートレフとレンズメーター」
「きっと父も眼鏡に関する職に前世は就いていたんだろうね。詳しい話は聞いてないけど」
「おじいちゃんが生きてたら色々おなはししてみたかったなぁ」
ジョージは微笑むだけで何も言わなかった。
「とりあえずこの話は誰にもしてないから安心して。お父さんしか知らないよ」
「その方がいい」
「でもどうして前世の記憶なんてあるのかしら?」
「詳しいことはわからないが、この国には定期的に前世の記憶保持者が現れるみたいだよ。特にグラッシス家は多い。父にマリー、その父の祖母も前世の記憶があったらしいからね。そして代々国に秘密にしているそうだ」
「国に貢献する気のない一族ね」
「まぁ、記憶保持者であることがわかると、その人物は国の保護下におかれてしまい、自由に生きられなくなるからね。我が家に限らず黙っている人は多いよ。ライトを発明したバッカス様のご先祖も記憶保持者だったのではと言われているよ」
マリーは小さくうなずいた。
「不自由な生活なんて嫌だものね。気を付けるわ」
「用心にておきなさい。そう言えばさっきお母さんがマリーを呼んでいたよ」
「なんだろう?ちょっと工房に行ってくるね!」
マリーは工房の方へかけていった。




